81話「マジでブレねぇなあいつ」
お待たせして申し訳ありません。
今話から完結まで連日投稿させていただきます。
どうぞお楽しみください。
氷の都フリドール。
白い外壁と雪に閉ざされた街。
全体的に白い建物で満たされた街並みはまるで氷で作られているように煌めいていて、夢物語の世界に迷い込んだような錯覚がする。
もっとも今は事前に聞いていた通りに吹雪いていて、街並みなんて見えやしないけど。
冬用の防寒着を着込んではいるけど、肌を刺すような寒さは防ぎきれない。
思わず吐いたため息は白く、しかし一瞬で空気中に紛れて消えてしまった。
相変わらずだな、ここは。
「ライさん……寒いです」
「さっむ! この寒さは死んじゃうって!」
「あぁ、早く宿に行こう。その後は冒険者ギルドだな」
ガタガタ震える二人に苦笑する。
当然の反応だろう。むしろ平然としているサウレとジュレの方がおかしいと思う。
「お前ら、寒くないのか?」
「……サキュバスは気温の変化に強い」
「私は魔力の壁を身にまとっているので」
「なるほど。便利なもんだな」
問題がないならそれで良いし、さっさと宿を取りに行くか。
こいつらはともかく、俺たちは長居すると本気で凍え死にそうだしな。
特にトラブルも無く宿の部屋を確保した後、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
女商人のベルベットがこの街に居ることは分かっているけど、詳しい場所は分からない。
なので、やはり冒険者ギルドで情報を集めるのが一番だろう。
こういうのは人が集まる場所で聞くに限る。
ギルドに着くと中は暖かく、ようやく人心地着けた。
外套を脱いでアイテムボックスに突っ込んだ後、すぐ近くにいたガタイの良い冒険者に話しかける。
「よう。さっき着いたばかりなんだが、こっちの調子はどうだ?」
「悪くねぇな。近い内に盗賊団の討伐依頼も出るらしいし、今が稼ぎ時だぜ」
「そうか、そりゃ良い時に来たな。ところで人を探してるんだが、茶髪のベルベットって女商人を知らないか?」
「あぁ、最近街に来た奴だな。たまにここに顔出してるぜ」
「お、そうなのか。今住んでる場所は分かるか?」
「俺は知らねぇが……おぉい! お前らたしかベルベットさんとよく話してたよな!」
掲示板の前に居た別の冒険者に声をかけると、三人組の男達がこちらへ歩いてきた。
全員武装をしている所を見るに、これから魔物を狩りに行くところなのだろう。
「なんだ、新顔か? ベルベットさんにどんな用だ?」
「俺の仲間が世話になったんて礼をしたくてな。居場所を知らないか?」
「義理堅い奴だな、お前。詳しくは知らないが……確か倉庫に荷物を取りに行くって言ってたな」
「倉庫って街門横のでかいヤツか?」
「あぁ、吹雪が止んだら街を出るんだってよ。すれ違いにならなくて良かったな」
「そうだな。ありがとよ」
軽く礼を言ってその場を離れる。
倉庫か。人も少ないし丁度良いな。
これなら今日中にケリが着くかもしれない。
後は話の落とし所だが……そこはサウレの判断に任せるとしよう。
「ライさん、凄いですね。あっさり場所が分かっちゃいました」
「嘘は一つも言ってないのが凄いね!」
「慣れだ慣れ。それより早く行くぞ」
収納したばかりの外套を取り出して身にまとう。
冷えきった外套が体から熱を奪い、小さく身震いした。
倉庫街。
ここは大量な商品の受け渡しやアイテムボックスに入り切らない物を置いておく為の場所で、旅の商人がよく利用している。
吹雪の中で立ち並ぶ簡素な建物の中、一つだけ明かりの灯った倉庫があるのが見える。
あれか。あの場所に、探し求めた人物が居るのか。
雪に埋もれた道に足跡を着けながら歩いていくと、妙な事に気が付いた。
倉庫に向かう足跡が残っている。
それは良いとして、問題はその数だ。
見たところ、十人以上。商品の取引にしては数が多すぎる。
警戒を深めながら近付き、壁越しに気配を探る。
吹雪のせいで詳細は分からないが、恐らく十五人。
そして異常な程の魔力量を保有する何かが一つ。
「少し待て。様子を探る」
小さく告げた言葉に、緊張が走る。
感覚を研ぎ澄ませて待つこと一分ほど。
吹雪が弱まり、次第に中の会話が聞こえてきた。
「――全部予定通りだ。盗賊の真似事もここまでだな」
野太い男の声。フリドールの訛りが無いから現地の人間では無いだろう。
「そうね。後はこいつを暴れさせてやれば良いわ。貰う物を貰ったら、英雄が来る前にさっさと逃げましょう」
そして、女の声。こちらは優しげだが、微かに侮蔑の感情を感じる。
こいつがベルベットか。
「違い無い。教会の最上級魔石さえあれば俺たちは大金持ちだしな」
「えぇ。分け前は予定通り、私が二割で残りは貴方たち。それで良い?」
「あぁ、これで傭兵なんて仕事から足を洗えるぜ。あんたには感謝してる」
下卑た笑い声に続いて、優しげな笑い声。
盗賊、教会、傭兵……なるほどな。
つまり、フリドール近辺で暴れていた盗賊とベルベットは組んでいた訳だ。
吹雪で足止めされていたんじゃなくて、トラブルを起こして教会に保管されている最上級魔石を奪うために滞在していた、と。
何ともまぁ、ベラベラとよく喋ってくれたもんだ。
間抜けにも程があるだろ。
けど、俺たちにとって都合は良いか。
ここで全員仕留めてしまえば良いだけの話だ。
『都合が良すぎる点』に関しては注意を払う必要があるけどな。
「サウレ、ジュレ、広域殲滅魔法。アルとクレアは待機。俺が先行して中に踏み込む」
気を引き締めつつ指示を出す。
敵が複数なら魔法で広範囲に攻撃するのが一番良い。
残りは俺たちで無力化して行けば問題ないだろう。
これが一番被害を最小限に抑えられる作戦だと思う。
だと言うのに。
「お断りします! 一番前は私です!」
アルが叫びながら飛び出し、両手剣を担いだままドアを蹴り開けた。
中に居た男たちが騒ぎ出し、気配が大きく揺らぐ。
「ひゃっほぅ! レッツ☆皆殺しタイム!」
輝かんばかりの笑顔で中に突撃して行くアルの姿に頭痛を感じながら、俺たちはその後を追って倉庫内へと向かった。
マジでブレねぇなあいつ。