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63話:「少しばかりのんびりさせてもらおうかな」


 右から迫り来る大質量の両手剣。

 風を裂くその一撃が岩をも砕くことを俺は知っている。

 しかし、踏み込みが甘い。

 焦ることなく一歩引き、剣閃を躱す。

 俺の眼前を紙一重で過ぎ去る大剣。だが、まだ終わらない。


「とぉりゃっ!」


 魔法で強化された身体能力を使い、両手剣の慣性を無理やり殺しながら鋭い突きに繋げてきた。

 さすが才能の塊。この程度は余裕でこなしてくるか。

 鋼の盾程度なら簡単に貫くであろうその一撃はしかし、俺の想定の範囲内だ。

 くいっと身をひねって避けながら、刃を掴んで引っ張ってやる。

 思いがけない力に勢い余って一歩前に踏み出す、その足元。

 それを狙いひょいと足払いすると、アルは前のめりに倒れ込んできた。

 無防備な体勢で転びかけたアルを受け止める。


「よっと」

「うわわっ! あ、ありがとうございます!」


 満面の笑みで礼を言われ、こちらも笑みを返す。


「だいぶ加減も出来るようになってきたな。両手剣の使い方が上手くなってるぞ」

「えへへー。そりゃあもう、毎日振ってますから!」

「お前の一番の才能は努力を惜しまないところだよなー」


 にこにこと頭を突き出してきたのでワシャワシャ撫でてやる。

 にへら、と緩む顔に苦笑を返してやった。


 アルの生家であるオリオーン家は武功で貴族となった家だ。

 純粋な戦闘能力だけなら王都でも指折りの貴族で、アルはその血を濃く受け継いでいる。

 今はまだ練度が足りないが、経験を詰めばサウレよりも強くなるかもしれない。

 成長速度が凄まじい。それは才能だけで無く、本人が積み重ねた努力もあっての事だ。


 アルは出会った頃から毎日訓練を続けてきた。

 朝は素振り、昼からは狩りと、ほとんど一日中両手剣を振り回している。

 そのおかげで、今ではまるで体の延長のように両手剣を使いこなすまでになって来た。

 戦闘力だけならもう立派に一人前だ。


 後は経験だな。メジャーな魔物の弱点や行動パターンは既に叩き込んであるが、経験に勝る知識は無い。

 それに、もう野営の仕方や獲物の解体も教えて良いかもしれない。

 そこまで考えて、ふと気が付いてしまった。


「なあ、お前っていつまで冒険者やるんだ?」

「ふぁい?」

「グレイ・シェフィールドだっけか。そいつに会った後はどうするか決めてるのか?」


 アルが冒険者をやってるのは元婚約者に復讐する為だ。

 それを成し遂げた後、こいつはどうするんだろうか。

 実家に戻るのか、それとも王都で冒険者をやっていくのか。

 などと考えたのだが。


「もちろんライさんに着いて行きますよ?」


 不思議そうに首を傾げてそう言われた。

 いや、即答かよ。人生の岐路だと思うんだが。


「あのなあ……もう少し真面目に考えろ」

「いやいや、真面目に考えてますよ? てゆーかですね」


 祈るように両手を組み、上目遣いで俺を見詰めるアル。

 大きな胸がふにゃりと潰れる様にちょっと衝撃を受けたが、それよりもリンゴのように赤かくなったアルの顔の方に目がいった。


「私の人生はライさんに捧げると決めています。身も心も、ぜーんぶですっ!」


 一生懸命に、全力で。

 そんな事を言われてしまった。


 その姿にどきりと胸が鳴る。

 アルのような美少女に改めて愛を告白されると、どうにも照れると言うか、うん。

 いや、嬉しいんだよ。嬉しいんだが。


「理想はライさんと殺し愛する日々ですね!」

「それは断る」


 こういうところだよなあ……残念な奴だ。

 これ(サイコパス)さえ無ければなあ。

 愛らしさが一瞬で消え失せたわ。


「まったく……お前の殺意は留まるところを知らないな」

「いつでも殺る気マックスです!」

「最近はマシになったかと思ってたんだけどなー」

「ふっふっふ。私は学んだのです!」


 腰に手を当てて胸を張る。

 ぷるんと大きく揺れる何かはやはり見ないふりをした。


「普段から殺気を出してると獲物に逃げられると!」

「……そうかー」


 ほんっと、残念な奴だな。

 これで中身がまともなら正統派美少女なんだがなあ。


「まあ、もう手遅れか。とりあえず帰るぞ。腹減ったし」

「今日の朝ごはんはなんですかっ!?」

「白ソーセージとサラダとパン。あとは……スープの作り置きがあったか」

「うわーい!」


 両手を上げて喜ぶアルに苦笑しながら、二人で家の中に戻って行った。


∞∞∞∞


 リビングには既に全員揃っており、旅支度を済ませていた。

 手早く朝食を済ませ、魔導列車の駅へと向かう。

 屋根だけの簡易的な物だが、既に列車の貨物席に荷物が次々と運び込まれている。

 そんな中、顔見知りの人物を見つけたので声を掛けに言った。


「おはよーさん。調子はどうだ?」

「おお、久しぶりだな。おかげさんで順調だよ」


 魔導列車の責任者であるテリオスはにこりと笑ったあと、何かを察したのか微妙に嫌そうな顔をした。


「で、今日はどうしたんだ?」

「ビストールまで魔導列車の護衛をさせてくれ。報酬はいらん」

「はあ……やっぱりかよ。いいぜ、乗りな」

「すまんな。何かあったら対処する」


 もちろん護衛というのは建前だ。

 通常ならオウカ食堂の関係者しか乗ることが出来ない魔導列車に乗るための言い訳、と言うか抜け道的なもんだな。

 今日はテリオスが当番だと聞いていたので話がスムーズに収まった。


「しかし、今回は可愛い女の子ばかりだな。羨ましい限りだ」

「……ああ、まあ。傍から見たらそうかもなあ」


 実際はまともな奴が一人もいないんだがな。


 とにかくこれで足は確保出来た。

 道中でトラブルなんてそうそう起きる事も無いし、列車の中でゆっくりさせてもらおう。

 何かあってもこのメンバーなら問題ないだろうし。

 少しばかりのんびりさせてもらおうかな。


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