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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT52 司令の悲願【如月 魁人】

「フカシこいてんじゃねぇこのアマぁ!」


 グリップを強く握り直す。革のグローブが引き絞られてギュッと音を立てる。この音、尋問には効果的だろ? 流石の麗子さんも眼ぇつむるほどにな。


「てめぇの正体は解ってんだよ、日比谷麗子。司令と同じ大学出で、司令の尻追っかけてうちに出向した挙句に秘書までしてた」

「それは――」

「デキてんだろ? 司令と。そんな女が司令の変化に気付かねぇ訳がねぇ。人のままで居られるハズもねぇ」

「ちがうわ!」

「じゃあ何でこの字が読めんだよ! この宗一郎・・・ってサインが! 司令はよっぽどの相手にしか教えねぇハズだ!」


 俺は撃った。彼女の胸部狙って2発。


 これでもヴァンプの特性は熟知してるつもりだ。奴らは攻撃されたら必ず反撃する。そういう風に出来てやがる。

 もし彼女が人間だった場合は気の毒だが、疑わしきは撃てるのが免状持ちの特権だ。非情も時には必要よ。つか、ぜってぇ大丈夫だろうがな。助けに入る誰かさんが居っから。

それが誰かって……決まってら。さっきからずっとその木の陰で様子うかがってる――司令! あんただよ!!


 案の定だ。発射音に続く着弾音は無し。


「いまのは少々強引だったね、魁人くん?」


 声の主の、その左手からパラリと落ちる2発の弾。麗子さんまでの距離は3間(約5.5m)。その丁度の狭間に司令が立ってた。


 ヘナヘナっとその場に座りこむ麗子さん。その眼は金でも赤でもねぇ。まともに狙いつけられて撃たれたのにな。つまり彼女は人間。悪ぃな。試す真似なんかしちまって。


「何故気付いたのかね? この私がそばに居ると」

「見くびらないで下さいよ、俺、野育ちっすよ?」


 俺ぁトントンっと靴で地面を叩いてみせた。姫がサッとこっちを向いたぜ?


「地面の振動を察知、識別したか。流石だね」

「いやそれ程でも……って司令!? 腕どしたんすか!?」


 いきなりだが驚かずにゃ居られるかって! 無ぇもんよ、司令の右腕が無ぇ! 肩からバッサリ!


「ああ。伯爵の眼鏡に適った女性を襲った罰さ」


 サラッと答える司令。その黒っぽい切り口から血は一滴も出ていねぇ。……ビビるじゃねぇか。

 あれか? さっきBMに乗ってたあの伯爵が、そういう事をしたわけか。仲間内でなにやってんだ?


 その司令、俺がまだ銃口向けてんのにそれを気にした風もねぇ。座ったまんまの麗子さんに手ぇ差し出して、麗子さんがその手を取る。見ろよ2人の顔。どっか納得し合った顔しやがって。とりあえずデキてんのは間違いねぇ。

 つか何これ。まるで俺が悪党で、司令の方がヒロイン助けた正義のヒーローみてぇ。アホくさ!


「司令、そろそろ腹割りません?」

「魁人くん?」

「きゃっ!」


 俺がその場にドカッと座り込んだもんだから、流石に驚いたんだろう。司令が立ちあがりかけてた麗子さんの手をパッと離したんもんで、彼女はドサッと尻もちだ。はは! ざまぁ見やがれ!

 銃のセイフティーをONにしてから、芝生の上にそっと置く。エラそうに腕組みなんかもしてみる。知ってるぜ、司令は戦意(ヤル気)のねぇ奴に手出しはしねぇ。ぜってぇにな。


「解ってますって。ほんとは司令、俺らの敵って訳じゃないんでしょ?」


 口から出まかせじゃねぇぜ。麗子さんを見る眼、ありゃ完全に人間の眼だったからな。そんな司令、困った顔はしたが否定はしねぇ。……仕方のねぇ人だぜ。


「居ますよね? 司令を地下に閉じ込めた奴が。本当の敵がに居るんでしょ?」


 上ってのは上だ。司令の上の階級の奴ら。

 協会うちの階級は昔の軍隊式だ。

 俺は伍長。言ってみりゃあ班長みてぇなもんか。司令はあれで曹長(上等兵曹)扱い。あくまで現場の指揮官だ。

 協会には上が居る。つまりは将校と呼ばれる連中よ。現場も知らねぇで椅子にふんぞり返るしか能がねぇなんて腐される、実際お飾りには違いねぇらしいんだが、俺達が「元帥」と呼ぶ人間だけは別だ。

