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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT79 撃てねぇ奴ぁお呼びじゃねぇ【如月 魁人】

 上の作戦を大まかに言やぁこうだ。


『拘束した伯爵を囮にし、各地に散ったヴァンプ達を呼び寄せる。そこを一網打尽にする』


 流れ的には納得だ。すんげぇ解りやすい作戦だもんな。

が言うほど簡単じゃねぇ。「今から来い」っつって、「じゃあ行きます」っつって。どうやってここまで来んのって話。近場じゃねぇぜ。北海道九州方面の方々の話だ。

 仮に新幹線並みの速度で動けたとして、最低でも北から6時間、南から5時間。冬至も近ぇ、根室は4時前には日が沈む。が長崎は5時過ぎまで明るいぜ。9時か10時になんねぇと到着しねぇ奴が出てくる。それまで俺ら、ひたすらドンパチだ。四方八方、どっから来るか解んねぇヴァンプを撃っては殺し、撃っては殺し。それが最低6時間。

 ……6時間。

 ……持つかねぇ。

 相手はヴァンプ。人じゃねぇ。6時間どころか何日も飲まず食わずでやっていけるバケモンだ。もれなく片手で電柱引っこ抜く怪力持ち。音速超えの打撃はとうぜん、眼力持ちも居りゃあ桜子みてぇに音声使って攻撃する奴も居る。そりゃ目隠し(ゴーグル)耳栓イヤープラグもあっけどよ? その分視界は制限される。しかも司令や田中っつう規格外まで居やがる。


 俺は手にした水筒をぐいっとあおった。濃いめのブラックが乾いた喉に沁みていく。


「結弦」

「うん?」

「味方を気にして仕留め損なうんじゃねぇぞ?」

「解ってる。それより地下道の対処は万全なの?」


 おいおい誰に聞いてんだ? この俺がそこ見落とす訳ねぇだろよ! 目に見えねぇ永田町地下一帯の地下通路。奴等がこそこそ入りこめる格好の穴場だかんな!


「たりめぇよ。地下鉄と各ビルの出入口も固めたぜ。万一って時の兵隊も置いたしな」

「ハンターを?」

「おう、Aランクは全部回したぜ。SATも借りた」

「SATは当てにならなくない? 対ヴァンプの訓練、受けてないだろ」

「そう馬鹿にしたもんじゃねぇ。今日集まった奴ら、全員が志願兵だとよ」


 とたんに結弦の奴、「へぇ~」って顔したぜ。志願兵、つまりはそれなりに思う所(・・・)があって来た奴らってこった。そういう奴らはいざとなりゃあ怖ぇぜ? 


「問題はインカム(これ)だ。今試したが、ロクに繋がんねぇの」

「じゃあ僕が行こうか?」

「あ?」

「僕もH(ハイ)ランクだしね。ああいう暗い場所は視力とか関係ないし、適任だろ?」

「……ああ。じゃあ頼むぜ?」


 支給された乾パン頬張りながら結弦の奴、笑ってら。いっときの緩い休憩中。SATも自衛隊員も和んでやがる。……ま、今だけだ。日が落ちたその時ぁ地獄を見るぜ。何があってもおかしくねぇ。


 そうこうするうち休憩終わり。俺ぁ姫にカポカポ乗っかって、議事堂の敷地内を隈なくチェック。色々聞いてくる隊員どもに答えながらな。


「魁人、ちょっといい?」


 結弦がこっそり耳打ちしやがった。ちょうど正面前に戻ったタイミングでだ。


「なんだ?」

「いや、ちょっと」


 結弦が兵隊の居ねぇ木立の陰に手招きするもんだから、俺は黙って付いてった。

 当たる風がやたらと冷てぇ。乾いた木の葉がからっ風に巻きあげられて、結弦の肩にヒラヒラっと乗っかった。それを払う奴の袖口に、キラッと光る緑のカフス。明らかにブランドもん。ブランドの蝶ネクタイにブランドのスーツ。髪もこ綺麗にセットやがって、これ以上ねぇくれぇお上品にまとまってやがる。


「そういやお前、SATの装甲ふく借りねぇの?」

「人の事言える?」

「あ?」

「魁人だっていつもの格好じゃないか」

「俺は指揮官だぜ? 一兵卒と同じカッコじゃ目立たねぇ。指示とか出せねぇだろ」

「それだけ?」

「まあ……実を言やぁ重てぇ装備はまっぴらだ。奴らに遅れを取っちまう」


 結弦がそらみろって顔しやがった。ハンターはもとが一匹オオカミだ。自尊心も強ぇし、自分に一番の恰好カッコってのにもこだわる。そこんとこ、俺の方も良~く解ってるって言ってんのさ。ヤな野郎だぜ。


「……で何だ、話ってのは」

「実を言うとさ、局長に向かって引き金を引く自信が無いんだ」


 ポケットに両手突っ込んで空を見上げた結弦。


「あのリサイタルの夜、僕は撃てなかった。あの時さっさと撃っていれば、状況は違ってた」

「無理ねぇよ。あん時ぁ司令がヴァンプって確証なかったもんよ」

「さっき局長の頭を撃った時も、とどめを刺しておけば――」

「それ言っちゃあ俺もだ。撃つチャンスはいくらでもあった」

「でも……!」

「気にすんな。司令の情報と仲介があって、初めてヴァンプを一掃する目途が立ったんたぜ?」


 結弦はため息ついて項垂れてよ。足元みたまんま黙っちまったから? 俺ぁ思い切りその肩どついてやった。


「んな顔すんなって! 言ってたろ? 次こそ遠慮は要らねぇ、そん時が来たらひと思いにやれって。司令自身が望んでんだ」


 ブルルっと鼻ぁ鳴らして寄ってきた姫に俺は飛び乗った。耳のピアスが陽の光をチカチカっと照り返す。

 ったくよ、ヘタレなのは俺の方だぜ。なあ姫。


「……俺も偉そうに言えたガラじゃねぇが、ただこれだけは言えるぜ。撃てねぇ奴はお呼びじゃねぇ」


 結弦は伏せてた顔を上げた。太陽背にした俺をしばらく眩しそうに見上げてたと思ったら……抜いたベレッタのスライドをガチンと引いたぜ。腹ぁ決まったんだろ。

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