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月明かりの魔法店  作者: 神楽一斗


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21 魔法店の交流会

 石橋さんを送り出すと、ちょうど時計の針が午後九時を指した。一応、規定の上では閉店時間だ。お店の入口のプレートを裏返して『CLOSE』にしてから、わたしはちょっと考えた。ここは偶然通りかかるような場所ではないし、実際、一日に二人以上のお客さんが来た記憶はない。

 わたしはどうやってこのお店のことを知ったんだっけ。マナを治す魔法を得るために必死だったとはいえ、何故か思い出せない。


 中に戻ると、マナがミコトさんと話していた。

「遅くまで、どちらに行かれてたんです?」

「四半期に一度の店主会議に出席してきたのですよ」

「店主……って、魔法店の?」

 ミコトさんがゆっくりとうなずく。他にも魔法店があるということだろうか。初耳だった。

「そうそう、交流会があるので、皆さんもいらっしゃいませんか?」

 そう言って、ミコトさんがチラシをテーブルの上に置いた。

「他の魔法店の皆さんと親睦を深めるお食事会です。わたしも初回から参加しています」

 わたしも一緒にチラシを確認する。『第八十回全国魔導師協会支店交流会』とある。四半期に一度ということは、今年で二十年目。

 ちらりとミコトさんの顔を見る。初回から参加しているというミコトさんは、一体いくつなのだろう。


「次の土曜日なら、空いてますけど、わたしたちが行ってもいいんですかね」

「もちろん。マナさんたちも従業員ですから。美味しいご馳走が出ますよ」

 ミコトさんが言うと、マナは拳を握った。

「行きましょう。今すぐに」

「土曜日って言ってるでしょ」

 元気になったのはいいのだが、我が妹ながら、こういう所が恥ずかしい。ハルカちゃんの方がよっぽど落ち着いている。


 土曜日、わたしたち四人は、ミコトさんの魔法で交流会の会場へやってきた。

「ここ……ですか?」

 そこは、有名な高級ホテルだった。ロビーの案内に、魔導師協会交流会と書かれているので間違いはないのだろう。しかし、堂々と魔導師協会などと書いて、怪しまれないのだろうか。

「三階の鶯の間ですね。先に受付を済ませていて下さい。『関東第一支店』で伝わりますので」

 ミコトさんが何処かへ行ってしまったので、三人でエスカレーターに向かう。


 会場前に設けられた受付で、ミコトさんに言われた通りに告げると、中に案内された。

「うわぁ」

 マナが声を上げる。結婚式の披露宴でも使いそうなパーティ会場には、二百人以上の人が席に着いていた。

「これ全部、魔法店の関係者?」

「交流会なんだから、そうなんでしょ」

 案内されたのは、部屋の一番端の席だった。テーブルの上に『関東第一支店』の札が置いてある。大きめのテーブルなので、三人で座ると間隔が空いてしまってなんとなく心細い。他のテーブルを見ると、どこも八人前後はいるようだ。

「うちの支店って小さい方なのかな」

「どうだろう。お店の規模からしたら、大きくはないよね」

 そもそも、わたしたちがミコトさんのお店で働くようになるまで、従業員はいなかったのだ。


「皆さん、ようこそお集まり頂きました。これより交流会を始めます」

 タキシードを着た男の人が、よく通る声でマイクに向かって司会を始めた。

「まずは、会長より、ご挨拶を賜ります」

 盛大な拍手に迎えられて壇上に上がったのは、他ならぬミコトさんだった。


「本日は沢山のご参加、ありがとうございます。我々魔導師協会も、今年で設立から三十周年を迎えます。ここまで続ける事が出来たのも、ひとえに皆様のご尽力があっての事です。心より御礼申し上げます」

