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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT95 最終兵器【如月 魁人】

 足元に転がるピアス。たったさっきまで姫が付けてたこれが、彼女の形見になっちまった。

 むわっとした生温けぇ風がほっぺた撫でる。この風が吹く時ぁ……決まってる。決まって酷ぇ嵐が来るんだ。いつもそうだ。

 俺は胃ん中の溜まり血を綺麗さっぱり吐いちまってから、携帯のクスリを口ん中に放り込んだ。痛み止めと止血剤だ。さっき俺の手ぇ取ってくれた野郎が目ぇ丸くしてこっち見てやがる。見たとこまだ10代か。


「てめぇ、名前は?」

「え? あ、はい! 宇南山うなやま拓斗たくとです!」

「自衛官候補生か。歳いくつだ?」

「18です! 良く候補生って分かりますね?」

「丸で囲った緑の桜はそれ以外にねぇだろ。奴ら、んなのばっか寄越しやがって」

「伍長! 自分は確かに下っ端ですが、射撃の腕には自信があります!」


 ビッと背ぇ伸ばして俺を見る宇南山。なるほど。いい眼してるぜ?


「すまねぇな。若ぇのは取っとけって意味だったんだが。一応聞いとくぜ、どっちだ?」

「え?」


 俺ら囲む奴らが、しまりのねぇ顔して立ってやがる。手に持つ得物にゃしっかりセイフティかけやがって。伯爵に銃は向けられねぇってか?


「こいつらと同じ、奴に共感しちまった口か? それともまだ人間の側か?」

「良く分かりませんが、さっきの伍長、凄かったっす。自分は断然伍長に付いていきます!」

「そりゃどうも。いいぜ。特進覚悟があるなら付いて来な」

「ほんとすか? ありがとうございます!」

「……何がそんなに嬉しいんだ? 100パー死ぬって言ってんだぜ? 俺は?」

「そんなの元から覚悟の上すよ! 伍長の下に付くなんて夢みたいで、俺、思い残す事ないです!」

「あ? なにお愛想あいそ言ってやがる」

「お世辞なんかじゃないです! て言うかですね? 本作戦、伍長に憧れて志願した人員ばっかですよ?」

「……は? はあっ!??」

「自覚ないんすね。ヴァンプハンターはタマ撃ちの頂点! その中でも常勤の伍長は憧れの的なんです!」

「そうなの!!!?」


 マジかよ! やたらと俺なんかの指示通りに動くと思えばそういう事かよ!

 悪ぃ気はしねぇが……落ち着かねぇな。出来れば聞きたくなかったぜ。こいつら死んだらまるで俺のせいみてぇじゃねぇの。


「……どうかしたんですか?」

「悪ぃ。拓斗って言ったっけか。伍長はやめてくれ、魁人でいい。どうせ二人きりだからな」

「はあ、魁人……さん。二人ってどういう事すか?」

「こういう事だ。おい! そこ突っ立ってる中隊長!」


 俺より二回りも上だろう、角刈りに白髪が混じった中隊長が駆けて来た。

 ったく、こいつまでメット脱ぎやがって。


「各小隊に指示出しな。とっととこの場から失せやがれってな」

「解散、でしょうか?」

「んな訳ねぇだろ。待機だ。塀の外で俺の合図を待ってな」

「速やかなる撤退、及び敷地外での待機、了解しました」


 基本、指揮官おれの言うこと聞いてくれんのは助かるぜ。

 てきぱきと各小隊に指示出す中隊長。整然と動き出す隊員に機動隊。大勢が動くに合わせて揺れる地面。

 ……いま不規則な揺れが混じったな。あれ(・・)が作動したせいか。


「魁人さん! あれ!」


 拓斗の指さす先を見てみりゃあ、コウモリどもがヨロヨロ飛び回っては落ちてやがる。酔っ払ったみてぇにバタバタと。


「ついに来たか。結弦が押した地雷の効果がよ」

「地雷? なんのことすか?」


 俺は拓斗のポカンとした顔見返した。ここはきちっと説明しとくか。とりあえずの相棒だが、組むからにゃ言わねぇワケに行かねぇもんな。



「実はな? 協会が開発した最終兵器があんだよ。意外だろ? 協会もバカの一つ覚えみてぇにドンパチやってるだけじゃ無ぇの。

 知ってっか? ヴァンプってガチで強ぇの。耳も鼻も手も足も、どこ見たってバケモンだ。あれが人間? 冗談じゃねぇ。奴らにすりゃあ俺らなんか亀みてぇなもんよ。俺ら免状持ちが掩護付きでやっとこさ立ち合える……っつっても、それは一匹相手の話でな? 雁首そろえて来やがったら即アウトだ。てめぇの命と引き換えに一匹片付けんのが精々だ。だから奴らを亀にしちまう方法がねぇかって話になった」


