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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT51 ぶっ壊れた夢【如月 魁人】

 ありゃあ中学出たての春だった。ってこたぁ……11年前にもなるか。

 俺、ほんとは騎手になりたかったのよ。どうせなら中央競馬だ、なんて貯金ハタいて内地の土を踏んだわけ。と~ぜん姫も連れてった。俺ら一心同体だからよ。

 ま、そのくだりは長くなるから置いとくか。函館までトラックで移動したはいいが、フェリーで青森着いて早々、運転手のあんちゃん倒れちまった話とか、うっかり財布をシートに置き忘れちまって、結局姫に乗っかって東京まで移動するはめになった事だとか、そんな話はよ。移動中の3ヵ月、飯代宿代稼ぎに牧場関連のバイトしまくった話もな。

 こっからが本題よ。JRA(日本中央競馬会)競馬学校の受験日にギリで間に合ったはいいが、いざ身体検査で体重計に乗っかって、びっくり仰天しちまった。60キロを優に越してたのよ。その場で落ちたぜ! 俺の年齢としじゃあ45キロが上限だからな! たぶん三月みつきの力仕事&爆食いのせいだろな。

 しかも、しかもだ。仕方ねぇ、出直すかってスゴスゴ戻った新宿の宿泊先が火事で燃えちまっててよ? 俺ぁ着の身着のまま夜道歩いてたのよ。こうなりゃ仕方ねぇ、文無しだし、姫迎えにいってそのまんまサロベツ帰ろうかな~なんてボヤいてた時だ。

 いきなり出くわした。ヴァンプにだ。ビルとビルとのほっそい隙間で、女を襲う直前だった。俺ぁ爺様の形見だけは肌身離さず持ち歩いてたもんでよ? こりゃいけねぇって咄嗟にぶっ放したわけ。運よく命中したぜ? きっちり心臓のど真ん中。爺様仕込みのフォームで、タマも形見の銀弾だ。よろよろっとよろめいたそいつが歩道に出てバッタリ。悲鳴上げたのは居合わせた通行人だ。悪ぃことに巡回中のおまわりも居たわけだ。

「お疲れ様です! ハンターの方ですね?」なんて挨拶されて、俺ぁ「へ?」なんて聞き返したもんで不審に思ったんだろ。「念のためハンターの免許証を見せてください」と来たもんだ。人生終わったと思ったね。免状なんてとんでもねぇ、銃所持の許可証すら持ってねぇもん。

 すわ連行かと覚悟したそん時だ。何者なにもんかがお巡りの背後に立ってやがった。黒スーツにオールバック。背の高ぇ見た目30過ぎのおっさん。この人こそが当時の柏木司令だったんだが、「うちのハンターが何か?」つってお巡りの肩をポンと叩いたわけだ。

 なんでもたまたま(・・・・)通りかかったってよ。俺に取っちゃあ白馬の王子様。事情話したら「とりあえずウチに来るかい?」なんて事になって、あれよあれよという間にハンター協会の構成員にされちまった。

 入ったら入ったでもう手取り足取りなわけ。下積み期間は昼も夜中も掃除に精出してた俺だがよ? 気付けば後ろに居んの。「その汚れはクエン酸が良く落ちるよ魁人くん」つってガラスの瓶寄越したり。作業後のシャワー中に「背中流すよ魁人くん」って後にたってたり。俺も俺で調子こいて公舎に馬小屋作ってくれって頼んだらマジでそれなりの厩舎が敷地内に建ったから、こりゃヤベぇと思い始めたわけだ。この俺に気があんのかってな。東京にゃそっちの奴も大勢居るから気をつけろって爺様にも言われたしよ? だが別に告られるとか襲われるとか、そんな事は一切無し。何もないまま月日が過ぎて、あっと言う間に11年たった。



 ……あ? 何の話だった?

 そうだそうだ! このTシャツの話だったな!

 これぁ俺があのH(ハイ)ランク認定受けた日……つまり祝いのSIGを蹴った日に、「魁人君は騎手志望だったね?」なんて言われて貰ったもんよ。聞けば司令、そこそこ有名な書道家だっつーじゃねぇか。それを、姫をイメージして筆走らせたって言われたらこりゃもう喜ぶっきゃねぇ。

 生まれて初めてだぜ? こういうので感動したの。今じゃ俺の勝負服よ。横にちょこちょこっと引っ掻いたサインもあるんだが……読める奴ぁ居ねぇな。


「……そう、いち、ろぅ」

「……あ?」


 居た。ここに居た。

 俺は思わず麗子さんの顔を見た。

 確かに言った。シャツにある司令のサイン見て、確かに「宗一郎」って。

 こりゃあもう決まり(・・・)だろ?


 俺は両手のリボルバーをグルグルッと回してピタリと照準を合わせた。銃口が自分に向いてるって気付いたんだろ、麗子さんが木をバックにして身構えた。


「ちょっと! ふざけないで!」

「ふざけてるつもり、ないっすよ?」


 親指を上げて撃鉄を起こす。その音にピクリを肩を震わせる麗子さん。だが慌てず騒がず。流石っつーか。


「ちょっと教えて欲しいんスけど」

「なにかしら」


 突風が落ち葉を数枚吹き散らす。ただの落ち葉っつっても、俺の掌よりデカいホウ(・・)の葉っぱだ。視界が一瞬遮られる。その隙を狙ったんだろう、麗子さんが動いた。動こうとした。だが俺の動体視力、ナメてもらっちゃ困る。

 甲高い火薬の炸裂音。穴のあいた幹から木端こっぱが落ちて来て、麗子さんの頭のてっぺんにパラパラっと降り積もる。ウィリアム・テルよろしく彼女の頭上を狙った一発だ。

 撃鉄起こしてシリンダー回す。見開かれた眼。


「司令がヴァンプだって、割と前から知ってました?」

「いいえ?」

「じゃあ地下室に居たヴァンプが司令だったってことは?」

「知らないわ。3日前のあの事件で初めて知った事実よ」

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