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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第1章 幹部編
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ACT42 バトラーで司令で局長で?【佐井 朝香】

 あ! っと思った時、柏木さんは麻生を組み伏せてた。

 なにそれ、ぜんぜん見えない、見えなかった! 速すぎるの。柏木さんの影すら追えない、ほんとに瞬間移動。さっきの桜子さんと同じ!


 抵抗できずに横たわる麻生。掠れた声で、局長って言うのが聞こえて。

 局長・・。ハンターがそう呼ぶならハンター協会の局長のことよね?

 柏木さんって、いったい何者? バトラーかと思えば劇場の支配人になってたり、局長なんて呼ばれたり。どれがほんとの柏木さん?

 柏木さんが何か言ってる。その声は柏木さんとは違ってて。またまた仮面を取ってみせた柏木さんは、違う顔ではあるけど……やっぱり素敵なおじ様で。いったい何枚つけてるの? それともそういう能力持ちのヴァンパイア?


 見つめ合ったまま動かない2人。押し倒した男と、押し倒された男。

 ……ちょっと。いま一瞬ドキッとしちゃったじゃない。何だかいい雰囲気だなって。柏木さんすっごい優しい眼をして、麻生の首を撫でてる手の動きなんて、まるでベットの上で恋人にでもするみたい!

 ただあたし、麻生の言った一言に、別の意味でドキっとした。

「ヴァンパイアか、人間か、どちらの味方なんですか?」って言葉に。

 そう言えば……どっちかしらって。ヴァンパイアになりたい自分は人間とヴァンパイア、どっちの味方なんだろって。


 でもね? 黒い集団に囲まれてるのに気付いたの。ぜんっぜん足音とか立てないから、今の今まで解らなかった。柏木さんの眼がまた金色に光ってる。


「結弦から離れてくんない? 司令?」


 そう言って進み出たのは昨日のハンター、カイト。今日はプリントのシャツを着てる。黒い馬が走ってる柄のシャツ。

ちょっと待って。

 え? えぇ!? 司令ってあの司令・・? 昨日あたしを凄い眼で睨みつけて、あたしを桜子さんのお屋敷に行くように仕向けたあの!? 佐伯をやっちゃった、人間離れした雰囲気のあの司令!? うそ!! あの怖い司令と柏木さんが同一人物!!?


 カイトが銃を向けてる。あのピカピカ光る銃を、2挺とも柏木さんに向けたまま。

 まずいわ。これ、柏木さんでも無理じゃない? 多勢に無勢すぎる。どこにどう動いたって弾が飛んでくる。いくら素早く動けても、雨あられの銃弾は避けきれない。

 駄目! カイトの眼が据わる! 指にグッと力が籠る!


「じゃあな」

「ちょっと待ってよ!」


 あたしはたまらず柏木さんの前に飛び出した。もしかしたら大丈夫かと思ったから! 人間なら、ヴァンパイアでないあたしならって!

 でも無駄だった。銃はこっちに向いたまま。数えきれない銃口があたし達を睨んだまま。

 あたし、赤ちゃんをギュッと抱きしめてギュッと眼をつむったわ。後悔しても遅いわね。終わったわ。もう終わり。退場。さよなら! みんな、いままで応援してくれてありがとう! 

 でも柏木さんは諦めてなんか居なかった。いつもと同じ、風にさわさわ流れる麦畑みたいな調子で言ったの。


「彼女もその赤ん坊も一般の人間だ。撃てばどうなるか、解るな?」

「あ、はい!」


 ――え? 

 こんな時だけど、あたしニヤニヤしちゃった。柏木さんに窘められた男たちの反応が、あんまりコミカルだったから。

 でも笑ってる場合じゃないみたい。あたしを見つめるカイトの眼は笑ってない。二つの銃口をこちらに向けたまま。銃の撃鉄も起こしたまま。「詰みでしょ?」なんて柏木さんにハッパかけたりして。

 でも柏木さんはあくまでも平常心。アルカイックスマイル浮かべたまま、焦らず、騒がず。まるで教会に立ってるマリア像みたい。この明らかに絶対絶命って状況で……


 柏木さん、さっきは庇ってくれてありがと。次はあたしが庇う番。少なくとも物理的な隙間は出来るわ。あたしに当たった弾のいくつかは後ろに届かない。あたし分の隙間が出来る。

 だから逃げて? 奴らが撃った瞬間に逃げて。ね?


『10を守る為に1を殺せ』


 その言葉が合図。銃が火を吹く合図。

 あたしは今度こそ覚悟して眼を閉じた。

 同時に響く無数の銃声。でも……何の衝撃もない。


 眼の前に黒い影が立っていた。カイトとあたしとの間に、立ちはだかる黒い影。その後ろ姿は柏木さんでも、まして麻生でもない。


「……田中さん」


 柏木さんの呟いた名前は、あまりにもありふれた名字の一つだった。

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