 元帥。司令をアゴで使える、ハンター協会の最高司令官。俺もその正体は知らねぇ。司令と将校どもと……流石に閣僚どもは知ってるか。

 あ? とどのつまり、何が言いてぇかって?


 だからよ、そいつしか居ねぇじゃん! ヴァンプ化した司令を拘束し、ハンター育成に役立てるよう指示した人間が居るとしたら!

 だが相手はあの司令で、しかもヴァンプだ。敵う奴ぁ誰も居ねぇ。少なくとも人間・・には。

 そこまで考えたとき、ぞっとしたぜ?

 元帥その人も実はヴァンプなんじゃねぇかってな!


「ずばり、元帥でしょ? そうでしょ?」


 時々キラッ! キラッ! と地面を照らす木漏れ日に眼を向けてた司令が、ふと天を仰いだ。


「案外鋭いね、魁人くん?」

「やっぱそうなんすか?」

「ここまで来たら否定はするまい。その通り。元帥は人間ひとではない」


 いきなり姫がいなないた。ビクッとする麗子さん。姫のやつ、前足で地面ガシガシ引っ掻いてら。俺ぁ姫のそばに寄って、首んとこカリカリしてやったぜ。こいつ、俺が他の女に構うたんびに妬きやがる。


「手ぇ貸しますよ司令」

「……魁人くん?」


 いきなり何言い出すんだって顔する司令。まあな、俺も半分は思い付きだが。


「ヴァンプ化したって、司令は司令でしょ? 俺は信じてますよ、司令のこと」

「どんな風にだい?」

「本気でヴァンプを撲滅するつもりだって事っすよ」

「……」


 真面目な顔したまんま、司令がじっと俺を見る。


「ではそんな君を見込んで、ひとつ頼んでもいいかね?」

「い……いいっすよ!!」

「この私を殺すんだ」

「……え!?」


 ヒュン! と空が鳴って、吹き降ろした風が枯れ葉を散らす。ザァ! と鳴るこずえ。ハラハラ落ちるカエデの葉。


「……なに言ってんすか?」

「君の言う通り、ヴァンパイア撲滅が私の悲願。つまりはそういう事だ」

「そりゃそうかもだけど、でもそれって……今? いまこの場で撃てって?」

「そうして欲しいのは山々だが、君1人では手に余る。麻生の手を借りるといい」


 だろうな。例え本人が死ぬ気でも、攻撃されたら反撃しちまうのがヴァンプだからな。


「気を付けたまえ。伯爵は君と麻生を捉え、仲間にせよと仰せだ。幹部に据えるおつもりなのだ」

「は!? そんなの無理ですよ!? 知ってますよね? なりてぇって思わねぇ限り、ヴァンプ化する事はねぇって」


 だよな? なっちまった司令が一番良く知ってるはずだ。司令はなりてぇと思ったからヴァンプになった。(もちろん本意だったはずはねぇ。伯爵の野郎が卑怯な手ぇ使ったんだぜ?)

 って……じゃあ……結弦は?


「……なっちまったんですか?」

「……ん?」

「結弦はヴァンプになっちまったんですか!?」

「解らない、と言うのが今時点の答えだ。未だに目覚めないのさ」


 ホッとしたぜ。とりあえずだ。サーヴァントになってる可能性もあっからな。


「麻生に会わせてやろう。今ならまだ間に合うかも知れない」

「いいんすか?」

「そのために来たのだろう? ヴァンパイア化しようとしまいと、君は麻生に会う権利がある。それから考えるといい」


 歩き始める司令。フラッとそれに付いてく麗子さん。

 俺ぁ拾った銃を腰にしっかりホールドしたぜ。そうだ。どの道結弦に会うしかねぇんだ。もともとその為に来たんだしな。

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