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転生ジーニアス シリーズ

ジルとブリュンヒルデの大冒険 ~初めての黒の森探検~

 ジルはフリードリヒ親衛隊の魔女イゾベル・ゴーディの使い魔の黒猫である。体格は雌猫らしく小柄で、普通の黒猫とは違う艶々(つやつや)と黒光りする毛並が一際ひときわ美しいのが特徴だった。


 イゾベルの仕事はロートリンゲン大公フリードリヒの警護であるが、大公の命を狙うものなどそうはいない。また、大公自身が極めて高い戦闘力の持ち主なので、仕事ははっきり言って暇だった。

 その使い魔であるジルも特に何を命じられるわけでもなく、暇を持て余していた。


 この城のボス猫はティーガーという太った茶虎柄の雄のケットシーで、人族に対してはこびを売っていて人気者であるが、同族の猫に対しては威張いばりくさっていた。


 ジルはティーガーを避けながら今日も城中を探検する。


 ジルにはお気に入りの場所がある。

 それはフリードリヒの膝の上であった。どうも雌猫というのは人族についても男にかれる性質があるらしい。


 ジルは政務の合間を見つけては、フリードリヒの膝の上で惰眠だみんむさぼるのを無上の楽しみとしていた。


 フリードリヒの方も嫌いではないらしく、ジルが膝の上に乗ると優しく撫でてくれる。フリードリヒは猫の気持ちよいところを心得ていて的確に刺激してくれる。

 ジルは猫でありながらフリードリヒのことを恋人のように思っていた。


 一方のフリードリヒもジルと過ごすひと時を楽しんでいたが、いじり倒していくうちに恍惚こうこつとなり、本能で交尾の姿勢を取ってしまうジルを見ると、浮気をしているような微妙な気分にもなっていた。


 ──これは猫だ。猫と遊んでいるだけだ…


 必死に自分に言い聞かせるフリードリヒであった。


 実はフォーンを眷属けんぞくにしてから動物と意思疎通ができるようになっていたので、ジルの気持ちは痛いほどわかっていたのだ。

 しかも、動物の意思というのは人間よりもより本能に近く、直接なだけに刺激も強かった。


    ◆


 そんなフリードリヒも公私に忙しく、ジルとの時間は十分にはとれない。


 ジルは暇を持て余して城を彷徨さまよううちにある人族の少女を見つけた。

 それはフリードリヒの娘のブリュンヒルデだった。


 ブリュンヒルデは部屋で本を読んでいた。

 その横顔をじっと見つめるジル…


 ──あの人に似ている…


 容姿はもちろんだが、魂の波動みたいなものがあの人を彷彿ほうふつとさせる…

 そうか。この子はあの人の娘なのだ。そうに違いない。


 そのときブリュンヒルデがジルに気づいた。

 ジルに恐怖を与えないように、そっと近づいてくる。


「こんにちは。猫ちゃん。きれいな毛並みね。可愛いわ」

 とブリュンヒルデが話しかける。


「!!!」ジルは仰天ぎょうてんした。

 しゃべっている意味がわかるではないか…


 この娘はあの人と同じようにテレパシーが飛ばせるのか!?


『毛並を清潔に保つのは猫の基本なのよ』とジルはテレパシーで答えてみた。


『あら。あなた。言葉が話せるのね』

 ブリュンヒルデは少し驚きながら答えた。


『私は魔女イゾベル・ゴーディの使い魔のジルよ。そこらの野良猫と一緒にしないで』

『まあ。使い魔なんて初めてだわ。何ができるの? 魔法とか使える?』


『何が…って、魔法は使えないけど…。しゃべれるくらいかな』

『それだけでもすごいわ』

 ブリュンヒルデはキラキラした目でジルを見つめている。


『いや。それほどのことでは…』


『ねえ。体に触ってもいい?』

『いいけど、優しくね』


『わかったわ』

 ブリュンヒルデはそっと手の甲でジルの体をでる。


『あなた変わった触り方をするのね。あの人みたい…』

『お父様に教えてもらったのよ。てのひらよりも手の甲の方が敏感に感じられるんですって』


『まあ。親子は似るっていうけど…』

『いや~ん。柔らかくてフワフワ。気持ちいい』


『ねえ。頬ずりしてもいい?』

 ブリュンヒルデの要求がエスカレートしていく。


『もう。しょうがないわねえ』


 ブリュンヒルデは、ジルにそっと頬ずりをする。


『あ~ん。気持ちいい。いい匂い』


 ──えっ。匂いまで嗅いでいるの!


