表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
最終章 サプライズ編
135/148

ACT135 ハムくんの息子【佐井 朝香】

「先生、いつもありがと!」

「いいの、仕事だもの。でももう無茶しちゃ駄目よ? あ! こら!」


 扉を開けて、あっと言う間に遠ざかる靴の音。あたしは急いでその背中を追いかけて廊下に出る。吹き抜けの非常階段の、打ちっ放しの壁にカツーンカツーンって音が反響してる。


「ちょっと! そんな走ったりしちゃ駄目だってばーー!!」


 そしたら「わかってるーー!」なんて声が遠くから返ってきて、外に出ていく扉の音がして。

 あ、今の子は患者さん。お役所勤めのご両親が忙しいから、夕方の遅い時間に1人で来るの。まだ小学生なのにちゃんとした挨拶も出来るし、とてもしっかりしてる。そういうとこ、きっと母親に似たのねぇ。でヤンチャとこは父親似?

 あの調子じゃまた来る事になるわねぇ……


 壁に背を預けて上を眺めてたあたしに横から声をかけた人が居る。


「先生、次の患者さんがお待ちです」


 そうだった。つい考えこんじゃうのが悪い癖よね!

 ほんと、彼のアシストのお陰でいつも助かっちゃう。我が子ながら、凄く有能。とても10歳とは思えないわ。

 ――え? あたしの子よ?

 推定185cmの背丈とか、丁寧にセットしたオールバックの髪とか、綺麗なウィンザー・ノットに結んだネクタイとか。裾の長い看護師衣からすっきり伸びた長い脚とか、もろもろがとてもそうとは見えないけど、

 並んで歩くと良く「お父上ですか?」なんて間違われるけど、でもあたしの子。

 あの時出来た、ハムくんとの息子。名前はそう


「どうしました?」


 診療室に続く扉をあけつつ、あたしを振り返る彼。ま、誰が見ても疑うわよね。見た目年齢40歳以上。その顔はどう見ても……柏木さんその人だもの。じっと見つめられたあたしは思わず……眼を逸らす。


 ああ、いつもこんなってわけじゃないの。彼の見た目が大人になるのはここ(・・)でだけ。家では普通。外を出歩くときもね?

 その事をこっそり麻生に相談したら……なんと秋桜ちゃんもそうだって言うからびっくり!

 これもヴァンパイアの能力なのかも。滅びる寸前の魂が、生まれる前の子供に――なんて、そんな能力。

 しぶとい? ううん、そんなの、ヴァンパイアに限らない。どんな生き物だってそうじゃない?

 生き物の証――遺伝子の本体はしぶといわ。生きる事に熱心でとても狡猾。


「あのね、今夜のリサイタルの事なんだけど、決心はついた? 一緒に来てくれる?」

「……」


 彼の眼――柏木さんと同じ茶色の眼が何かを追うようにそっと動く。大人になった彼には生前の記憶がある。ゆっくり頷いて、ドアの札を、closeに変える彼の手首には、3重に嵌められた銀のブレスレットが光ってる。

 どんな気分かしら? 生まれ変わったら、あたしとハムくんが両親で、自分は真祖としての運命を受け入れなきゃならないなんて。


「あとまだ3人待ってらっしゃいますが……先生なら間に合いますね?」

「あたりまえよ、あたしを誰だと思ってるの?」


 フッと笑うその仕草、ほんと柏木さんそっくり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