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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
最終章 サプライズ編
139/148

ACT139 最悪じゃね!?【如月 魁人】

 いったい全体……どうしちまったってんだ?


 俺ぁ目ん玉だけ動かして、あっちこっちを見回した。だれもかれも、身じろぎしねぇ。気味悪ぃぐれぇに静まり返ってんの。結弦の奴ぁ……座ったまんま。拳握って膝に乗せたまんまだ。全曲目弾き終わってから、かれこれ1分は経つぜぇ?

 なんて思ってりゃあ……チラチラこっちを見てやがる。んでもって菅が肘で俺の右腕つっつくわけ。ほらほらって感じにだ。


 え……俺? 俺がなんかすりゃいいの?

 したら結弦もダメ押しでチラ見して来たんで、こんな場に不慣れな俺もようやく気付いたのよ。招待された客は俺らだけだってな。俺と菅、司令に田中に女医。そん中で一番の格下は俺。俺が動かなきゃ誰も動かねぇ。


bravo(ブラボー) !!!」


 腹ん底から思いっ切り叫んでやったぜ。したらすげぇの。まるで訓練された軍隊みてぇに、客が一斉にスタンディングしやがった。

 もう絶叫マシーンにでも乗ってんの? ってくれぇの大歓声と割れんばかりの喝采よ。

 ……解るぜ。マジで凄かったからな。気迫っていうの?  音がよ、もうガンガン腹に来るのよ。胸とかもう揺さぶられ過ぎて、オーバーヒートだ。俺らに充てた曲もどれだか解ったしな。(結弦の奴、弾く前にきっちり相手のカオを眼で指してたからな!)


 菅も立ち上がって手ぇ叩いてら。だからよいしょって俺も付き合った。んでギョッとしたのよ。菅が泣いてんの。初めて見たぜ、大の男がよ、だっくだくに涙流してんの。って気付きゃあ俺もだ。止まんねぇのよ。涙もだが、胸ん中に滾る何かもだ。なんなんだ? 哀しいんだか嬉しいんだか怖ぇんだか、どっちともつかねぇ感情が一度に襲ってきやがる。

 結弦も立った。奴も汗だく。びっしょり濡れた前髪が顔に張り付いてやがる。片手を得物の楽器に置いて、一度気取った礼をしたと思ったら手で誰かを招くのよ。したら出て来たぜ。まるで真打ちって井出達で、白いロングドレスの女がよ。

 秋桜。いや今は桜子か。忘れもしねぇ……あん時も、そうやって結弦と弾いてたっけ。そういや、そん時も客が俺らみてぇに泣いてたっけなぁ。

 徐に座る桜子。その左に腰かける結弦。あん時とは逆位置だ。ザァ! と客たちが一斉に座ったんで、俺も座る。静まり返る客席。だが胸ん中の滾りはそのままだ。鼓動が暴れてやがる。中からドンドン胸板を叩きやがる。舞台の2人が膝に置いた腕を持ち上げる。音が鳴る。やっぱりだ。あの時のアンコールと同じだ。ラ・何とかって曲。


 ……あ?!


 いまゾワゾワ来たぜ? ヤな感じのゾワゾワだ。理性が警鐘鳴らしてんだ、これ以上弾かせるなってな。駄目だ! これ以上はアウトだ。絵とか彫刻は眼ぇ逸らしゃあ済むけどよ? 音ってもんは容赦がねぇ。勝手に中に入って来やがる。菅が胸押さえてるぜ。左隣の奴もだ。司令も、田中も。客がみんな必死に何かを抑えてるのさ。こりゃはじけるぜ? 胸が、心臓が、うつわそのものがよ!?


「やめろおおおおおおお!!!!」


 この必死こいた叫びは届いたか!? 届く筈がねぇ。それ以上の音に負けちまった! まるで500本の金属バットが折れるようなとんでもねぇ音にな!


 ゆらりと菅が立った。その向こうに座ってた司令も。田中も。前と後ろの奴らもみんな。だらりと下げた手首。その足元にぁ……やっぱりな。ずたずたに引き千切られた銀の腕輪が転がってんのさ。これって最悪の事態、だよな?


 俺の手はすでに銃のグリップを握ってた。がこの数相手にどうしろって?

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