『わ、私。臭くないわよね?』

『とってもいい匂いよ』


 ──よかった。


 それからジルは暇があるとブリュンヒルデのところに出入りするようになった。


 いろいろ話しているうちに、ブリュンヒルデは魔法も使えることがわかった。


『え~っ! 魔法も使えるの? どの属性?』

『一応は全部…かな』

 ブリュンヒルデが少し照れながら答える。


『クアトルってこと?』

『それだけじゃなくて、光と闇なんかも』


 ──イゾベルより凄いじゃない!


『もしかして空も飛べるの?』

『魔法の杖があれば飛べるよ』


『えっ! ほうきじゃなくて?』

『杖だよ』


『私。久しぶりに空のお散歩がしてみたいかも…』

『いいわよ。じゃあ。杖を取ってくるね』


 ジルは杖を見て目を見張った。何と立派で高貴な魔力に満ち溢れた杖なのか…


 それを見たブリュンヒルデが自慢する。

『えへへっ。良いでしょう。お父様が世界樹ユグドラシルの枝で作ってくれたのよ』


 ──世界樹ユグドラシルの枝って簡単にいうけれど…


 ジルは開いた口が塞がらない。


 気を取り直して、ブリュンヒルデは外に出ると、杖にまたがった。杖の前の方にジルがちょこんと座る。


『あれっ! 飛行薬を忘れてるわよ』

『何それ? そんなものなくても空は飛べるよ』


 ──そっか。悪魔と契約した魔女じゃないんだった…


 杖は一気に空を駆けのぼっていく。

『久しぶりの空の上。気持ちいい』

『こうやって上からお城を眺めるとなんだか偉くなったみたい』


 こうして空のお散歩はジルとブリュンヒルデの日課となったのだった。


    ◆


 今年も5月になる前夜、すなわちヴァルプルギスの夜がやってくる。その夜は死者と生者との境が弱くなる時間だといわれる。


 地上では、生者の間を歩き回るといわれる死者と無秩序な魂を追い払うためにかがり火がかれる。


 ヴァルプルギスの夜には、ドイツ中の魔女たちが黒の森(シュバルツバルト)の最高峰であるブロッケン山に集まり、合同サバトを繰り広げるのが慣例となっている。

 この特別な時に行われるサバトは魔女の能力を維持していく上で不可欠であり、フリードリヒ親衛隊の面々もこれをすっぽかすわけにはいかなかった。


 そしていよいよ今夜はヴァルプルギスの夜。


 イゾベルと一緒に黒の森(シュバルツバルト)を訪れたジルは、初めての黒の森(シュバルツバルト)にワクワクしていた。

 初めて見る黒の森(シュバルツバルト)は、広大で、マナのパワーに満ち溢れ、それに伴って見たこともない魔獣や妖怪の類が多数生息している。


 見るもの全てが新鮮で、あちこちキョロキョロと見回してしまった。

 もともと住んでいたスコットランドも神秘的な土地ではあったが黒の森(シュバルツバルト)のような場所はなかった。


 同じように魔女に従って集まった使い魔たちから情報を収集することにする。

 使い魔たちは、猫、からすなどの鳥、かえるいたち、子豚、ヒヨコ、ゴキブリなどさまざまだ。


 早速、ジルは姉御肌のからすと仲良しになった。使い魔としてはかなりベテランのようである。


『あんた。黒の森(シュバルツバルト)は初めてかい?』

『最近、スコットランドから来たんです。ここは初めてですが、すごいところですね。見たこともない魔獣や妖怪がいっぱいいます』


『ここは世界でも有数なマナの湧出地なのさ。だから、それを求めて魔獣、妖怪から神様まであらゆる者がやってくる』

『へえ。もっといろいろ見物してみたいな』


『強力な魔獣、妖怪も多いからね。あんた1人では無理だね』

『じゃあ。ご主人に頼んでみようかなあ』


『魔女でも1人じゃあきついだろうね』

『ご主人は魔法がかなり得意なんだけど』


『それでもさ。黒の森(シュバルツバルト)を甘く見ない方がいい』

『う~ん。残念だな…』


 やがて夜明けが近づき、サバトがお開きになると、ジルはフリード親衛隊の面々とともにナンツィヒに帰還した。


    ◆


