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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT87 総理の告白【佐井 朝香】

 黒服があたしに銃を向けたとこまでは覚えてる。いきなり誰かに突き飛ばされて、プシュッと音がして、身体を起こして見てみれば総理がうずくまって腕を押さえてるじゃない!

 銃を構えたままの男が、あたしと総理とを交互に見てる。咄嗟に総理に駆け寄ったわ。銃を向けるそいつを押しのけて!


 撃たれたのは右上腕の付け根に近い場所。ラッキーだったわ。何がって、あたしが医者で、一応の処置道具を持って歩いてたこと。止血帯やハサミはもちろん、血管縫合用の糸も針もあるわ、こんな傷お茶の子さいさい。


 ――んもう! こいつら、総理がこんなだってのに何黙って見てんのよ! 


 口を開きかけたあたしの口元に総理が人差し指を当てて、首を横に振って外の方をチラッと見るの。ここは死角。沢口も菅さんも、たぶん総理が撃たれたなんて思って無い。撃たれたのは佐井浅香、つまりあたしだって思ってる。

 そう、あたしが撃たれた事にしときたいのね? でも……どうして?


 考えながら手だけは動かす。こう見えてもあたし、外科専門の闇医者よ。銃創の処置なんか眼を瞑っても出来るわ。

 ただ……良く言われるのよね? あたしの処置は乱暴だって。麻酔も滅多にしてくれないって。

 (え? 前に聞いた? なら話が早いわ!)

 麻酔なしの欠点は、患者が動いちゃって処置しにくい事なのね? でもそこはそれ。こうやって抑え込めば、大抵の患者は動けない。幸い苦情は出てないわ。先生のお尻最高! な~んて喜ぶ人も居るくらい。

 総理もね? ギュッと眼を閉じて、左腕の袖を口に咥えて恍惚としちゃって。

 (え? 違う? たぶん唸りたいのを堪えてるだけって?)

 とにかく! 暴れないでくれるのは助かるわ。血管や神経傷つけちゃったら後がたいへんだもの。

 ……よし……もうちょっと……


 コロン、と鉛玉を絨毯に放る。黒服達の眼がそれに集中する。

 総理の身体がビクッと跳ねる。そうなの。縫合する時が一番痛かったりするのよね。


『腕がいいね、もうほとんど痛みは無いよ』

『それで食べてるもの、当然よ。でも無理しないで? 油断したら開いちゃう』

『……こんな風に巻かれたらそうしたくとも出来ないが……ありがとう先生。本当に』

『お礼言いたいのはこちらの方よ。でも。でもどうしてあたしを?』

『綺麗な娘さんを助けるのに、理由が要るのかね?』


 昇降口からさらに奥へと移動したあたし達。お互いに顔を耳元に顔近付けて、これ以上ないってくらいの小声で。

 最初は黙って見てた黒服たちも、いろいろと手伝ってくれた。水とか着替え、持ってきてくれたり?

 玄関の外からハムくんの声がしてる。早速にあたしが提唱した、「ヴァンパイア=人間説」を持ち出して。

 熱心に耳を傾けて、うんうんって頷く総理。その顔は何だか……そっか、な~んか解っちゃった。


「総理も菅さんの事、大好きなんですね?」

「……うんっ!?」


 あらら、もし総理がお餅か何か頬張ってたら、喉に詰まらせてたところね。


「突拍子もないことを言うね」

「だってほんとは……あたしを助けたの、菅さんの為だったんでしょ?」

「……そんな事はない。と言いたいところだが、確かにそれもある。私は2度といくさを見たくないからね」

「あはっ! まるで大戦以前の人の物言いね?」

  

 そんな風に言ったら総理、自分は150歳になるんだって笑いながら言うの。まさかね? たぶんこの場を和ます冗談ジョークよね?

 ハムくんの演説は続いてる。え? なに? いま……共存、なんて言葉が聞こえたけど。

 首を傾げたあたしを見た総理、あたしの???を見て取ったのね? 笑って口を開いて。


「菅くんはヴァンパイアと人類の共存を望んでいるのだよ。法を以て事態を解決しようと」

「法が解決してくれるの?」

「日本人は法を遵守する意識が高いからね。流石は菅くんだ。政治家の……王道だよ」

「不思議。総理にはヴァンパイアに対する偏見がまるで無いみたい」

「そう見えるならそうなのだろう。現に私の父はそのヴァンパイアなのだから」

「え?!」


 驚いたわ、そりゃそうよ! まさか総理があたしと同じハーフだなんて! しかもさらりとあたしなんかに打ち明けて?


「信じるか信じないかは……貴方次第だがね?」


 そう言ってまたウインクして見せた総理の顔は、どう見ても……60代。

 あたし、少し突っ込んでみたわ。お父さまってどんな方なんですかって。

 そしたら総理、遠い眼をして言ったわ。


「父はまるでそうとは見えない……人としても大成を極めた方でね」

「大成って……いったいどんな?」

「彼は『美』に対する恐ろしい拘りと執念を持っている。鳥肌が立つほどのね。いつも問われたものだよ、『真なる美とは何か』をね」

「あの……凄そうな人ってのは解るけど、でも漠然とし過ぎて……」


 そんな私に総理がひとつ頷いて。


「彼は1000の古壺を並べ、そこからたったひとつの『本物』を見分ける眼を持っている。無論、それは壺に限らない。才能ある人材を探し、集め、派遣会社を作るほどに」

「……派遣会社?」

「そうだよ。昔から世の動きに敏い方だったらしい。全国のヴァンパイアをまとめ上げ、新宿をその中心としようと提言したのは彼らしい。神戸支部の代表としてね」

「……神戸」

「そう。西の伯爵と呼ばれている」

「総理、そのお父さんって……もしかして500年近く生きてるとか?」


 総理があたしの顔を見たままそっと頷く。


「もしかして田中、とか名乗ってない? 田中与四郎って」


 総理はまたひとつ頷いて。どうしよう、あたし、眼の前がぼやけちゃって良く見えない。


「菅さんに聞いたの。田中さんはあたしの父だって。ってことは、あたしと総理は――」


 そっと抱きしめられた。

 やっと解った。さっき懐かしいって、逢った事あるかもって思ったのは、その背中が田中さんに良く似ていたからだって。

 あは! あたしに100歳以上も歳の離れたお兄ちゃんが居たなんて! しかもそれが内閣総理大臣だなんて!

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