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ヴァンパイアを殲滅せよ  作者: 金糸雀
第2章 伯爵編
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ACT104 ついに来たぜ、この時が!【如月 魁人】

 俺と結弦の眼の前に、見慣れねぇ……けど馴染み(・・・)の司令が立っていた。地下室だ。あの地下室で、延々と俺と結弦を相手にしていた、あん時の顔だ。そういや結弦のリサイタルの夜も、これと同じ顔してたっけな。

 たぶんこれが司令のホントの顔なんだ。普段はハンター協会の局長で、とある時は桜子屋敷の執事で、ホールの支配人で、ついさっきはフリーのライター。どれもこれも仮の顔、本当の司令の顔を知ってる奴はだれも居ねぇ。そんな司令が勿体ぶって素顔を晒す。最後の決戦、そう言う事だろ。


 俺は身体起こそうとしたが、腰にも腹にも感覚はねぇ。銃握った手の感覚もだ。強張って動かねぇの。結弦もおなじみてぇだ。何とか動かせる首巡らせて奴に目配せしてやりゃあ……結弦の奴、ため息ついてな?


「ついにこの時が来たね」

「……だな」


 俺ぁ奴以上に情けねぇ顔してたに違ぇねぇ。そりゃ覚悟はしてたぜ? こんな風に司令とやり合う時が来るってな。でもいざとなるとって奴だ。早くスイッチ切り替えねぇと。

 司令はすぐに攻撃はして来ねぇ。まだろくに動けねぇ俺達を待つつもりか? 腕を組んで俺達見下ろしたりしてよ? そういうとこ、ほんと司令だよな。ヴァンプになっても変わらねぇ。それはそれで助かるが、問題は司令の後だ。田中も伯爵もピンピンしてんだ。たとえ司令やったとしても、後に2人も控えてやがんだ。誤算は中途で止まっちまったあの装置だ。やっとこさ仕掛けたのによ?

 まいっか。今更ぐだぐだ言っても仕方ねぇ。やめとくぜ? 倒せるかどうかも解らんねぇうちに要らねぇ心配すんのもよ。


「結弦」

「なに?」

「どの手で行くよ?」


 何もしねぇで回復待つのもなんなんで、とりあえず打ち合わせだ。俺と結弦は、いざって時のコンビ技を幾つも持ってるからな。

 敵の真ん前だが、関係ねぇ。プランAとかBとか言った所で中身までは解んねぇだろ。


「Dで引き付けてから、Gで行かない?」

「そうか? 読まれやすくね? 端からGで行こうぜ?」

「屋内じゃ不利だよ。まずはDだよ」

「俺あれ嫌いなんだよ。疲れっからよ」

「ん……じゃあ初心に戻ってA、B、Cのローテーションでどう?」

「……ありゃあ駄目だ。弾込めの時間たぶんねェもん」

「じゃあやっぱりDだよ。DでG。これで決まり」

「しゃあねぇ。そうすっか」


 決め顔で頷く結弦。実はぜ~んぶ出鱈目だがそれは内緒だ。状況見て動く。プランは決めねぇ。それが俺らだもんよ。だから今のは只の手段。ビッと気ぃ締めるためのな。

 それを司令が察したかどうかは知らねぇが、準備完了! って事は解ったようだ。


「そうか、ようやく支度が……出来たようだね?」


 ギクリとしたぜ。その声は俺の知る司令じゃねぇ、初めて聞く声だ。


 両腕をゆらりと下げた司令が俺達を見下ろしていた。あの虎みてぇな黄色い眼をキンキンに光らしてな。

 俺はまっすぐに背ぇ伸ばして立ち上がった。虎の眼から眼ぇ逸らさず。慎重に。急がずにだ。手のヒラにグリップの感触がしっくり来てる。こっちはいつでも撃てるぜ?


 電源が一部戻ったんだろ。窓から差し込む光源……たぶん街灯だろうが、それのせいでさっきよりは視界がいい。司令の後ろにゃ「自分らは関係ねぇ」って顔した田中。司令一人に任す気だ。俺らに取っちゃアリガてぇ。

 司令と俺らとの距離はざっと3間(約6メートル)。さっき田中と司令が撃ってた気のタマ(・・・・)もぎりぎり届かねぇ間合い。正面向いて動かねぇ的。撃つなら今だ。


 だが……


 撃てねぇ! 当たる気がしねぇ!