 ジルはナンツィヒに戻るとブリュンヒルデに黒の森(シュバルツバルト)の話をした。


黒の森(シュバルツバルト)の話なら聞いたことがあるわ。お父様が冒険者時代に通っていた森ね。そんなすごい場所だったのね。なんだか私も行ってみたくなっちゃった』

『でも、強力な魔獣や妖怪がいるから危ないって』


『お父様も一番最初はパールしか連れていなかったって言っていたわ。森の浅いところなら大丈夫なんじゃないかしら』

『でも、ちゃんとした大人に付いていかないと危ないよ』


『お父様もお忙しいし、そんなことを言っていたらいつになるかわからないわ』

『いや、しかし…』


『そうだ。リーンハルトを連れていきましょう。彼なら強いから安心よ』

『リーンハルトだって子供じゃないか。子供だけなんて無理だよ』


『大丈夫よ。じゃあ。リーンハルトを呼んでくるね』


    ◆


 リーンハルトは今日もアダルベルトと剣の訓練をしようと部屋を出たところ、突然誰かに背後を取られた。


「誰だっ!」

「しーっ。大きな声を出さないで」

 ブリュンヒルデが小声でささやく。


「ヒルデ様?」

「これから黒の森(シュバルツバルト)へいくわよ。付いてきなさい」


「これから? しかし、これからアダルベルト様と剣の訓練が…」

「そんなのお腹が痛いとか適当なことを言って断りなさいよ」


「しかし…ですね…」

「私とアダルベルトのどっちが大事なの?」ときつい目でにらむブリュンヒルデ。


「はーっ。わかりました…」


 リーンハルトはアダルベルトのところへ行くと、正直にブリュンヒルデ姫の世話があるので訓練ができないと告げた。


 ふと見ると物陰からブリュンヒルデが様子をうかがっている。


 ──姫様。何かたくらんでいるな…


 だが、アダルベルトも第2騎士団長になってから何かと忙しい。

 折よくフリードリヒが作ったホムンクルス3姉妹の長女マリーとすれ違ったので、2人をこっそりと見守るよう頼んだ。


「わかりましたわ。ブリュンヒルデも何を考えているのやら…」


    ◆


「ヒルデ様。アダルベルト様の許可を得てきました」

「気づかれなかったわよね」


「何をですか?」

黒の森(シュバルツバルト)へ行くことよ」


「それは話していません」

「ならいいわ」


 するとちょうどそこへジルがやってきて、ブリュンヒルデの足に頭をこすりつけている。


「じゃあ。ジルといっしょに行くわよ」

「えっ。その猫といっしょですか?」


「そうよ。黒の森(シュバルツバルト)のことはジルが教えてくれたの」

 と言うとブリュンヒルデたちは物陰へ移動した。


「ジルの言うとおり黒の森(シュバルツバルト)は危ないところだから、いきなり行くのは危ないと思うの。まずはバーデン=バーデンの町へ行っていろいろ調べてみましょう」

「さすがヒルデ様。それがいいと思います」


「じゃあ。リーンハルト。目をつぶって」

「えっ!」


「いいから。早く」

「はい」


 リーンハルトは素直に目をつぶった。

「もういいわよ」というブリュンヒルデの声に目を開けると、知らない町へ来ていた。

 もちろんブリュンヒルデがテレポーテーションしたのだが、リーンハルトには何が起きたか全くわからなかった。


「これはいったい…」

「細かいことは気にしないで、魔法みたいなものよ。

 さあ、冒険者ギルドはどこかしら」


「私が聞いて参ります」

 リーンハルトは通行人に冒険者ギルドの場所を訪ねた。


「こちらのようです」とブリュンヒルデをリーンハルトが先導する。腕にはジルを抱いていた。


黒の森(シュバルツバルト)の一番わかりやすい地図を買ってきてちょうだい」

「かしこまりました」


 テキパキとマメに用事をこなすリーンハルトはまるでブリュンヒルデの舎弟のようだ。


「買ってまいりました」

「ありがとう」


 早速ブリュンヒルデはリーンハルトといっしょに地図を見た。

「魔獣の分布まで書いてあるわ。いい地図を選んでくれたわね」


 リーンハルトは照れて赤くなっている。


