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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第1章 幹部編
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ACT21 パンツが丸見え!【佐井 朝香】

 あたしはあっちの桜子さんとこっちの桜子さんを交互に見比べた。


 えぇっと……どういうこと?


 でもすぐにさっき車の中で聞いたことを思い出したの。たった1人の妹が居るって。名前は確か……秋子さん。

 すごっ! 着てるものまでほんとそっくり! 双子みたい!


 そんな風に呑気してたあたし、桜子さんの攻撃をもろ至近距離で喰らっちゃった。それは「声」。


 「―――――――――ダメよ!!」


 これがほんとの音速攻撃! 痛ったあーい! 耳が、耳があああ……!!

 桜子さんってば、凄い声! まるで音の散弾銃ショットガン

 そうね……名付けて、突発的高音域発声練習ハイレベルボイスフルメタルジャケット

 (散弾にフルメタルジャケットは使わないとか細かい事はこのさい忘れて?)

 大丈夫かしらあたしの鼓膜! ちゃんと聞こえてる? あんもう! 耳ん中がワンワンいってるう!


 舞台は舞台で凄い事に。いきなり悪の女幹部みたいな顔つきになっちゃった秋子さんが、さっさと麻生の腕をひねり上げてねじ伏せちゃった。

 あらら、なんて鮮やかなお手並み。実は彼女も……ヴァンパイア? 身体能力の差なのか、単に体勢が悪いのか、麻生はじっと動かない。遠目にも彼の米神に浮かんだ玉の汗がジリジリと光っているのが見えて。彼女の手に握られた銀のナイフが、強いスポットライトの光をあちらこちらへ照り返す。それを見て我に返ったのね?

 一人が上げた鋭い悲鳴を皮切りに、会場全体があっと言う間に恐慌に陥った。そしたら客の半数以上がジャキっと舞台に向けて銃を構えて。


 つまり……どういう事? そういう事?


 そうよ! これは協会が仕組んだ罠だった!

 桜子さんをおびき寄せて抹殺する、そのための罠! それを知った秋子さんが、桜子さんを助けに駆け付けた! そうに違いないわ!


 客席はすっごい大混乱。ハンター達はまだ撃てない。そりゃ撃てないわよねえ。ヘタすりゃ何の関係もないお客様に当たっちゃうもの。


 秋子さん! とっととやっちゃって! あたしは桜子さんを連れてとっとと逃げるから!

 柏木さん! あなたが言ってた、お願いします(・・・・・・)ってこういう事ね!?


 でも気が付いたら肝心の桜子さんの姿が無い。となりの席は空っぽ。

咄嗟に見上げたあたしの目に映ったのは、鮮やかに宙を舞う桜子さんの姿。白い蝶のようにはためくドレスの袖に裾。


 ささささ桜子さん!!? す……すごい! 飛んでる!

 でもあの、どういうつもり!!?


 桜子さーーーーん!!! パンツが! シャルタントーマスのパンツが丸見えよーーーー!!



 そんな桜子さんに意外と客達は気付かない。我先にと出口に向かう人がほとんどで。舞台上から眼が離せないまま座り込む人も居たりして。


「お客さま! お静まりを! 落ち着いて下さい! 係員の指示に従ってください!」


 さっきの支配人風の男性が騒ぐ人をなだめているけど、あまり効果は無いみたい。だって、ざっと500人は居るもの。それが一度に出口に殺到したからもう大変。転倒するやら将棋倒しになるやらで、何だかこっちが怪我人多そう。

 協会の奴らも悪いわ。銃口を桜子さんに向けるのに精一杯で出入口を塞いじゃって、他の客を見ようともしないの。 あたし、ちょっとムカっと来た。


「ちょっと! ハントよりお客の誘導優先したら!!?」


 そうしたら、協会連中がハッとした顔であたしの方を向いて。そそくさと、ほんとに救護活動にあたり始めた。

 なんだ、意外に素直で可愛いじゃない。まあそうよね。あいつら、悪の組織って訳じゃないもの。人間を守るのも奴らの役目だもの。そう。奴らが桜子さんを――ヴァンパイアを狙うのは、人間を守るため。


 そこでふと考えてしまった。じゃああたしは何? って思ったの。


 あたしは仕事が好き。手当をすると、患者は喜んでくれる。お金をくれる。裏の住人は特にはずんでくれる。

 うわお! あたしってばお金持ち!

 でも……別に綺麗な服を着たいとは思わない。ジャガーやフェラーリ乗り回したいとも思わない。美味しいお食事にも執着はない。薬が買えて、新しい医療器具が手に入ればそれでいい。


 あたしは仕事が好き。治療する行為が好き。

 傷が綺麗に治った時、人は言うわ。センセイ、腕がいいね! 次も頼むよ?

 いつもワクチンを受けにくる子もなんか、飛びついて喜んで。センセイのおかげで僕、お注射ぜんぜん平気になったよって。


 あたし、医者よね。人を治すのが仕事。でももし自分が……ヴァンパイアになったら――


 もしこんな風に、ハンター達に囲まれたら、黙って滅びを受け入れられるかしら? 咄嗟に銃を向けられて、ほんとに自分を……抑えられる?


 ヴァンパイアになりたいのは、好きなお仕事をずっと続けたいから。

 その為なら何でもする。

 出来る。

 何でも?

 殺人……でも?




「秋子、その手をお離しなさい」


 舞台の方から桜子さんの優しい声がした。麻生と秋子さんから少しだけ距離を置いた彼女が、黒い眼(・・・)で秋子さんを見つめてた。

 桜子さん、どうしてわざわざ麻生の所に? 秋子さんを止める気? そもそも何故あなたはここに――


 あたしの思考はそこで止まった。誰かに強く腕を掴まれたから。協会連中だと思ったあたしは問答無用で攻撃 (股間に蹴りを一発!)しようとしたけど、その前に壁に押し付けられてしまった。


「何すんのよ! 離して!!」


 って言ってみたけど、聞くわけないわよね。即ハンカチで口を塞がれて。ああ、セボフルラン(全身麻酔剤の一つ)の匂いだわあなんて思ったら意識がなくなって。


 気がついたら床に転がってた。客の喧騒がすぐ近くで聞こえる。差し込む照明の光。

え? ここって舞台袖?


「手荒な真似をして申し訳ありません」


 さっきの支配人があたしの横に膝をついて座ってた。

「あなたは――」

 言いかけたあたしに、彼は自分の人差し指を自分の唇に押し当てて見せて。そのままその手で自分の顔をむんずと掴んだ。

 なんとその顔はマスク。そう、映画のメーキャップみたいなペラペラのマスク。それを剥ぎ取り素顔を見せた男は、バトラー柏木その人だったの。

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