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52話「さて、久々の我が家だな」


 国中で人気な『オウカ食堂』だが、食堂と名前が着いているのに店内で食事できるスペースは無い。

 基本的に弁当屋なので、食べる時は別の場所に移動する必要がある。

 王都では主に隣の冒険者ギルドや、そこに併設された酒場に持ち込んで食べる事になる訳で。

 当然俺達も冒険者ギルドの片隅のテーブルで夕飯を取る事となった。


 本日はオウカ食堂の新メニューとの事で期待していたのだが、出てきたものは長方形の揚げ物っぽい何かだった。

 黒っぽいとろみのあるソースが絡めてあり、その上から玉子や玉ねぎが入った白いソースがこれでもかと盛られている。

 見た目からしてボリュームがあるんだが、どんな料理なのさっぱり分からない。


 何だ、これ。

 不思議な料理に首を傾げながらも、取りあえず揚げ物にフォークを刺し、そのままガブリと噛み付いた。


 もちっとした歯ごたえに、まったりとした玉子の風味。

 その直後に広がる甘酸っぱいソースの味と果物の香りは鮮烈で、揚げ物なのにサッパリとした後味になっている。


 形的に肉かと思ったが、これは魚か。

 脂が乗っていて旨みが強く、甘酸っぱいソースとよく合う。

 これは美味い。それに、今まで食ったことの無い料理だ。

 思わず麦酒でぐいっと流し込み、次の一口をかじりつく。


 しかしまあ、揚げ物に最初からソースを絡めるなんて発想、どこから出てくるのかね。

 揚げ物はカリッとした食感が魅力だと思ってたが、こうしてしんなりさせてみるとまた違った美味さがある。

 これは凄いな。いくらでも食べられそうだ。


「なるほど、参った。こりゃ美味いわ」


 さすがと言うべきか、オウカの料理は相変わらず美味かった。

 店を全国展開しているだけの事はある。


「……確かに美味しい」

「これは素晴らしいアイデアですね」

「よく分からないけど美味しいね!」


 この揚げ物――南蛮揚げという名前らしいが、これは確かに新メニューとして相応しいだろう。

 既存の料理と一風変わったこの料理はすぐに大人気商品になると思う。

 現に今、ほぼ全ての人がお代わりを求めてるし。


「……で、そこの巨乳サイコパスは食わないのか?」

「ひょあっ!?」


 椅子から飛び上がり、テーブルに膝をぶつけてうずくまるアル。

 ぷるぷる震えてる理由は痛みなのか恥ずかしさなのか。


「おい大丈夫か?」

「なんでそんなに平然としてるんですかっ!?」

「いや、お前が忘れろって言ったんだろうが」


 本当はこっちも結構意識してたりするんだが、あれだな。

 自分より慌ててる奴がいると自然と冷静になるよな。


「あうぅ……穴があったら入りたい……」

「任せろ。穴掘りは得意分野だ」

「ちょっと黙っててくれませんかね!?」


 おお。良い反応するなこいつ。

 後ろ首まで赤く染まってるし。

 て言うか今更だけど、羞恥心とかあったんだなお前。


「あーもう! とにかく! 食べます!」


 がばっと立ち上がったかと思うと、凄い勢いで南蛮揚げを食べ始めた。

 いや、美味いのは分かるんだが。

 そんなに押し込んでると……


「……むぐぅっ!?」


 ほーら喉に詰まった。

 慌てふためくアルに麦酒(エール)の入ったコップを渡すと、勢いよく一気飲みする。


「ぷはぁっ! ありがとうございます!」

「おう。ゆっくり食えよー」


 他の奴らにもエールを渡しながら周りを見ると、オウカやチビ達が忙しそうにバタバタしていた。

 所々で上がるお代わりを求める手に応え、新しい皿を持って行っている。

 うーん。まあ楽しそうにしてるし、手伝いは必要ないか。


「……ライ」

「ん? どうした?」


 三皿食べて満足したサウレが袖を引っ張ってくる。

 濡れタオルで口元を拭ってやると、気持ちよさそうに目をつぶって顔を押し付けてきた。

 うん。やっぱり猫っぽいよなこいつ。


「……私もライが好き」

「おう。ありがとな」


 ぐしぐしと真っ白な髪越しに頭を撫でる。

 サウレは頻繁にスキンシップを求めてくるが、既に慣れきったものだ。

 ……そういやこいつも角の生え際が敏感だったりするんだろうか。

 怖くて試せないけど、今度聞いてみるかね。


「ライさんライさん。次は私です」


 サウレを撫ででいると、今度はジュレが前かがみになって頭を突き出してきた。

 胸がぷるんと自己主張して来ているが、そっちは見ないふりをして、水色の髪越しに頭を撫でてやる。

 普段は大人びた表情の美人だけど、こういう時だけ子供みたいに笑うんだよな、こいつ。

 これで変態じゃなければなあ。

 そのせいで微妙に警戒心が抜けない所はあるし。


「もちろん次はボクだよね!」


 ついでとばかりにクレアが頭を寄せてくるが、あいにく両手が塞がっている。

 どうしたものかとサウレに目を向けると、そっと頭を離してくれた。


「……私はライのものだけど、ライはみんなのもの」

「共有されてるのか俺」


 苦笑しながらクレアを撫でる。

 ぴょこぴょこ動く兎耳に触れないように撫であげると、これまた嬉しそうにはにかんだ。

 こいつは見た目で分かりやすくて良いな。

 多分わざとだろうけど。

 計算高いと言うか、あざといと言うか。

 可愛いのは可愛いんだがなあ。


 ちなみにアルは羨ましそうな顔でこちらを見てきているが、どうにも踏み出せないでいるようだ。

 俺もまだ心の整理がついて無いから助かるんだけどな。


 ……というか、この三人はどういう感情で俺に接してるんだろうか。

 サウレは公言してるから分かりやすいけど、ジュレとクレアはよく分からないんだよなー。

 普段の態度的に好かれてるとは思うんだが。


 そんな事を考えながらしばらくローテーションで撫でていると。


「おいこら。何イチャついてんのよ。風穴空けるわよ」


 真後ろからオウカに拳銃を突き付けられた。

 おい。声が若干マジなんだが。


「美少女ハーレムとか羨ましい! 早くご飯食べて帰れ!」

「ハーレムじゃねえよ」


 呆れて言い返し、皆が食べ終わってるのを確認して席を立つ。

 確かにいつまでも居たら邪魔になるし、さっさと帰るか。


「オウカ、今日も美味かった。ご馳走様」

「良きかな良きかな。また顔見せに来てね」

「しばらく王都に居るからまた顔出すわ……っと、そうだ」


 アルの元婚約者とサウレを騙した女商人の似顔絵を渡す。


「んあ? 誰これ?」

「俺たちの探し人だ。見かけたら教えてくれくれ」

「ん、りょーかい!」


 小さな握り拳を突き出して笑うオウカに、こちらも拳をぶつける。

 互いに笑い合い、そのまま自宅へ向かうことにした。


 さて、久々の我が家だな。


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