ACT123 朝香先生の謎【麻生 結弦】
ふたたび喉の渇きを訴え始めた菅さん。それに応えて戸棚からパックを取って来た朝香先生。先生ってば、わざわざ菅さんの耳元に口を近づけて、「腕を出して? 点滴の量を増やしてあげる」なんて囁きながら腕に針を刺しています。優しい声に優しい手つき。随分と見せつけてくれますね。
「ごめん。この辺りも変なんだよ、ときどき締め付けられる感じが」
「それは空腹感よ、食べ物を求めてる証拠」
「食べ物? もしかして血液以外も受け付ける!?」
「そうね。まずは重湯から試してみましょうね」
うわ、あの菅さんがあんなに嬉しそうに。先生は本当に不思議な人だ。だから先生、僕は菅さんの事よりも貴方の事がよほど気になるんです。どうして先生は――生き返ったんですか?
「俺もだ先生! 早くしてくれ!」
「もう! 子供じゃないの、順番よ?」
今度は魁人に向き直った先生、彼の腕にも点滴をセットしている。
あーあ、あの魁人が鼻の下を伸ばしてる。女には興味が無い、なんていつも僕の話をまともに聞いてくれなかったあの魁人が。
「僕も聞きたいですね。いったい菅さんの身体に何が起こったのか。何故人の血を入れると人間になるのか」
話しかけずに居られなかった。僕だって先生とキスした仲じゃないですか。僕は先生に取っては患者の一人。あのキスだって……僕の自殺を止めるための麻酔替わり。えぇ、良く解ってます。でももう少し僕に注意を向けてくれても良くありません?
「あら、生物学には興味が無い、なんて言ってた麻生君が気になるのかしら?」
やっとこっちを向いてくれた先生が、嬉しそうに僕の傍に駆け寄ってきた。菅さんと魁人があからさまにムッとしてこっちを見る。
「ふふっ! あの時、麻生君の血を調べた事もヒントになったのよ? 聞きたい?」
「えぇ。是非」
先生はやっぱり先生だ。先生は心から好きなんだ。医者という仕事が。いわゆる仕事バカという奴ですね。朝の光を後光のように浴びて、腰に手を当てがってキラキラした先生は本当に素敵です。
「説明するわ、まずはこれを見て?」
先生が得意気にスマホをタップして、僕達に見えるようにこっちに向けた。