表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第1章 幹部編
8/148

ACT8 襲撃【佐伯 裕也】

 ――SIT(クソッ)!!


 俺は視界を染めていた。鮮やかなる赤に。

 刹那、音がんだ。宙を舞う諸々《もろもろ》の破片の動きが止まる。


 床に投げ出された彼女の横に、倒れた椅子が横倒しになっている。瞼は硬く閉ざされているが、怪我をしている風はない。

 木製のドアに穿うがたれた2つの穴。キツく匂う硝煙と微かなガンオイルの匂い。

 攻撃は同時。同威力の火器。両手に2挺。

 撃ち込まれた弾丸は2つ、ひとつはこの左脇腹に食い込んでいる。もう一方ひとかたは――あれか。ドアと彼女を結ぶ直線の延長上、コンクリートの壁に穴がひとつ。床からの高さ110cm。座っていた彼女の頭部を狙い外したか。

 ドア向こうに立つ男、姿は見えぬがその熱源からおよその風体が解る。背丈180cm弱、体温36度台、質量体格ともに充実。御苑に居た男と限りなく酷似。同一の確率99.9%。

 何故ここが? 弾丸に発信機能でもついていた?


 とやかく考えても仕方がない。ここは最下、ドア前に伸びる空間は幅5m、長さ10m。突き当り左は上への非常階段、右はエレベータ。熱源は無いが、単独で来るはずもない。ならばエレベータ内に潜んでいるのか。ならば階段を選択し突破するか。


 ドアを蹴破る。流石にその下敷きにならずに横転する男。床に転がる黄色のキャップ、やはりあのハンターだ。

 廊下は無人。伏兵の気配は無い。

 手をつき上体を起こしたハンター。人の割には機敏だが、俺の眼には遅い。馬鹿め、前がガラ空きだ。

 喉を潰すべく腕を突き出す。がその腕が何者かに止められた。


 ――いつ来た? いつから居た!? 


 40がらみの男、黒スーツにサングラス。背丈185cm。体重ウェイト75kg。

 馬鹿な! 見えなかった! この俺より速い? 赤眼せきがんのヴァンパイアを凌ぐだと!?

 SIT(しまった)! 今度は俺の左がガラ空きだ!


 銃声が鳴り響く。しかし倒れたのは撃った筈のハンター。振り向けば諸手で一挺の銃を構え持つ白衣の女。撃ち手は彼女だと!?

 何はともあれ有難い。止められた腕を押し返し、その勢いのまま膝蹴りを喰らわす。

黒スーツは受けず後退。すかさず追う。上段、中段、下段と矢継ぎ早に突きと蹴りを繰り出す。幹部にも匹敵する自慢の突きを、最小限の捻りでかわす男。音速を超えるはずだが当たらない。すべて紙一重。

 見事な動きだがひたすらに躱し、後退するのみ。面白くはない。明らかにあしらわれている。

 自然と奥へと移動、突きあたりを左へ。床を蹴り、両者ともに非常階段の踊り場へと着地。

 

 僅かな照明が照らす踊り場。その壁を背に、両手を下げて立っている男。

 視界の色がもとに戻る。赤眼の持続はせいぜい1分。久々に息が上がっている。酸素さんそをほぼ必要としない身体が、多量のそれを欲し喘いでいる。

男は余裕の笑みすら浮かべ、おもむろにその口を開いた。


「佐伯裕也」

「……俺の名を?」


 男の手が動いた。そっとサングラスの縁を摘み、外したのだ。

 俺は眼を疑った。彼はここに居る筈の無い男だった。凍りつく視界。頭の毛がゾワリと逆立つ。足が勝手に後退あとずさる。踵がコツンと壁に当たる。


何故貴方がここに(・・・・・・・・)!?』


 くぐもった声しか出なかった。瞬時に接近した男の鷲手がこの喉を掴んだからだ。両手で掴むがビクともしない。

 唇をこの耳元に寄せる男。銃をかたどったその人差し指をグイとこの胸の正中に押し当てながら。


「何故? お解りでしょう。貴方はあの御方のお怒りに触れた」

『……ち、違う! 偶然だ! たまたまここを降りたら彼女・・が居た!』

「たまたま?」

『そうだ! ここに来たのは初めてだ! しかも何もしていない!』

「なるほど貴方は運が悪かった(・・・・・・)


 男の眼が黄金こがねに変わる。

背を抜ける戦慄。必死に離脱を試みる身体。しかしその眼がそれを許さない。


「逃げた所でどうなります? 永久に追われる恐怖に怯える気ですか?」


 喉奥が引き攣る。あの御方の粛清とは即ち滅び(・・)


「諦めて下さい。私もあの方の命には逆らえない」

『どうする気だ……! ヴァンパイアを滅ぼすには銃が……銀の弾丸が必要な筈……!』

「ご心配なく」


 ずぶりと脇腹に差し込む痛みと共に、男が腕を引き抜く。血塗れの手に光るそれを眼にした、その瞬間理解した。

確かにそれ(・・)は、そこにある。


「祈りを。我々にも、しゅの恩恵を受ける権利はあるのです」


 胸を抉る衝撃。肉と骨を容赦なく突き破る男の手。

 ――祈る? 主? 闇を生きる我等に……恩恵など……?


「祈りを」


 消えゆく感覚の中、掌にしかと握らされたそれは十字架だろうか。

 サラリと流れる細かな鎖。硬く冷えた十字の刃金はがね


 なるほど……悪くない。

 痛みも苦痛もなく、意識が闇に溶けていく。これが……滅び――――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