「じゃあ。ここの入り口からまずは森の浅いところを探索してみましょう」

「はい」


 まずは、一角ラビットのむれに遭遇した。

 動きが素早いので近づいて剣で仕留めるのは難しそうだ。


「ヒルデ様。すみません。弓を持ってくればよかったですね」

「じゃあ。私が魔法でやってみるわ。

 水よ来たれ。氷の矢。アイスアロー!」

 ブリュンヒルデは無詠唱の練習中で完全には会得えとくしていなかった。


 氷の矢は見事に命中した。

 傷ついた一角ラビットをリーンハルトが素早く仕留める。


 しかし、素早く動く一角ラビットに矢を当てるのは難しく、その後は2回に1回くらいしか命中しない。


 意地になったブリュンヒルデはどんどん森の奥まで一角ラビットを追っていく。

「ヒルデ様。あまり奥まで入っては危険です!」

 とヒルデに呼びかけたリーンハルトの顔を土の轢弾がかすめた。


 ソイル・モールのむれあらわれたのだ。


『リーンハルトが危ないわよ』とジルに指摘され、ブリュンヒルデはようやく状況を認識した。


 こうなったら少し本気で行くしかない。

「リーンハルト。下がりなさい。

 炎よ来たれ。火炎の矢(ぶすま)。レインオブファイア!」


 炎の矢の雨がソイル・モールを襲う。

 何匹かが仕留められ、かなわないと見たソイル・モールのむれは逃げて行った。


「ふう。なんとかなったわね」

「ヒルデ様。森の浅いところでこれなのです。やはり黒の森(シュバルツバルト)は危険です」


「わかったわ。でもそろそろ昼だから昼食を食べてからに撤退しましょう」

「昼食ですか?」


「さっき仕留めた一角ラビットがあるじゃない。あれを食べるのよ」

「しかし、料理法などを私は知りませんが…」

「とりあえず皮を剣でいで丸焼きにすればいいんじゃない?」


 ──姫様。そんな大雑把な…


「わかりました。やるだけやってみます」


 リーンハルトは苦労しながら一角ラビットの皮をぐと木にくくり付け、焚火たきびで焼いていく。


「もっと近くで焼いたら早くできるんじゃないの」

「いえ。それだと表面だけ焦げて中に火が通りません。遠火でじっくり焼く必要があります」


「へえ。そんなものなの。あなたに任せるわ」


 しばらくして、焼き上がり。二人で食してみる。

 が、不味い。血抜きもしていないし、調味料も香辛料もつけていないから肉の臭みが鼻を突く。


 だが、ジルは気に入ったらしく、ガツガツと肉にむさぼりついている。猫は生に近い方がおいしいのだろう。


 2人でようやく一匹を平らげた。これで満腹とはいかないが、おかわりをする気にはなれない。


「まあ。最初はこんなものよ」

 とブリュンヒルデが負け惜しみを言った。


 と、その時、周囲をビッグウルフの群に囲まれていることに気づいた。


 そういえば、先ほど仕留めたソイル・モールの死体を放置したままだった。その血の臭いにつられてきたのだろう。

 森の中ではこういうことに神経を使わないと命取りになるのである。


「炎よ来たれ。高熱の火球。ファイアーボール!」

 ブリュンヒルデはビッグウルフを魔法で牽制するとビッグウルフはすくんだ。


 その機を逃さず、ブリュンヒルデは逃げることにする。

「リーンハルト。逃げるわよ!」


 包囲に穴の開いたところを全速力で駆け抜けて、2人は逃げて行く。

 が、ビッグウルフの方もしつこつ2人を追いかけてく。


 ブリュンヒルデは時折ファイアーボールをビッグウルフに向けて放ち、牽制けんせいしながら逃げて行く。

 狼のしつこさというのは定評があるとこであり、なかなかあきらめてくれない。


 それから何時間か逃げ続け、薄暗くなった頃、ようやくビッグウルフの気配はなくなった。


「ふう。しつこいやつらだったわね」

「とにかく生きているだけでも良しとしましょう」


「待って。ジルがいないわ」

 逃げるので精いっぱいでジルのことは念頭になかった。

 今ごろ心細い思いをしているだろう。


 ──ジル。ごめんね。


