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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT56 ずばりラブドね!【佐井 朝香】

「……治る? 弾丸型のウイルス?」


 呟いた麻生。そっと弾丸を受け取って、方向変えながらしげしげ眺めて。


「そうよ。同じラブドウイルスによる疾患に、狂犬病ってのがあってね? 噛み付かれて感染するとか、狂暴性が増すとか、光を怖がるとか……とにかく病態が酷似してるの」

「え? 酷似って、それだけの理由で断定したんですか?」

「そうよ?」


 そしたら麻生くん、な~んだって顔してベットに身体を投げ出しちゃった。


「そういうの、当てずっぽうって言いません?」

「あ、あのね? あたし、昔からこういうのには自信があるの」

「だって根拠がそれだけなんでしょ?」

「聞いて。病気に関してだけなんだけど、いわゆるが働くのよ。パッと閃くの。治療法が解らなくて、悩んで悩んで悩んだ末に眠っちゃって、起きたら解決策が解ってる。そんな事がしょっちゅうで? 今もそう。さっき起きたら、狂犬病っていう単語が頭の中に浮かんでた。ワクチンって単語もね」


「あははは! ワクチン? ワクチンですって!?」


 また笑った。笑ったわ。それ、あんまり良くない癖よね?


「僕は感染してるんですよ? ワクチンは予防の為のものでしょ? それくらい僕にだって解ります!」

「それが間に合うのよ。狂犬病は潜伏期間が10日から数か月って言われてるくらい長いの。感染した後でも発症を防止できる稀な病気なの」

「へぇ。でもそれでも間に合いませんよね? 知ってます。前にテレビで見たんです。ワクチンの開発はどんなに急いでも1年はかかるって」

「えぇ、普通は何年もかかる。開発費も莫大。でもいいの。既存のワクチンがあるから」

「既存?」

「そうよ! ずばり、狂犬病のワクチンが使えるの!」


 麻生くん、今度はなにか諦めた顔しちゃって、両手で顔を覆ったわ。


「よく解りました。先生の神通力・・・(笑)に頼るしかないって事が」

「……な~んか引っかかる言い方だけど、要するに試すのもやぶさかじゃ無いって事ね?」

「いいえ、大いにやぶさかです。他に道が無いってだけです」


 そう言って彼、覆ってた手で前髪をかき上げた。いつもは長い前髪で隠している右眼が露わになって……ドキリとした。照明を照り返すその眼の色が普通じゃなかったから。あたしとしたことが今頃気づくなんて。


「その眼、見えてないのね」

「ええ。怪我がもとで見えなくなっちゃって」

「怪我? 良く見せて? 大変ね、ハンターも」

「いえ、あのっ」

「水晶体の脱臼? 古い炎症? 眼底鏡が欲しいわねぇ……」

「……あはは……先生はほんとうに……先生だなあ……」


 彼、スウッと息を吸って眼を閉じて。そのまま眠っちゃった。いけない! 彼が普通の身体じゃないって知ってて!



 ドアを数回叩く音。

 今度は誰かしら? 伯爵……じゃないわよね。たぶん彼はノックなんかしない。


「誰? 柏木さん?」

「ええ。ただいま戻りました」

「入って入って! 丁度お願いしたい事があったの!」


 ガチャリとドアが開く。いつもと全く変わらない井出達で、静かに立つ柏木さん。

良かった。ハンターは片付けてきたみたいね?

 油断なくその眼を室内に向けていた柏木さんの眼が、診療台に横になる麻生の上で止まる。


「麻生結弦の診察を?」

「そうよ。ちょうどいま眠ったとこ」

「容態は如何でした?」

「ヴァンプ化はしてないけど、危うい状態。いわゆるサーヴァントって奴ね」

「やはり……」


 悲痛な眼を麻生に向ける柏木さん。痛むのかしら、右腕の無い肩をぐっと掴みながら。


「その子はどうです? 普通の人間でしたか?」

「え……たぶん」


 そう言えばあたし、麻生の事ばっかりで、娘ちゃんの事はあんまり気にしてなかった。あんな状態で生まれたのに、意外に元気そうで、普通で。でもそうよね。普通じゃないはずよね。


「先生。例の事もお願いします。足りない器具器材があればおっしゃって下さい」

「え? じゃあ狂犬病のワクチンをお願いしたいわ」

「は? ワクチン?」

「そう。安全を考えたら、生じゃなく、不活化がいいわね。どう? 手に入る?」

「入らない事もありませんが、何に使うおつもりです?」

「治療よ。麻生結弦の。もしヴァンパイアがラブドウイルス感染症の患者なら、効果があるかもなの」

「なんですって!!」


 柏木さんったら、眼を真ん丸にして大声出して! そんなに驚く……?


 あたし、麻生に説明した事をかいつまんで話したわ。そしたらすぐに彼、「手配してみます」ってすぐに頷いて。後ろ手で扉を開けた、その時だった。

 廊下の向こうで重たい物が倒れるような音がしたの。ダン! って。それを見た柏木さんがそのままの姿勢で硬直してる。なに? そこに、誰か居るの?


「困るんだよね、そういう事されちゃあ」


 低い女性の声。でもその言い方はさっき出て言ったばかりの菅大臣そっくり。


「私は反対だよ。幹部が増えるチャンスだってのにさ」


 そう言って柏木さんを押しのけて、部屋に入って来た人物。それはあたしの良く知ってる人だった。

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