ACT21 パンツが丸見え!【佐井 朝香】
あたしはあっちの桜子さんとこっちの桜子さんを交互に見比べた。
えぇっと……どういうこと? でもすぐにさっき車の中で聞いたことを思い出した。たった一人の妹が居るって。名前は確か……秋子さん。わおっ! 着てるものまでほんとそっくり! 双子みたい! そんな風に呑気してたあたし、桜子さんの攻撃をもろ至近距離で喰らっちゃった。それは「声」。
「―――――――――ダメよ!」
これがほんとの音速攻撃! まるで音の機関銃! 痛ったあーい! 耳が、耳があ! 大丈夫かしらあたしの鼓膜! ちゃんと聞こえてる?
舞台は舞台で凄い事に。秋子さんが麻生を後ろからガッチリ押さえ込んでる。麻生は首を絞められて苦しそう。たしか麻生ってハンターよね? それをいとも簡単に? すごくない? 彼女の手のナイフがギラリと光る。それを見て我に返ったのね? 一人が上げた鋭い悲鳴を皮切りに、会場全体があっと言う間に恐慌に陥った。そしたら、ジャキっと舞台に向けて銃を構えた大勢の……ハンター! え? どういう事?
そうよ! これは協会が仕組んだ罠だった! 桜子さんをおびき寄せて抹殺する、そのための罠! それを知った秋子さんが、桜子さんを助けに駆け付けた! そうに違いないわ!
客席はすっごい大混乱。ハンター達はまだ撃てない。そりゃ撃てないわよねえ。ヘタすりゃ何の関係もないお客様に当たっちゃうもの。秋子さん! とっととやっちゃって! あたしは桜子さんを連れて逃げるから! でも横見たら肝心の桜子さんが居ない。見上げたあたしの目に映ったのは、鮮やかに宙を舞う桜子さんの姿。白い蝶のようにはためくドレスの裾。
さ、桜子さん!? すごい! 飛んでる! でもあの 桜子さん? パンツが! シャルタントーマスのパンツが、丸見えよーーーー!!
そんな桜子さんに意外と客達は気付かない。我先にと出口に向かう人。舞台上から眼が離せないまま座り込む人。
「お静まりを! 落ち着いて下さい! 係員の指示に従ってください!」
さっきのタキシードの男が騒ぐ人をなだめているけど、あまり効果は無いみたい。だって、ざっと五百人は居るもの。転倒するやら将棋倒しになるやらで、何だかこっちが怪我人多そう。ハンターの奴らも悪いわ。銃口を桜子さんに向けるのに精一杯で出入口を塞いじゃって、他の客を見ようともしないの。 あたし、ちょっとムカっと来た。
「ちょっと! ハントよりお客の誘導優先したら?」
そうしたら、何人かがハッとした顔であたしの方を向いて。そそくさと、ほんとに救護活動始めたの。なんだ、意外に素直じゃない。まあそうよね。あいつら、悪の組織って訳じゃないもの。人間を守るのも奴らの役目だもの。そう。奴らが桜子さんを――ヴァンパイアを狙うのは、人間を守るため。
そこでふと考えちゃった。じゃああたしは何? って思ったの。あたしは仕事が好き。手当をすると、患者さんは喜んでくれる。お金をくれる。裏の住人は特にはずんでくれる。でも……別に綺麗な服を着たいとは思わない。ジャガーやフェラーリ乗り回したいとも思わない。美味しい食事にも興味はない。薬が買えて、新しい医療器具が手に入ればそれでいい。
あたし、医者よね。人を治すのが仕事。でももしヴァンパイアになったら? もしこんな風に、ハンター達に囲まれたら、黙って滅びを受け入れる? 咄嗟に銃を向けられて、ほんとに自分を……抑えられる?
「秋子、その手をお離しなさい」
舞台の方から桜子さんの優しい声がした。茶色の眼で秋子さんを見つめてる。
桜子さん、どうして秋子さんを止めるの? そもそもどうして貴方はここに――
あたしの思考はそこで止まった。誰かに強く腕を掴まれたから。協会連中だと思ったあたしは問答無用で攻撃(股間に蹴りを一発!)しようとしたけど、その前に壁に押し付けられてしまった。
「何すんのよ! 離して!!」
って言ってみたけど、聞くわけないわよね。トンっと軽く首筋を叩かれて、とたんに意識がなくなって。気がついたら床に転がってた。客の喧騒がすぐ近くで聞こえる。差し込む照明の光。え? ここって舞台袖?
「手荒な真似をして申し訳ありません」
見れば、さっきの支配人風の男性が、膝をついて座ってた。
「あなたは?」
そしたら彼、手で自分の顔を掴んで、パッと剝いで見せたの。そう、映画のメーキャップみたいなあれ! なんと彼は、バトラー柏木その人だった!




