ACT31 突き飛ばす事ないでしょ【佐井 朝香】
あたしは医者。専門は外科の闇医者。患者の大半はヤクザさん。銃で撃たれた傷の見立てには自信がある。
盲貫創でこの出血。胸骨は突き抜けてるわね。
弾の直径は0.32インチ(7.65mm)だから、射入創は直径1センチにも満たない小さい穴。そこから先の細い鉗子突っ込んで弾取れないかしら? ……だめだめ。闇雲に胸の中探ったら、肺に穴開けかねない。心臓にめり込んじゃってる可能性もある。野外で手を出さない方がいいわね。
え? いつもみたくとっととやっちゃえ?
誤解されがちだから言っとくけど。あたしの事、現場でのやっつけ仕事が得意だね! って言った人が居るわ。適当に手術しちゃうヤブ医者って腐した人も。そりゃあたしの処置は早くて乱暴で……いい加減に見えるかもだけど? 実際フォークとナイフしかなくて、それで脊髄の手術とかした事もあるけど?
でも違う。絶対の確信がある時しかあたしはその術式を選ばない。上手くいくかも知れない、なんて気楽に考えて、それ! ってやっつけて死なせたらコトだもの。
これはちゃんとした設備のある場所でちゃんとやらなきゃ駄目な奴だわ。思い切って麻生に「あたしの病院まで運んで?」って頼もうかしら?
そう思って麻生に声かけようと振り向いたあたし。いきなり麻生に思いっきり突き飛ばされた。受け身なんか取れないから、ビタンと床にほっぺた打ちつける。
痛ったあぁ…………
起き上がって見回して。さっきまであたしが居たその場所で、麻生が泣きそうな顔して桜子さんを抱きかかえてる。
……君。彼女が心配なのは解るけど、突き飛ばす事ないでしょ? ふん、優柔不断男(あたしの勝手な決め付けだけど)が今更心配なんかして。カッコつけてるつもり? 動いたら傷開くわよ?
「銀弾を受け10分ほどでしょうか。……残念です。彼女はじき消えるでしょう」
「え? ええ!?」
銀弾!? 銀の弾って、今そう言った?
「銀弾じゃないわ! 撃ったのは普通のただのフルメタルジャケットの鉛の玉よ!」
そうよ。あたしはそんな弾使ってない。ただの合金でカバーした鉛玉。でも麻生は眉間に皺をよせてあたしを見てる。明らかにあたしを疑ってる眼。そっと桜子さんを床に寝かせ、こちらに手を差し出して。
「それ、貸して下さい」
嫌よ! 君みたいな二股男にあたしのPPKを渡すなんて! って思ったけど、あんまり真剣に凄むんで、しぶしぶその手に銃をのせた。そしたら彼、すっごく鮮やかな手つきでマガジン出して、パラリと弾を抜いて。
うーん? ライトでギラついて良く見えないけど……
「間違いありません。銀の弾丸です」
弾丸のお尻をつまんで、ライトに透かして眺める麻生の顔が強張ってる。
「……うそ。誰かが入れ替えたってこと?」