表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
93/148

ACT93 撃たれた代議士【佐井 朝香】

 赤い絨毯を照らしてた夕暮れの陽が陰り出したのは、菅さんが一通りの意見を言い切った、そのすぐ後だったわ。

 つるべ落とし、なんて良く言ったものよね。今の時期はほんと、日が暮れたと思えばほら……もうこんな夜。昇降口から冷たい風が吹き込んできて、さっきまで籠ってた熱気をいっぺんに吹き散らした。


「さむいわね」


 あたしはゾクゾクする両肩を自分自身で抱きしめた。変ね、遠くで……フクロウの鳴き声がしたような?


「誰かエアコンのスイッチ入れてくれない? まさかここ、暖房とか無い?」


 黙ったまま周囲を見回す黒服たち。総理もしきりに天井を見上げて首をひねってる。そうそう、寒いも寒いけど、やたらと暗いのよ。ぜんぜん明りが付かないの。それどころか、窓から来る外の光――街頭とかオフィスの明りも入ってこない。

 時々パシャッと差し込む強烈なライトは報道陣のフラッシュ。そのたびに男たちの横顔がパッと闇に浮かんでは消えて、やだ不気味。


「どうして照明つけないの? 中が丸見えになっちゃうから? 」


 なんて呟いたそんな時、廊下の向こうから駆けてくる足音がしたの。


「総理! 本館、官邸、その他永田町や霞が関一帯の電源が落ちています!」


 そっか、どおりで変に暗いと思ったわ! なんて思いながら、声のする方を見たら……なんか様子がおかしいの。

 廊下の向こうはホント真っ暗で、そいつは只のぼやけた人型にしか見えないんだけど、息切らしてハアハアしながら、あたし達から距離を取ったまま近づこうとしないの。

「君は誰かね? 顔を見せたらどうかね?」

 なんて総理が訊いても、顔を背けてみたり手で顔を覆ってみたり、怪しさ満点。そんな彼に、黒服達が一斉に銃を向けた。パッと両手を上に上げた男が口を開く。


「待ってください! 私は――」


 たぶん彼が名乗ろうとした、その瞬間だったわ。眩しいフラッシュのライトが、彼の姿をパッと照らし出したの。流石のあたしもぎょっとした。だって。だってね? 男の顔は傷だらけの血まみれで、しかも耳と鼻が削ぎ落されていたんだもの!


「撃てええ!!」


 誰かの指示が飛んで、あたし、咄嗟に自分の耳を塞いだわ! だってさっきあたしを撃った時と全然違う、サイレンサー無しの一斉射撃! 議事堂って廊下の天井がとっても高いし、すぐ傍は中央の大広間があるから? 火薬の炸裂音がすっごく良く響くのよ!

 んもう! 手で塞いでんのに凄い音! ていうか、たった一人にそこまでする?


 唐突に音が止んで、あたしはやっと耳から手を離した。どうなった? 男は?

指示を出していたリーダー格の男があたしに向かって合図したから、あたしはじっと睨み返した(このあたしを顎で使うなんて!)。 

 でも……そうね。医者としてやるべきことはしなくちゃね。


 むせかえるような硝煙の煙には、血の匂いが混じってて、ゆっくり進むとさっきの男が仰向けに倒れてる。集中的に胸部を狙ったのね。心臓なんか跡形もない。けどその他の部位の損傷はほとんどない。

 ペンライトによる瞳孔の反応はゼロ。虹彩の色は濃い茶色。。体温はまだ36度くらい。そして……やっぱりね。首回りはまったくの無傷。仕立ての悪くないスーツの襟もとには血に染まった臙脂の議員バッジ。


「噛まれた痕は無いわ。血の色や体温から察するに、この人は人間。代議士の一人だったみたいね」

「……」


 険しい顔であたしを見つめる総理。黒服達の表情も硬い。

 ……そうよね。ただの人間、しかも議員の一人を殺してしまった。


「これって……どうなるの? 緊急時のどさくさって事で済むの? 済まないの?」

「済むまいね。無論、居合わせた私の責任だがしかし……事は収束には向かうまい」

「え?」


 あたしは総理の視線を追って絶句した。硝煙の煙が立ち込める廊下の向こうに赤く点灯するが見えたの。それが一歩前に進み出た。その大柄な人物は、あたしも知る人だった。


「何のつもりですか? 田中さん」


 その人に向けられたその声に、あたし、ハッとなって振り向いた。

 いつの間に入ってきたのかしら! 外に居たはずの報道陣やら議員やらが大勢居て、その真ん中に、両手を拘束されたままのハムくんが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