 拓斗の奴、黙ってうんうん頷いてら。どんより曇り出した夜空見上げながら額の汗をぬぐったぜ。くっそ……ギリギリ痛みやがる。話はまだまだこれからだってのによ。


「色々考えたぜ。ニンニク使った催涙弾撃ちまくるとか、一帯を浸水させちまうとかよ? がいまいち効果に自信がねぇ。匂いなんか鼻つまめば効かねぇかもだし、水だって高く跳びゃあ済むってな。思った効果が出ねぇ上に、近隣住民から後々訴えられる危険があるんじゃ話にならねぇ」


 ここで初めて拓斗が口挟んだ。なぞなぞクイズみてぇな持って行き方したからか。


「解りました! 核を一発ドカンってやるんですね!?」

「いやいや、いまはデバフの……って馬鹿か! 全部灰にしてどうすんだ! つかトドメ差すんはあくまで銀弾だ!」

「そうなんすか?」

「そうだぜ。あれ心臓に撃ち込まねぇ限り、灰になっても再生すんの! そういう意味で太陽光も決め手になんねぇ」

「じゃあお手上げすか?」


 ああそうだ。お手上げだ。そう思ったそん時だ。

 あの司令が珍しく体調崩してな? 俺も夜勤に付き合ったわけ。司令にばっか仕事押し付けんのが申し訳なくてよ? うだるような夏の晩。ほんの2週間前の話だ。向かいに座る司令がいつも通りに米神んとこ押さえてうーん……なんてやり出したんで、言ってやったね。たまには休んで病院でも行ったらどうすかってね。そしたら司令、何つったと思う? 「ここに来てここに座ると痛みだす」なんて言うんだよ。「それ完璧ストレスっしょ。たまには気晴らしでも行ったらどうです?」って進めたら、司令、ニコッと笑って「そうだね。少し出てくるよ」つって立ち上がってな。ふと天井を見上げた司令の顔色が変わったっけな。


「魁人君、あれ、何だい?」

「あれ? あれは蚊除けっす」

「蚊? あの人間を刺して血を吸う昆虫の蚊かい?」

「……他にどんな蚊が居るってんですか。最近やたら刺されるんで置いたんす」

「嫌な音が出ているね?」

「……聞こえるんスか? そうっすよ、オスの羽音とおんなじ音で雌を追い払う装置っす。耳いいっすね」

「なるほど、それでこの頭痛――そうか! 何故今まで気づかなかった!」


 キラッと眼ぇ光らした司令が、ダンっと机に片足ついて乗っかって、ぶら下がるちっこい装置をもぎ取った。


「魁人くん! これ借りるよ!!」


 ダッシュで出ていく司令を俺は唖然と見送った。後で聞いて納得したね。


「わかるか拓斗。逆の発想よ。弱みを突くんじゃねぇ、奴らの強み、バケモノ並みの身体能力を利用する手だ。それがさっき俺が言った地雷・・。人にはさして害はねぇが、ヴァンプどもにはもれなく効く高周波発生装置よ」

「それがそんなに効くんすか?」

「おお。吐き気はするわ平衡感覚狂うわ、使える能力も使えねぇってな。コウモリどももこの通り」


 ……まあな。若者撃退モスキート音ってもんもあるくれぇだから、べつに目新しい訳じゃねぇ。けど規模がすげぇの。ふつう音波ってのは周波数が高いほど減衰する。レンジが狭ぇ。だから、それを補おうって……何個っつったっけな。とにかくスゲェ数のそれを作って、それを総出で取り付けた。この議事堂敷地一帯にな。この3日、昼も夜も、事務員工員総出で埋め込んだんだ。もちろん地下道にもな。んでもって、ひとつ作動させりゃあ連動して作動するよう設定した。


 「ほんとはな? 全国のヴァンプ様が集まった、その時にボタン押す手はずだったのよ。だが予定が狂っちまった。地下にまさかの幹部様がお出ましになっちまったからな」

「……え? つまりその装置がすでに作動してるってことすか?」

「お、おう。だから万一に備えての撤退だ」

「万一? なるほど! 高周波が音波爆弾になるかもって事っすね?」


 こ……こいつも思ったより頭いいぜ? そうだ。高周波が一定のリズムを刻んだそん時ぁ……構造物を物理的に破壊する事がある。そうそう、ちょっとしたもんだ。原爆に比べりゃスッポンみてぇな弊害だ。だが可能性がゼロじゃねぇ限り、撤退は絶対だ。ビル倒壊に地盤沈下まで起こしちまったらコトだからよ。


「魁人さん! 自分らも下がりましょう!」

「阿呆! 俺は免状持ちだ! 退去なんか出来っかよ!」

「でも、あれ……」


 拓斗が見上げたその先。あ? 議事堂の柱が一本……倒れて来てる? こっちに?


「うおおおおおおいいいいいい!!! もっと早く言ええええええ!!!!!」

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