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47話「悪い気はしないと思える関係だよな」


 王城内にある大きな治療院。

 そこでは日夜、怪我を負った者や病気になった者の治療を行っている。

 魔物の被害は減ったものの、日常の怪我や軽い病気はどうしても発生する。

 その対処を行うのが治療院の主な仕事だ。


「と言う訳ですので、お手隙なら手伝って行ってください」


 黒髪長身のイケメン、『聖者』キサラギキョウスケさんは、いつものように微笑みながら無茶振りしてきた。

 治療院に顔を出して数秒の事である。

 相変わらずだなこの人。予想の範囲内ではあるけど。


「了解です。アルとジュレも頼めるか?」

「りょーかいです!」

「構いませんよ。後でご褒美をください」

「いいからさっさと行け」

「あぁん! ありがとうございます!」


 身悶えを一つすると、ニコニコ笑顔のアルと息を荒らげているジュレは患者の元へと向かって行った。

 ジュレもなー。変態じゃなければ有能なんだけどなあ。

 回復魔法と氷の魔法ならエキスパートだし。


「さて。俺は医療器具の消毒でもしたら良いですか?」

「ええ、よろしくお願いします。ちゃんとお給料はお出ししますので」

「了解です……っと。クレアはどうする?」

「うーん。ボクもジュレを手伝って行こうかな。暇だからね!」


 胸を張るような場面でもないと思うが……まあ、やる気があるのは良い事だ。

 尚、サウレにはわざわざ聞かない。前に治療院で仕事とした時も俺から離れなかったし。


 んじゃ、やりますかねー。




 サウレと二人で汗をかきながら、大量の医療器具などを煮沸消毒し終わった。

 さて、とキョウスケさんを探すも見当たらず、とりあえず近場の壁に寄りかかる。

 アイテムボックスから冷えた麦茶を取り出してサウレに渡すと、俺の分を一気に飲み干した。


「……っぷは。あーうめぇ」


 火照った体にキンキンになった麦茶が心地よい。

 次いでタオルを取り出していると、視界の端にジュレの水色の髪が入ってきた。


「さぁ腕を出してください。すぐにすみますからね?」


 優しい微笑みを浮かべながら回復魔法を使うジュレは、普段の様子からは想像も付かない程に様になっていた。

 まるで女神のような立ち振る舞いに、やや呆然と見とれてしまう。


 うっわ。やっぱりあいつ、美人だなー。

 スタイルも良いし、冒険者としては一流だし、何気に凄い奴なんだよな。

 中身が残念すぎるだけで。


「……あら? ライさん達は休憩ですか?」


 こちらの様子に気が付いたようで、ジュレが穏やかに歩み寄ってくる。

 麦茶の入った容器を手渡してやると、それを頬に当てながら心地良さげに目をつぶった。


「勝手に動く訳にもいかないからな。しばらくはキョウスケさん待ちだ」

「ああ、奥の方で治療をしていますよ。すぐに戻ってくるかと」

「そうか。ありがとな」

「……ふぅ。それにしても、忙しいですね」

「王都の治療院だからなー」


 多くの人が住んでいる王都なだけあって、治療院の使用者は他の街に比べてもかなり多い。

 しかし治療を行える人間は限られており、ここは常に人が足りない状態だ。

 十英雄の一人であるキョウスケさんを筆頭に、関係者は毎日忙しそうに働いている。


 そんな中で最高ランクの回復魔法を使えるジュレは重宝されるようで、先程からずっと忙しなく行き来しているのが見えていた。


「大丈夫だと思うけど無理はするなよ?」

「ありがとうございます。ライさんが心配してくれるなんて珍しいですね」

「そうでもないと思うけどな。いつも心配してるし」


 何かやらかさないか、と言う意味でだが。


「ふむ……つまり、いつも私を想ってくれていると受け取っても?」

「間違いではない」

「そうですか……うふふっ」


 珍しく純粋な微笑みを浮かべるジュレにドキリとする。

 いやいや、大丈夫か俺。相手はジュレだぞ?

 こいつ、中身はただの変態だからな?


「これは良いご褒美を頂きました。頑張らないといけませんね」


 前かがみになってこちらを見上げながら笑うジュレ。

 その大きな胸の谷間に視線が行きかけ、慌てて顔を逸らした。


 おい、ガード緩すぎんだろお前!

 もう少し気にしろ!


「あら。見て頂いても構いませんのに」

「自然に心を読むな」

「女は視線に敏感なんですよ」


 くすくすと上機嫌に笑う。

 なんだかやり込められた気がして不満だが、ジュレが楽しそうだから良しとしておくか。


「……ライ。アルを止めてくる」

「アルを? ……あぁ、なるほど。頼むわ」


 サウレの言葉に視線を巡らせると、アルが笑顔で鉄パイプのようなものを素振りしていた。

 治療院でなんてことしてんだあいつ。

 すぐにサウレが止めに入り、静かに注意をしている。

 うーん。最近マシになってきたとは言え、目を離すのは不味いか。

 もう少し気を付けるようにしないとな。


「ねぇライさん」

「ん? どうした?」


 いつの間にか隣に来ていたジュレに振り向く。

 すると、ぶにっと頬を人差し指でつつかれた。


「……何してんだ?」

「ちょっとしたイタズラと確認ですね」

「は? 確認?」

「はい。やはり、触れても大丈夫なようですね」

「……あ。確かに」


 言われた通り、ジュレに触れられているのにいつもの悪寒が無い。

 これはあれか。サウレと同じように、警戒しなくても大丈夫だと本能的に思ってるんだろうか。


「では後で抱き着かせて頂きますね」


 穏やかに微笑むジュレ。

 しかしその瞳の奥は欲望に溢れていた。


「ご褒美の追加です。構いませんよね?」

「……保留で頼む」


 さすがにこの場で了承する訳にもいかず、かと言って断る理由も無い。

 ただなんと言うか……こいつ、俺の事どう思ってるんだろうか。

 基本的に読めないところあるからなあ。

 冗談だとは思うけど、ジュレの場合は実際にやりそうでもあるし。


 でも実際のところ、ジュレとの距離感は居心地が良いと言うか。


 悪い気はしないと思える関係だよな。


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