 もし司令がヒラのヴァンプならとっととやってる。大概はタマを避けたりしねぇ。避けられねぇのか、それとも当たっても死にゃしねぇって思ってんのか知らねぇが、被弾しつつもゾンビみてぇに闇雲に襲って来るのが普通だ。そんな奴らなら簡単だ。初弾で心臓ぶち抜いちまえばいい。免状持ちのハンターに取っちゃあ朝めし前の仕事だ。

 少し気の利いた奴、例えば佐伯みてぇな眼の利く奴になってくると、スレッスレで弾道をかわしてくる。右か左か、下か上か。

 それも対処は簡単だ。何かをける時ってのは、必ず隙が出来る。その隙を狙ゃあいい。

 だが幹部クラスとなるとそうは行かねぇ。奴ら、ヒラとはまったく別口で銃弾捌きやがるからよ。司令もだ。銃弾を「掴み取る」なんてとんでもねぇ特殊技能を持ってやがる。しかも掴んだタマぁ投げ返して寄越すから始末が悪ぃ。

 ……仕方ねぇ。待つぜ。ほんの、チビっとでいい。それこそ針の穴通すほどの隙を司令が見せてくれんのをな。


 だが時間だけがジリジリ過ぎてく。司令は全身に殺気を纏いつかせたまんま、ここの彫像のひとつにでもなったみてぇに動かねぇ。くっそ……こんなに……撃つタイミングが掴めねぇ相手もねぇ。地下室じゃ随分手ぇ抜いてたんだな。コツン、と後ろで音がして、気がつきゃ立ってた筈の司令が居ねぇ。


 ――う、うおい! 俺が隙作ってどうすんよ!?


 俺ぁ咄嗟に振り向いた。見失ったときゃあ、後ろに居ると相場が決まってるもんな。……だが居ねぇ。ついで拓斗の奴も居ねぇ。ありゃ? なんで?


「魁人! うえだ!」


 結弦の声に、俺ぁ脊髄反射で床に伏せた。ゴロリと転げて上を向く。姫にヤラれた鳩尾にズシンと響くが、構ってなんか居られねぇ。視界のど真ん中、手足丸めて宙に浮く黒い影。今度の今度は引き金引いたぜ。どてっパラから心臓に突き抜ける間隙にな。

 よっしゃ! あの体勢じゃ流石の司令も手が出ねぇ! 


 だが大甘だった。司令、撃ち込んだ弾丸を靴の底で弾きやがった。まるで地面にでも着地するみてぇにトンッと、ため息つくぐれぇ自然な動作でな。横っ飛びにフワっと飛んだ司令が、クルリと回って着地する。


 ……なんつーしなやかさ。虎っつーか豹みてぇ。


 いやいや! マグナム弾よ!? かかと、ダイヤモンドかよ!!


 弾かれて落ちて来た弾頭を、グリップ底で払いながら飛び起きる。さっきとおんなじ、構えもせずに立ってる司令。息ひとつ乱れてねぇ。


 マジか……?

 あんなのに勝てんの?


 頬伝って流れる汗をペロリと舐める。しぃんとする空気。まただ。またあの長ぇ膠着状態。

 正直言って苦手だ。長いこと動かねぇってのは簡単じゃねぇ。頭空っぽにすりゃいいって訳でもねぇ。あーだこーだ作戦練ったり、思わぬ事態の対処をシミュしたりするんだが、そうこうするうち腰だめに構えた腕の筋肉が「まだ?」なんて急かして来るわけだ。そうなると心臓がやたらめったらドッキドッキ言い出しやがる。息詰めすぎてパンパンになった肺が爆発しそうになってくる。

 俺、そっちの鍛えかた足りねぇのかなあって。タマ撃ちばっかやってねぇで、書道とか茶道とかもやっときゃ良かったんかな。


 そんな俺に救い(・・)が来た。横ちょで伯爵と田中が何やらボソボソしゃべる声が耳に入ってきたんだな。司令にはその中身が聴こえたらしい。片方の耳がぴくッと動いたぜ? 助かった、膠着状態は一旦解除だ。


「柏木、麻生にはなるべく手を出さないでよ?」

「はあ?」


 「はあ」なんて聞き返したのはこの俺だ。意味わかんねぇもん。

 考えてみろよ。司令が俺ごときと睨みあってんの、結弦が居るからだぜ? ハンターは仲間の命も惜しまねぇ。それ知ってっから、司令も俺らの隙を狙って突っ立ってる。1人じゃねぇ、2人同時にヤれる隙をな。じゃねぇと、1人ヤってももう1人にヤられっからな。

 それを、1人は助けろ、だと。免状持ちの結弦をよ? 免状持ちのハンターを殺さずに無力化すんのが、いかに難しいかって、あの伯爵が知らねぇはずもねぇ。俺らにゃ良くても、司令に取っちゃあハンデ以外の何もんでも無ぇの。だから思わず聞き返したわけ。

 したら伯爵、律儀に答え返して来やがった。無邪気な笑みなんか浮かべてな?


「彼ほどの弾き手を無くすのは惜しいって田中さんが。わたしも麻生の弾くシューベルト好きだしね」


 ……なんだそれ。本気か? 取ってつけか?

 どっちでもいいがそういう事かよ。何かっつーと結弦を優先してたもんな。

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