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月明かりの魔法店  作者: 神楽一斗
19/45

19 記憶の残り香①

 昔々、竹の中から生まれた美しい姫は、五人の求婚者たちに難題を出し、退けた。姫は月の世界に帰ったとされるが、その後の姫は幸せになったのだろうか。


「何、たそがれてるの」

 お店の窓から空を眺めていたわたしは、マナがいつの間にか隣にいたことに気づかなかった。店から見えるあの月は、月ではないのだという。

「このお店が月の上にあったなんて、信じられなくて」

「魔法が存在するんだもの。わたしはこのぐらいのことじゃ、驚かないよ」

 マナが言うと、背後で鐘のような音がして振り向いた。

「ぎゃあ」

 マナが叫んで、腰を抜かしたように座り込んだ。恐ろしげな怪物の顔があったからだ。

「ビックリした?」

 怪物のお面の下から、ハルカちゃんの顔が現れて、ちろっと舌を出す。

「それ、どこにあったの?」

「ミコトさんの机の上だよ。これと一緒に」

 ハルカちゃんはハンドベルのような物を手にしている。

「どこかのお土産かな」

 ミコトさんは只今お出かけ中だ。わたしたちは留守番で、お客様が来たら待ってもらうようにと言われている。

「ミコトさんって謎だよね」

「うん、このお店の最大のね。正体はかぐや姫だったりして」

「あはは、かぐや姫は日本人でしょ」

「いやいや、ミコトさんも日本人……だとわたしは思ってるけど」

 改めて思い出してみると、ミコトさんの風貌は日本人離れしている。艶のある黒髪に、ミステリアスな瞳。いつもエキゾチックな占い師のような服装なので、中東系の匂いがしなくもない。


 そんな話をしていると、今度は入り口の鈴が鳴った。入ってきたのは、ミコトさんではなく、若い男の人だった。

「あのう、こちらは魔法店でよろしいんですよね」

 彼は少し気後れした様子で店の中を見渡した。

「ええ、どうぞ。店主が出かけているので、お座りになってお待ち下さい」

 わたしが応接用の椅子に案内している間に、マナがお茶の用意を始め、ハルカちゃんがテーブルを布巾で拭く。狭い店内に三人の従業員は多すぎる気もするが、家族経営みたいで少し嬉しくなる。

「あ、それは」

 彼は、ハルカちゃんがテーブルから片付けようとした例のお面を見て、声を上げた。

「このお面が何か?」

「お願いしていた物、見つかったんですね! 良かった」

「お客様の物ですか?」

 彼にお面を渡すと、ホッとした様子で胸を撫で下ろしている。

「父の形見なんですよ」

 こんな不気味なお面が形見なんて、どんなお父さんなのだろう。

「父はいわゆる、UMA(ユーマ)を探す冒険家なんです」

「ゆーま? 未確認生物のこと?」

 流石、博識のハルカちゃん。興味があるらしく、目を輝かせている。


 石橋コウジと名乗った彼は、お面にまつわる伝承を聞かせてくれた。

 『使者のお面』を身につけ、夜空に向かって『約束の鐘』を鳴らすと、それを合図に『アカガイ』が現れるという。

 オカルト的な伝承のようだが、彼のお父さんは、そんなものを本当に信じていたのだろうか。

「仰りたいことはわかります。でも、父は本気だったんですよ」

 お面を見つめて彼は言った。

「『アカガイ』って?」

「僕も結構調べたんですが、詳しいことはわからないんです。伝承自体の出どころも不明で。動物かも知れないし、もしかしたら宇宙人なのかも」

 いよいよ怪しい話になってきた。

「子供の頃、『アカガイ』を見るために、父と何度も出かけました。このお面は思い出深い品なんです」

 お面と鐘は質に入れられていたらしく、長い間所在不明となっていた。依頼を受けて、ミコトさんが見つけてきたようだ。

「ねえねえ、アカガイ、見つけに行こうよ」

 ハルカちゃんが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、彼の服を引っ張った。

「いや、見つけに行くと言っても、条件があるからね。まず、星が見える高い場所じゃないといけないし。今から行くのは……」

「ふふふ、そういうことなら、お任せ下さい。ここは魔法店ですからね」

 マナが腰に手を当てて胸を張るので、わたしはため息をついた。

「マナ、ミコトさんに待ってるようにって言われてるでしょ」

「大丈夫だよ、書き置きしとけば」

 そう言って、マナはテーブルの上のメモに走り書きをした。


  石橋様がいらっしゃいましたので

  少し接待をして参ります

               マナ


「接待って」

「魔法体験は接待の内でしょ。いいからいいから」

 マナは強引にわたしたちを近くに集めると、瞬間移動の魔法を発動した。

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