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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT106 届け!!【麻生 結弦】

 本物だ。3年前、僕と魁人のまととして宛がわれた彼はいま、本物の教官として眼の前に立っている。

 ずっと……思考能力の無い、ただ無暗に攻撃を仕掛けるだけの傷物・・だと思ってた。今までの彼は赤く濁った眼差しをした自我のない悪鬼でしか無かったんです。当然その名を聞く事もない。けど、ギシリと背もたれを軋ませて腰かける今の彼は、神々しくすら見える居住いだ。

 穏やかで温かな眼が僕を促す。僕は自然と頷いていた。彼が促す「理論の展開」。その理論自体が実践の役に立つかどうかは判らない。けど何かが産まれる気がする。いざという時に役に立つなにかが。


「貴方のような個体がここに居る。その理由は一つしか考えられません」

「……それは?」

「VPの幹部、或いは長である『伯爵』にその命を受けた為」

「その根拠は」

「ヴァンパイアには、より格上の個体に従う習性があります」

「私がこの強力な拘束具に屈したとは考えないのかね?」

「えぇ。貴方は捕捉不可能・・・・・個体です。何故ならその鎖を纏わせたままの状態で、射出された弾丸をあべこべに武器とし撃ち返しました。それが出来るからには、いつでも我々を制圧、逃走可能です」

「では聞こう。VPの『上』がそう命じた目的は?」

「そ、それは……潜入し、内部から協会の人間を抹殺する為です」

「傷物の振りをしてかい?」

「えぇ。日々我々をそのように欺いてきた」


 トン、トン、と規則的に何かが何かを叩く音。教官の人差し指が、開いた本の「とある箇所」を叩いています。


「なるほど、孫先生も言ってるね。兵者、詭道也。敵を欺く事こそが戦争行為の本質であると」

「……」

「その推察通りなら、君達は今、死地に身を置いている。君達には万に一つの勝ち目もないだろうからね」

「……そうでしょうか。いかに貴方が強かろうと、僕らは2人。仲間の死も厭わぬハンターです」

「仲間を盾にすれば勝てるとでも言うのかね?」

「勝てないまでも、相討ちに持ち込めるかと」

「ならば試してみるかね?」

「……え?」


 再び閉じられた本が、机上にポンと無造作に放られる音。

 そのピッチ。A(アー)か? Aフラットか? それとも……B(ベー)? 絶対音感を持つこの耳が、音を正確に捉えられない。静まり返った地下室の空間いっぱいに響き渡る、僕自身の鼓動。魁人の速い息遣い。それに被さる自分の呼吸。

 おもむろに足元の弾丸をひとつ拾い上げ、コロリと手の上で遊ばせる。その動作から目が離せない──



 空気が重い。グリップを握る左手は、下に下がったまま。指先が冷たい。眼の奥が熱い。喉が……カラカラだ。


「あの時、君達は学んだ筈では無かったのかね? 敵に武器を与える真似はするなと」


 局長が一歩、前に出る。その肩越しに田中さんが立っているのが見える。

 ヒタリと弾頭を右手の指先に挟み、こちらに向けて見せる局長。そうだ。局長が放つ弾丸の威力はマグナム弾を凌駕する。あの時だっていとも容易く僕たち2人を同時に撃ち抜いた。最新式の防弾着ごと。


「曰く、戦いの本質は詭道。僕たちはあの時とは違います」

「ほう? どう……楽しませてくれるのかね?」


 フっと局長の右の手が霞んだ。




 ――――ギン――――!!!!!


 近くで硬い金属同士がぶつかる音。同時に僕は伏せていた。僕を庇って一緒に倒れ込んだ魁人が重くのしかかっている。


「無事だな?」


 即身体を起こす。耳の中がキンキン言ってる。魁人はすでに立ち上がって構えてる。その足元には不格好につぶれた弾頭が二つ。

 急ぎそれを回収する。同じ轍は踏まない。表情を変えず、両腕を下に下げた姿勢のままこっちを見ている局長。


 いま何が起こったのか説明すると。

 局長の手が霞んで見えた――つまり弾がこちらに向かって放たれた瞬間、魁人が発砲した。弾に弾をぶつけた訳です。相手の弾の弾道を正確に見切る眼と、正確な速射が出来て初めて可能な技。

 そんなどっかの漫画みたいにって思うかもだけど、魁人なら出来る。地下室で局長の「あれ」を見て以来、延々と練習したんです。僕が魁人に向けて撃った弾を魁人が弾で撃ち返す、そんな練習。


 ……ただ今のはギリギリでしたけどね。弾同士がぶつかったのは、僕から10cmも離れていない場所。魁人の反応がもう少し遅かったら僕に当たってた。


『司令も律儀だぜ』

『え?』

『てめぇの足狙いやがった。ピアニストにゃ要らねぇってこったろ?』

『それはそれで酷いなあ』


 なるほど、局長はちゃんと伯爵のいいつけを守ってる。つまり、|僕は魁人の盾に成り得る《・・・・・・・・・・・》。


「俺あと10発。てめぇは?」

「5発だよ」

「それで何とかするっきゃねぇな」


 僕は頷く。半身になって左の腕を前に伸ばす。背中を合わせる魁人は右腕を尽き出す恰好だ。

 僕の銃──ベレッタnano。もちろんその癖は覚えてる。だからわざと照準をずらして着弾点を修正する。狙いは局長の胸部正中。ヴァンプに取っての唯一の急所。


「GO!!」


 魁人の合図でトリガーを引く。魁人もそれに続く。魁人のパイソンは僕のと同じ9mm弾。ただマグナム弾だから威力とスピードが上。それを利用した僕らのコンビネーション・プレイ。


 届くだろうか? 局長が口の両端をギュッと吊り上げるのが見えた。

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