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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第1章 幹部編
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ACT41 恐れしらずかよ【如月 魁人】

「結弦から離れてくんない? 司令?」


 一応は頼んでみたぜ。司令の眉間と心臓腰だめに狙いながらな。

 ああ! ぜんぶ聞こえたぜ! 司令が実はヴァンプで、しかも地下で俺達を鍛えたご本人様だとよ! 


 ああそうだ。間抜けは俺だ。復帰後の司令の様子がおかしいって解ってた。「まるでヴァンプだ」と首捻った事も1度や2度じゃねぇ。気付いたら居ねぇとか、足音しねぇとか。だいたいひと月まえの、あの時に気が付くべきだった。あの麻生家襲撃事件で怪我した結弦を見舞ったそのすぐ後だ。

 実を言やぁ相当カッカ来てたのよ。結弦の親父さんもお袋さんも良く知ってたからよ。許せねぇ、いっそVPの本部にでも乗り込んでやろうかなんて、ほら、新宿の駅から西にちょっと行ったトコにあんだろ? 都庁の横ちょに堂々、あの、壁も窓もムラサキ色に塗ったくったデッけぇビルが。門のトコに「アルファベータ人材派遣」なんてあるが、あれこそが総本部。司令が行ったのがまさしくそこ。俺も客の振りすりゃ何とかなんだろってそっち方向に足むけたとたん、スマホが鳴った訳だ。事務局からだ。H(ハイ)ランク認定の更新手続きって奴が要るから今すぐ来いってな。

 仕方なく事務所に行ったらタマげたぜ。受付に司令が座ってんの。思わず受付台に飛びついちまったくらいだ。「司令!? 身体の方はイイんすか!?」ってな。司令、例の平和顔で「まあね」って答えてよ? ゴトリと俺の前にブツ置いたんだ。

「なんすかコレ」

「昇格祝いだ、使いたまえ」

 見りゃあ真っ黒なSIG P226だ。うーわこれ、マガジンがダブルで16発も出るやつじゃん。うっかりトイレに落としてもも気にしねぇで使える優れもん。米軍のトライアルで、ちょい高価ぇのと、手動のセイフティーがねぇって理由でベレッタ92に負けた、言ってみりゃ「実力はこっちが上」的な銃。

 いやいや、つっ返したよ。こんなんハイカラすぎて俺には似合わねぇって。自分のが一番だって。したら司令、

「君の銃は重たすぎるだろ?」なんて笑うのさ。

 俺ぁハッとしたね。地下室での3年間、ずっと言われ続けた言葉だったからよ。そいつも「その銃は君には重たすぎる」って何度も何度も。

 恩ある爺様の形見を放したくねぇんでって断ったら司令、薄気味悪く笑ってな? SIGの銃口こっちに向けたのよ。

 ビビったぜ。ビビったが司令のこった。悪い冗談に決まってら。

俺ぁじっとその眼を見返した。ピカリとその眼が金色に光った時もな(昇って来た朝日か何かが反射した、くれぇにした思わなかったからな!)。部屋には俺と司令だけ。壁の時計がカチカチ鳴る音。そんななげ時間じゃなかった筈だ。

「君には負けたよ、カイトくん?」

 銃降ろした司令が用紙とペンを寄越してな? そん時に触れた司令の手、妙に冷てぇ気がしたっけ。


 ……思い返せば怪しい怪しいのオンパレードだ。

 信じたくねぇ。考えたくもねぇ。だがんなこた言ってられねぇ。司令は結弦を仲間にする気だ。さっさとらねぇのはそういうこった。

 司令は黙ってこっち見てやがる。結弦の上に乗っかったまんま、髪の毛一本動かさねぇ。見返す眼が満月みてぇに光ってら。すげぇ。トラみてぇだ。暗がりに隠れてたトラが、ハンターに挑むときの眼だ。


「司令、俺の声聞こえた?」

「ああ」


 答えはしたけど、やっぱ司令は動かねぇ。どく必要なんかねぇって顔だ。こりゃ投降する気もねぇだろな。

 どうする気よ。俺1人の弾なら捌けても、総勢200、壁向こうに2重の包囲網。流石の司令でも無理だろよ。それとも結弦居るから撃てねぇとか踏んでる?

 甘いぜ。俺らハンターは命より任務だ。ヴァンプ化した司令がどんだけの脅威か、俺じゃなくても解るってもんだ。だから何が何でもこのチャンスを逃すわけには行かねぇ。結弦を離さねぇなら仕方ねぇ。一緒くたに木っ端みじんにするまでだ。結弦だって解ってら。いつでもそんな覚悟出来てんのがハンターだからな。

 

「じゃあな」


 俺ぁ指に力を籠めた。だがその瞬間飛び出して来た奴が居たもんだ。


「ちょっと待ってよ!」


 てめぇ! 女医! 子連れでなにしやがる!

 マジか? 恐れ知らずか!? 

 だいたい何で桜子の監視に出向いた筈が、すっかり奴らの仲間になってんだ?!

 くそったれ! だから女は信用できねぇ!


 ≪カチリッ!≫


 とうぜんハンターどもも銃向けたぜ。こうなりゃ容赦もクソもねぇ、てめぇもろとも一斉射撃だ。したらまたまた機先を制された。今度は司令にだ。


「彼女もその赤ん坊も一般の人間だ。撃てばどうなるか、解るな?」


 おいおいなんつー余裕顔。張った空気をヘロッとさせちまうほどの呑気声。それでいて俺らを圧倒する殺気。ハンターども、「あ、はいっ!」なんつって銃降ろしちまって、内心あたま抱えたぜ。条件反射かって。パブロフのイヌかって。何で素直に司令の言う事聞いてんのよ。駄目だろ。司令にもしもの事があった時ぁ、その場でいっちゃん上位ランクのハンターに司令権が移るって決まってんだろ!


「あのさ司令」

「何だいカイトくん」

「これって詰み《・・》でしょ?」

「……」

「わかって言ってるんでしょ? さっきのも嘘だって」

「嘘?」

「一般人を殺すなってのがさ。俺は協会のが黙認してる事知ってるぜ?」

「ほう?」

「つまり、10を守る為に1を殺せ、だ!」


 俺は赤ん坊抱いた佐井浅香に向けトリガーを引いた。

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