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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT85 ダマされねぇぜ?【如月 魁人】

 始まったぜ? 容赦のねぇフラッシュの嵐。記者どもお得意の一斉射撃だ。


「菅大臣! 貴方はヴァンパイアだそうですが、それは事実ですか!?」

「一体誰に噛まれたのですか!? 貴方の身辺近くにヴァンパイアが居る、と受け止めて宜しいですか!?」

「あなた以外の閣僚、または官僚の中にヴァンパイアが居るとすれば、大変な問題ですが!?」

「今までの業績はすべて、反社会的な意図でなされたものでしょうか!?」

「自身はこれからどうなさるおつもりですか!? お答えください!」

「大臣!」

「大臣!」


 ろくに返事も待たねぇで我先にと質問繰り出す記者ども。不味いな、兵どもまでそっちを気にしてやがる。


『如月だ。各自持ち場に集中しろよな。狙撃、いるか?』

『こちら狙撃班。伯爵を目標とする3名がジュモク上で待機中』


 ジュモクは樹木だ。議事堂ってのは前が開けっぴろげだからな、狙撃出来る建物なんかありゃしねぇのよ。霞が関のビル──この位置だと外務省か国土交通省あたりから狙えばいいって思うかも知んねぇが、そうも行かねぇ。目標位置が地面スレッスレで、しかもこの混みだろ?  植え込みも邪魔してぜんぜんだ。だからその植え込みに自体に登っちまおうってな? 昨日のうちに常緑の木ぃ選んで、枠組とか組んどいたのよ。そこに待機させたわけだ。(もちろん普段は無理だぜ? 木によじ登る怪しい奴なんか衛視に速攻見つかっちまうからな!)


『まだ撃つなよ? ここにヴァンプどもが結集したその時までな。だが菅が本性出したそん時ぁすぐにカタ付けろ。容赦すんな?』

『りょ、了解』


 班長がドモったのも無理はねぇ。狙えって言われた目標は、亡き親父さんの遺志を継いだ政界のサラブレットで、しかもあの若さで次期総理候補の一人って言われてるくれぇの実力者だもんよ。

 っと、女医と護衛どもが玄関口の奥から外うかがってやがる。おいおい! そいつらに混じって立ってんの総理じゃね? なんでんなトコに?


『ボス。閣僚はぜんぶ官邸だろ? 総理も行かなくていいのかよ』

『私もそう申し上げたのだが、なんとしてもここで見届けると仰ってな』

『あ? 画面越しじゃ満足出来ねぇって?』

『ああそうだ、本部長は自分だからと』

『だからって現場に出るこたねぇだろよ。俺らに取っちゃあ邪魔なだけだぜぇ?』

『君の口は変わらずだな』

『どうすんだ? 弾当たったら誰が責任取んだよ?』

『もしもの時は担いででもお連れする。君は自分の仕事の事だけ考えていればいい』


 沢口がこっち睨みつけてやがる。……やれやれだぜ。


『狙撃。伯爵の後ろ、建物んの奥に総理が居る』

『……何ですって!?』

『いざって時は逃がすらしいが、居たとしても気にすんな』

『しかし!』

『何かあったら沢口が責任取るらしいぜ。てめぇらは目標の急所に弾ぶち当てる事だけ考えな』

『……了解しました』


 ったく。国家の代表サマは意地張ってねぇで下々の立場も考えろってんだ。


『第1小隊は記者の奴ら見張ってろ。サーヴァントが居ねぇとも限らねぇ』

『了解、監視を続行します』

『第3小隊、どさくさで入っちまったパンピーは退避させたか?』

『遂行中です。終わり次第持ち場に戻ります』

『各個、足元と頭ん上にも気ィつけろ? 敵は人間の形してるとは限らねぇ』


 言ったとたん、兵どもが慌てて上と下をキョロ見し出した。ネズミとコウモリが居るかもって意味だったんだが……こりゃ下手に言わねぇ方が良かったかもな。


 おっと、大人しく膝ついてた伯爵が男の手ぇ振り払って無理やり立ちやがった。ごっついハンターどもが頑張ってるがどうにも抑え込めてねぇ。だから言ったんだ。あんなワッパ、その気になりゃあ効きっこねぇって。こりゃ囮に~なんて悠長な事言ってらんねぇな。案の定、ゆっくり瞬きした伯爵の眼が金ピカに変わってやがる。

とたん、騒ぎがぴたっと収まった。みんながみんな、一斉に奴に見入ってやがる。ヴァンプの眼力ってやつだ。


『狙撃、出番だ。俺の合図で撃て』


 念の為よ。金眼のヴァンプは待った無し(・・・・・)って事もあるからな。タイミングは眼が赤に変わる瞬間。狙撃はスコープで胸狙ってっから眼の色なんか確認してられねぇ、俺がGOサイン送ってやんねぇとな。


 だがよ? 奴の眼が黒に戻ったんだ。犬っころみてぇな真っ黒い眼にな。俺ぁその眼に吸い込まれたぜ。……なんて、なんて眼ぇしてやがんだ……

 悔しがる風じゃねぇ、怒ってもいねぇ、泣いてもいねぇ、奴はただ笑ってたのよ。桜子の屋敷で見た、あの企み顔じゃねぇ。まるで懺悔の時の神父みてぇなジアイに満ちた顔っつーか? 人類を脅かす敵にゃあとても見えねぇ、むしろ救世主みてぇな面だ。俺ぁその姿にイエス・キリスト重ねちまったのよ。


 らしくねぇって? 


 仕方ねぇだろ。クリスチャンの司令のせいで、俺ん頭の中にもありがたい説教が染みついてんのよ。ゴルゴダの丘で十字架にかけられたあのキリストは、ユダっつー弟子にリークされたせいでパクられたんだってな。死ぬほどひでぇ拷問受けて、とうとう磔にされちまって、それでもキリストは、「許せ」っつったんだ。自分自身の事じゃねぇ。自分を裏切ったり傷つけたりしたすべての人間を許してくれって神サマに頼んだってよ。

 伯爵やつも同じだ。片腕だと信じてた司令に裏切られて取っ捕まって……


 いけね。俺もどうかしてるぜ。これぁ奴の手だ。政治家でしかもヴァンプ、人たらしこむワザに長けてるだけだ。この手で人様を味方につけて来たに違いねぇ。

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