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月明かりの魔法店  作者: 神楽一斗
17/45

17 見果てぬ夢②

 安全地帯の魔法は、自身の周囲に絶対に安全な領域を作り出す魔法。使用者が生存するために必要な空気などはもちろん、危害を加えようとする者も外へ弾き出す魔法だ。

 それは宇宙空間だろうと、例外なく発揮される。とは、言ったものの。それが本当かどうか、どうやって証明すればいいのだろう。魔法辞典にそのように書いてあると言っても、宇宙空間で試してみない事には証明にならない。やってみて、失敗しましたでは済まされないのだ。


「なるほど、安全地帯の魔法ですか」

 山野さんもそのあたりを考えているようで、しきりにヒゲを触っている。

「おじいちゃん、心配なら、試してみる?」

 様子を見ていたハルカちゃんが聞いた。彼女の魔法のヘアピンの宝石は真紅に染まっている。

「試せるのかい?」

「わたしに任せて」

 ハルカちゃんが天井を指して魔法を使おうとしたそのとき、マナが声を上げた。

「待って、ハルカちゃん。その魔法、わたしにかけて」

「マナさんに? いいけど」

 ハルカちゃんはマナを指差して、その指をぐるぐると回した。マナの身体がほんのり青いオーラに包まれる。

「わたしが山野様の安全を、身を持って証明します。どうぞ、お手を」

 マナは山野さんに手を差し伸べた。先走った失敗を取り戻そうと必死のようだ。山野さんもその辺りを汲んでくれたのか、笑いながらマナの手を取った。

「お姉ちゃんは、見届人ね。よろしく」

「え」

 マナはわたしの肩に手を乗せた。またしても、わたしはマナの魔法によって強制的に瞬間移動させられた。


 宇宙空間で生存するために必要なもの、その一。空気。

 マナは川がある公園にわたしたちを連れてきた。普段なら子どもたちが水遊びをしているが、日が暮れているので誰もいない。

「見ててくださいね」

 マナがゆっくり池に入っていくと、マナを中心に円形に水が避けていく。川の中心まで行くと、その広さと形がわかる。半径約五メートルくらいの球形。内部は明るいままなので、川の中にガラス張りの部屋があるように見える。

「お姉ちゃん、こっちに入れる?」

 マナに手招きされ、光のドームにそっと触れてみる。抵抗なく中に入れそうだった。山野さんと一緒に足を踏み入れると、外側の水中に魚が泳いでいるのが見える。ちょっとした水族館気分だ。

「なるほど、触れても水が入ってこない」

 山野さんはドームの内側から水をつついて確かめていた。


 宇宙空間で生存するために必要なもの、その二。気圧。

 マナが瞬間移動をすると、わたしたちの目の前の景色が急に白くなった。

「二人ともドームから出ないでくださいね」

「ここどこ?」

「南極の最高峰の山、ヴィンソン・マシフです」

 どこだろう、それは。わたしは周りを確認した。辺り一面の雪景色、そして眼下に見える雲海。日本では無さそうなことは確かだ。

「本来は許可を取る必要があるらしいですけど、魔法下にいるということで、少しだけ許してもらいましょう」

「ほう、ヴィンソン・マシフとは、また懐かしい」

 山野さんがつぶやいた。

「こんなところに来られたことがあるんですか」

「大分昔の話ですがね。ここは五千メートル近い標高がありますから、確かに気圧もそれなりに低いはず」

 そう言って、山野さんは腕時計をいじった。気圧計などが付いているもののようだ。

「なるほど、この場所でも気圧はほぼ一気圧を保っている」

「ですよね?」

 マナは少し嬉しそうに顔をほころばせた。

「あとは、宇宙線の問題ですな」

 喜んでいたマナの表情があっという間に曇った。


 宇宙空間で生存するために必要なもの、その三。防護。

 試しにドームの外側から拾った石を投げてみると、ちゃんと光の壁に弾かれた。こういう物理的な防護機能は備わっているのは確かめられるのだが、宇宙線の防護となると、どう確認すればいいのだろうか。

 わたしたちが困っていると、山野さんが助け舟を出してくれた。

「気圧と同じで、放射線測定器のようなもので計測を行えば、確かめられるかも知れないですね」

「それ、どこに行けば買えますか」

「測定器なら、私の家にありますよ」

「良かった! お借りできますか?」

 マナの真剣な様子を見ていた山野さんは、笑いだした。

「いや、確かめなくても大丈夫でしょう。この魔法は恐らく月でも通用する」

「なぜ、わかるんです?」

「ヴィンソン・マシフで気圧計を見たとき、数値が奇妙なくらい一定を保っていたんです。それこそ、数千分の一気圧も狂わないレベルでね。生存に必要な空間を維持する、強い力が発揮されていると確信しました」

 マナはホッとしたのか、しゃがみ込んでしまった。

「お嬢さん、ありがとう。あなたが私のために必死になってくれたからこそ、信じてみたくなったんですよ」

 そう言って、山野さんは、マナの肩に手を置いた。

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