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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT71 馬が早ぇ!【如月 魁人】

 ガチッとベレッタにマガジンを嵌めこんだ結弦が俺を見る。

 ハッとしたね。ハンターが現場に向かう時の眼だった。現場はハンターに取っちゃあ死地よ。ヴァンパイア相手に生きて帰れる保証なんて何処にもねぇ。そんな時にそんな顔するてめぇは……やっぱハンターなんだな。


「免状持ちが組むこたぁ滅多にねぇ。お手柔らかに頼むぜ?」


 俺ぁ弾薬込め終わったシリンダー戻しながら、奴に向かってニヤリと笑って見せた。軽口のつもりで言ったんだが、奴は唇噛んで眼ぇ逸らしやがった。まるでこれが今生の別れみてぇな顔してな。


「魁人くんに麻生くん、伯爵様と佐井先生を頼んだよ」


 司令は司令でそんな事言いやがる。俺ぁ頬が引きつったね。頼むってどういう意味だろうってね。でも敢えて突っ込まなかった。司令ははっきり「始末しろ」とは云えねえ立場だからな。協会の人間で、俺達の味方だって事ははっきりしたが、ヴァンプである以上伯爵には逆らえねぇもん。

 だから伯爵は始末する。ただ、女医のこたぁどうすりゃいいんだ?

(俺らを助けてくれた事に関しては置いとくぜ。ハンターとしての俺らがどう対処すりゃいいかって話だ)

 始末しても咎めがねぇのは解ってら。女医はヴァンプ志願者だ。だがどうもすっきりしねぇ。彼女、結弦や麗子さんのこと、本気で治そうとしてたからな。これだけははっきり聞いといた方がいいかもしんねぇ。


「あんた、まだなりてぇ(・・・・)とか思ってる?」

「え?」

「ヴァンプになりてぇ気持ちは変わんねぇのかって聞いてんの」

「変わらないわ」


 変わんねぇのかよ。


「はっきり言っとくぜ。俺は恩人でも容赦はしねぇ。ヴァンプとその志願者はハンターの撲滅対象だ」


 俺は銃口を女医に向け、その眉間に狙いをつけた。


「気が変わらねぇってんなら、いまこの場で撃ってやるぜ。ヒトだからこそ楽に逝ける急所にな」


 何か言いたそうに口を動かして、俺の眼を見てた女医が、口を閉じて目を瞑る。

 ……なんでだよ。なんでそうまでして……ヴァンプなんかになりてぇんだよ。


「俺にはわかんねぇ」


 俺の親指は撃鉄の上に乗っかったまま。


「ガキの頃、夜の明けねぇうちに起き出して、馬に乗って浜沿いを走ったもんだ」


 女医が目ぇ開けて眉間に皺を寄せやがった。司令も結弦も麗子さんも、おんなじ顔して俺を見る。


「よく晴れた日なんかはな。姫……ああ、俺の馬のことだがな? 彼女が立ち止まってはブルルっと鼻ならす訳よ。降りて見りゃあ一面に生えたキスゲ(エゾカンゾウ)が足元くすぐって……所々ハマナスも咲いててな。

 風はねぇ。刺さるくれぇ冷てぇ空気。そんな中、水平線のヘリにゃあくっきりと利尻の山が浮かんでんだ。

 たまに知り合いの漁師が獲った魚持ってくんのよ。ソイって魚がいるんだが、生きじめしたてのそいつをサっとさばいてよ? その場で口に入れた時のシャッキリ感と、しつこくねぇ旨味がもう最高なんだぜ? 東京じゃあ味わえねぇ贅沢よ」


 誰も、何も口にしねぇ。銃口を女医に向けたまんまの俺はため息をひとつ。


「俺ぁ決めてんだ。ヴァンパイアを一掃できたその日が来たら一旦あそこに戻るってな。

 キリリと冷てぇ早朝に、利尻見ながら、塩味の効いたソイを食うってな。人間ヒトで居られる喜びを噛みしめながらな」


 何がおかしいんだか、女医がクスッと笑った。何だよ、結弦も麗子さんも……司令まで笑うこたぁねぇじゃねぇかよ。


「あなたの言いたい事は良く解ったわ、カイトくん?」


 思わず眼ぇ逸らした。すっげぇ笑顔でこっち見た女医があんまり綺麗だったからな。

 ……ち……ちげぇよ! 俺が女なんかに惚れるわけねーだろ! 俺には姫っていう大事な相棒が居るからな!


 姫の話をすりゃなんとやら。玄関ですんげぇ音がした。外から大砲でもぶち込まれたみてぇな。メイド達の甲高ぇ声が壁ごしに聴こえたんで、俺ぁ慌てふためいて廊下に出たのよ。したら居たよ! あの頑丈なドアぶち破って駆けこんだ犯人が!


「姫! お前なにやってんだ!?」


 俺の声を聞いた姫は、静まるどころかますます乱気になりやがった。棒立ちで前足振り上げるわ、尻っぱねて靴置き場壊すわ。

 俺は姫の腹下に駆け込んで、彼女の胴体にしがみついた。(馬ってもんは自分の腹の下には手も足も出ねぇからな!)

片手でたてがみ掴まえて、片足で地面を蹴って背中に乗っかる。またまた姫が棒立ちになったが、離すもんかってんだ。


「姫! しずまれ! 俺だ!」


 さすがに耳元で叫べば聴こえんだろ。やっと前足降ろした姫が、短く鼻ならしてこっちを見た。


「乗れよ結弦! 女医もだ! 早く!」

「待って? まさかそれに乗って議事堂に?」


 俺ぁ二人の腕掴んで後ろに座らせた。ちと強引だったかもしんねぇ。でも居ても立っても居られなかったんだぜ。


「地下鉄も車もまどろっこしいぜ! 馬が一番早ぇ!」


 さっき高く嘶いた姫の眼が金色に光って見えたのは……気のせいなんかじゃねぇ。司令と同じ、ヴァンプの眼だ。あの蝙蝠はやっぱ伯爵の手下だったわけだ。


 畜生! 伯爵の野郎!! ぜってぇに許さねぇ!!!

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