 そこに最悪の敵があらわれた。

 サーベルタイガーである。しかいもつがいのようで2匹いる。


 サーベルタイガーはいきなり襲ってきた。

「炎よ来たれ。高熱の火球。ファイアーボール!」

 とあわてて詠唱したが、サーベルタイガーには致命傷を与えられず、ひるまず襲ってくる。


 ブリュンヒルデは両手に剣を抜くと集中し半眼となりサーベルタイガーを迎え撃つ。だが相手が一枚上手だった。

 そしてサーベルタイガーの爪がブリュンヒルデの顔を切り裂くかと覚悟した時、鋭い風切り音とともにサーベルタイガーの首がポトリと落ちた。


 この太刀筋は…

「お父様…じゃなかった。マリーお姉さま」

 ブリュンヒルデはマリーに抱きつこうとするが、「リーンハルトの方が先だ」とマリーはリーンハルトを助けに行った。

 リーンハルトは腕に傷を負いながらも善戦していた。

 そこにマリーが割って入るとサーベルタイガーの首がポトリと落ちた。


「マリー様。さすがです」


 マリーは無詠唱でヒールを発動するとリーンハルトの腕を治療した。


「ありがとうございます」


 するとブリュンヒルデが思い出したように叫んでいる。

「マリーお姉さま。ジルがいないの。途中ではぐれちゃって…」


 ブリュンヒルデの目からは大粒の涙がポロポロと流れ落ちている。


「わかった。ジルは私が責任を持って保護する。ブリュンヒルデたちは安全な場所で待機しておいてくれ」

 と言うとマリーは歩き出した。


 その直後、テレポーテーションしたマリーの姿が消えた。


    ◆


 ジルはブリュンヒルデたちとはぐれた後、様々な肉食の魔獣たちに追いかけられて逃げ回っていた。獲物としては丁度手ごろな大きさなのだろう。


 そしてブリュンヒルデたちの臭いを見失っていた。もはや自分がどこにいるのかも見当がつかない。


「にゃお~ん」と悲しい鳴き声を上げるが誰も答えてくれない。


 ──こんなことなら黒の森(シュバルツバルト)なんかに来るんじゃなかった…


 そんなことを考え始めた時、ジルの前に突然人影があらわれた。

 これはあの人…じゃなかった。女だ。ああ。あの人の妹か。

 それで安心したジルは狂ったようにマリーの足に頭をこすりつける。


「よしよし。怖かったんだね。もう大丈夫だよ」

 マリーもテレパシーが使えるのでジルにも意味が理解できた。


『ありがとうございます』

 ジルは心からお礼を言った。


    ◆


 マリーがジルを連れてブリュンヒルデのところに戻ってきた。


「ジル!」

「にゃ~ん」

 ジルはマリーの腕から飛び出るとブリュンヒルデの胸に飛び込んだ。


『怖い思いをさせてごめんね』

『でも、マリー様のおかでげ助かったわ。気にしないで』


 そこにフリードリヒがテレポーテーションでやってきた。

 事情はマリーからテレパシーで聞いている。


「マリーから事情は聴いている。今回のことは感心しないな」

「ごめんな…さい」

 ブリュンヒルデの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。


「今度からはこういうところはちゃんと大人が監督している時に来ること。いいね」

「はい…」


 ブリュンヒルデは感極まってフリードリヒに抱きつくと大声をだして泣き始めた。


「よしよし。気が済むまで泣くがいいさ…」

 フリードリヒはブリュンヒルデの頭を優しくでる。


「マリーも今回はご苦労だったな」

「どこで助けに入ろうか迷いましたけど、なかなかの大冒険だったですよ。見ていて面白かったです。」


「はっはっはっ。マリーも人が悪いな」

「多分お兄様に似たのですわ」


 しかし、子供の時のこういう経験というのも大事だ。

 なまじお城の中でばかり生まれ育ってしまって深窓の令嬢なんかになってもつまらないからな。


 これはこれで良い経験になったのかもしれない…

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