 三十周年というのが長いのかはわからないが、少なくともわたしが生まれる前から存在しているわけだ。

「この交流会も八十回を数えることになりました。新たに仲間に加わった皆様も、ぜひ親睦を深めて頂き、次の三十年に繋げていければ幸いです」

 ちらりとミコトさんがこっちを見たような気がした。親睦を深めると言っても、周りがどういう人たちなのかもわからない。


 ミコトさんの挨拶が終わると、中央のテーブルにバイキング形式の料理が用意された。料理を取りながら、交流していくスタイルだろうか。

 少し人見知りがちなわたしが躊躇していると、マナが軽い足取りで中央テーブルへ向かった。座っていても仕方ないので、ハルカちゃんを連れて後に続いた。


「わあ、可愛い。ミコトさんのお店の方ですね?」

 料理に目移りしていると、ハルカちゃんを見つけた若い女性が声をかけてきた。落ち着いた水色のドレスを着た、ショートボブの女性。二十代だと思うが、髪型に加えてと目が大きくて童顔なので、高校生ぐらいに見えなくもない。

「わたしは関東第二支店の店主、ユカリといいます」

 彼女は丁寧に頭を下げてきたので、わたしたちも自己紹介した。


「あなたがアヤさんですか。ミコトさんから聞いています。凄い逸材を見つけたって」

 ユカリさんはそう言って、わたしの顔をまじまじと見た。

「それ、本当にわたしの事ですか?」

 わたしはミコトさんに評価されているのだろうか。少なくとも、わたし自身にはそういう印象はなかった。

「そのうち、店主を任せてもいいって仰ってましたよ」

 わたしが魔法店の店主をやるなんて、考えた事もなかった。わたしは代価を払うために働いているに過ぎないのだから。


「最近、魔法の発動速度が落ちましてね」

「私もですよ。年ですかねぇ。いっそ、若返りを試してみようかなんて考えることもありますよ」

「しかし、この年で寿命が縮むのは勇気がいりますしね」


 魔導師が集まる交流会だから当然なのだが、周囲から自然に超自然的な会話が聞こえてくる。わたしも魔導師の一員なのだと、改めて自覚させられる。

「アヤさん、あなたが契約した魔法は何ですか?」

 ユカリさんはとても柔らかい雰囲気のある女性で、緊張していた気持ちを和やかにさせてくれた。

「わたしは、治癒の魔法を少々」

「なるほど、店主向きの魔法ですね」

 ユカリさんは勝手に納得しているが、店主に向く魔法ってどういう概念だろう。

「じゃあ、ユカリさんは何の魔法を?」

 隣で骨付き肉をかじっていたマナが聞いた。

「わたしはいわゆるテレパシー的なものを」

「あはは、それだと超能力っぽいですよ」

「うふふ、そうですね」

 なんだか二人が意気投合し始めた。物怖じしないのは、マナの長所でもある。


 改めて会場にいる人達を眺めてみる。何も知らなければ、普通のパーティにしか見えない。

「ここにいる人たちは、皆さん魔法を使えるんですよね」

「ええ、ミコトさんと長期的な契約をすることが、従業員の条件ですからね」

「……ミコトさんと、というのは?」

 わたしはユカリさんの表現が少し引っかかった。

「あれ? 契約書にサインされたんですよね?」

 確かに、わたしも代価と引き換えに魔法を使う契約をした。

 契約書に書いてあったのは、魔法を使うための条件や代価のこと。二百日相当の労働を対価に、治癒の魔法を行使できるようになること。納得した上で、わたしに続いてミコトさんもサインをした。

「次の者との契約を結ぶものとする。契約書にはそう書いてあったはずですよ。唯一の魔導師であるミコトさんに、魔法を使う許可を頂くということです」

 わたしは混乱してきた。つまり、魔導師とは本来はミコトさん一人しかおらず、ここにいる人達は、ミコトさんに魔法を使わせてもらっているに過ぎないと。

「ミコトさんは、あなたに跡を継いでもらいたいみたいですよ。アヤさんは、次代の魔導師候補ですね」

 ユカリさんはそう言って、にっこり微笑んだ。

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