ACT84 誰かに似てる?【佐井 朝香】
あたしは外の様子を黙って見つめてた。ハムくんがみんなの前で両膝をつかされて、その姿勢のままマイクを向けられる様子を。
ほんとはわたしも出たかった。たったひとりで群衆に立ち向かう、彼の傍に居たかった。でも二木総理が許さなかった。危険だからって。流れ弾に当たるといけないからって。その総理が、あたしのそばに寄って来て言ったの。
「菅くんの事が好きかね?」って。
ちょっと! こんな場所でいきなりそんな事!!
総理に遠慮したのか、あたしの両脇に居た黒服が一歩下がる。
「あああのあたしは――」
「慌てなくても隠さなくてもいい。はたから見て良く解る。彼の力になりたいかね?」
あたしを見下ろす二木総理の優しい笑顔に、あたしも笑顔を返さずに居られなくって、素直になっちゃって。「ええ」って答えてたら総理、すっごく嬉しそうな顔するの。
「嬉しいね。私も菅くんを買っているからね」
「本当に? 彼、ヴァンパイアなのに?」
「ヴァンパイアだろうが何だろうが、本質という物は変わらんよ。道を外さずには居られぬこの世界で、彼は実に良くやっている。王道を行く政治家へと成長しつつある。昼夜問わず常に忙しなげとは思って居たが、なに、人の身では無かったからかと納得もした所ですよ」
そう言って横を向いた総理の背中はとっても広くて。どこか懐かしい。
「二木総理、あたしもっと前から貴方を知っていた気がするの」
「……それはまあそうでしょう。貴方の物心がついた頃には、すでに政治に携わっていたからね」
言いながら、総理の眼が再び外を向いた。最前列にずらりと陣取る記者達の「質問責め」が始まったから。




