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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT88 武装してやがった【如月 魁人】

『悪ぃ、狙撃待て』


 ……やってくれるぜ。菅の奴ぁ武装してやがった。理論って名前の武装をよ。記者どもとあーだこーだ言い合って、挙句の果てにゃヴァンプが人間だなんて抜かしやがった。冗談じゃねぇ。俺らの存在意義を真っ向から否定する気かよ。

 ワクチンの成功例ってのは俺たちの事だ。女医が教えやがったんだ。その女医がまるで恋人でも見る眼で伯爵のこと見てやがる。名実ともにあっち側ってわけだ。

 

 ま、それ聞いた沢口も黙っちゃ居なかったがな? すんげぇ眼ぇして菅を睨んだと思ったら、奥の奴等に目配せしたのさ。ピンと来たぜ。女医を生かして、あんなとこに置いといたのは、人質にする為だってな。今のはたぶん、撃てって合図だ。殺しちまったら人質になんねぇから、彼女の腕か足かを狙った筈だ。

 ……ん? 総理付きのSPの様子……おかしくね? 妙に慌ててるっつうか……


俺ぁ耳の無線に手ぇ伸ばした。一応沢口に連絡しとこうと思ってよ。だがちょうど別口から連絡が来た。結弦だ。ホルスター脇に取り付けたホルダーからアンテナ付きの無線機を引き抜く。地下でも繋がる無線ねぇの? って沢口に聞いたら貸してくれたのよ。携帯会社と契約したパケット利用のIP無線。イヤホンは他のインカムと繋がってっから、こっちは直で手に取って話さなきゃなんねぇが、こういうのもなんかいいぜ。子供ん頃遊んだ玩具のトランシーバーみてぇで。性能は比べるべくもねぇ、GPS付きのハイテクだがよ? 


『魁人、聞こえる?』

『さすがにバッチリ。どした?』

『いま衆議院会館の真下なんだけど、ヴァンプが1体侵入してたよ。ベテラン達が大勢居たから僕の出番は無かったけど』

『まじか。この昼間にどっから入った?』

『解らない。昨日の夜から潜伏してたんじゃない?』

『だといいが……斥候かもな。こりゃちょっと頼めねぇか』

『何かあった?』

『沢口が女医を撃たせたみてぇなんだが、総理付きSPの慌てぶりが普通じゃねぇ。ややもすりゃあ――』

『総理に当たったかもってこと?』

『女医は伯爵の言いなりだ。あべこべに総理を楯にしたかも知んねぇ』

『じゃあ何人かそっちに回すよ。議事堂側の地下通路の封鎖、一瞬解く事になるけど』

『この際だから仕方ねぇ、気ぃ付けろ?』

『うん。何かあったら連絡する』

『……ああ、だがいざって時ぁ連絡も何も要らねぇぞ? てめぇも免状持ち。ハンターもSATも好きに動かせ。もちろん例のスイッチもな』

『ええー!? あれ、勝手に始動していいの!?』

『つか沢口と俺になんかあったら手前てめぇにしか作動されられねっからな、頼むぜ?』

『…………解ったよ。じゃあね』


 プツン、なんつって通話が切れる。

 ……おいおい。やったら覚悟決まった感あったが平気か? 別に核のボタン任された訳でも何でもねぇのによ?


 あ? じゃあ何のスイッチかって……説明すっと長くなるからまた後でな。どうも伯爵サマが動き出したみてぇだからよ。あの野郎、堂々と胸張って前に出やがって。沢口の方が押され気味、全くどっちが主導なんだか。

 ああ!? な~にが豊かな社会だ、提案だ! 薄汚ねぇヴァンプのくせに平和主義気取りやがって!

 ……ほんと大丈夫か? 記者団うんうん頷いてっぞ? 女記者なんか見ろよ、トロンとしちまって。おいおい! お前らまで!?



 この伯爵の「提案」ってのが、これまた記者らの興味を煽るわけだ。


「大臣! その法案は如何なる内容ですか!?」

「我々の社会的な位置づけについて定めるものです。我々はウイルス疾患を患った一患者に過ぎず、工夫次第で社会的適応が可能だ」

「その工夫とは一体どういったものでしょうか」

「まずはこのブレスレットです」

「その銀の枷の事ですか?」

「えぇ。こうして身に付ければヴァンパイア特有の怪力、及び特殊能力を十分に発揮する事が出来ません』


 やたらとその手首の輪っかを強調しつつ、菅がのたまう。3重に取り付けられた黒いアルミ合金手錠の鎖をチャラチャラ言わしながらな。


『この装着を法律的に義務付ける。そうすればもはやヴァンパイアは脅威ではなく、人の助けとなる存在です。とくに夜間の災害時は頼もしい戦力となる」


 ゾッとしたぜ。奴等が堂々俺らに混じって会社だの現場だのに出向くってのか?

 おいおいてめぇらも頷いてんじゃねぇよ! いくら首輪が頑丈だからってよ、ライオンと一緒に仕事出来んのか!? いつ壊れるかも知れねぇ枷に頼んのかてめぇらは!?


『ボス。これ以上しゃべらせねぇ方がいい。みんな乗せられちまう』

『……解っている』

『なんなら今すぐ殺っちまうか? 国民の皆様が伯爵の信者になっちまう前によ?』

『待て。伯爵が暴力的手段に訴えぬ以上、こちらから攻撃は出来ない』 

『んな事言ってる場合かよ。俺ぁごめんだぜ、ここが死体の山になんのはよ』

『しかし伯爵の話は筋が通っている。いま彼を撃てば、我々が国民にバッシングを受ける事になる』

『言い訳はいくらでも出来らぁ。見ろよ兵達の顔をよ。テレビの向こうの奴等もたぶんおんなじ顔してるぜ』

『……駄目だ。ここは私に任せてくれ』


 沢口が手で記者達の発言止めやがった。しぃんとする会見の場。息つめて伯爵見つめる記者に兵隊。いったいどうする気だ?


「私からも質問したいが宜しいですか。伯爵どの?」

「……どうぞ」


 沢口に応じた菅が顔しかめてら。面と向かって伯爵なんて呼ばれたからか。


「貴方は民主主義という日本の政治形態をまるで無視しておられる」

「仰る意味がわかりませんが?」

「現法律を廃止するにはそれなりの理由と根拠が要り、更に国会の承認が必要だ。違いますか?」

「……もちろん違いませんよ。わたしがそれを無視したと?」

「まるで廃止したかのように話を先に進めるその姿勢に問題があると申し上げています」


 なるほど沢口の奴、伯爵とおんなじ土俵でやり合う気だぜ。中身は良くわかんねぇが、今のが反撃開始らしい。菅から余裕の笑みが消えたからな。

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