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39話「その言葉に、俺たちは顔を見合わせた」


 振り回されるアルの両手剣。確かな質量を持って風を斬る鉄塊は、そのままオークの首を跳ねた。

 次いで、くるりと回りながら、横薙ぎ。

 恐ろしい勢いで繰り出された一撃は狙い違わず別のオークの首を刈り取る。


「あはは! あはははっ!」


 満点の笑みで残虐の限りを尽くすアル。

 既に見慣れたその姿に苦笑いしながらも、周りを取り巻くオーク共を牽制するのを忘れない。

 そこらに落ちている石をスリングショットで飛ばし、こちらに意識が向いた瞬間を逃さずにアルが仕留める。


 既に何匹目だろうか。片手では足りない気がするが。



 馬車を走らせていた折にオークの群れに遭遇した俺たちは、食肉を求めて狩り尽くす事を決めた。

 馬車は少し離れた所に止めてある。

 サウレは俺の隣で護衛……という名目で背中に張り付いていて、ジュレとクレアは近くにある川が解体に使えるか確認に行っている。

 そしてアルは見ての通り。

 今まで我慢していた分、やりたい放題に暴れ回っている訳だ。


「死ね死ねぇ! あははっ!」


 キラキラとした笑顔と血飛沫を撒き散らし、暴風のように両手剣をぶん回す。

 最近は慣れたもので、その立ち回りには危うげな様子は見受けられない。

 俺はたまに牽制したり、仕留めやすいように罠を仕掛けたりするだけで良い。楽なものである。

 但し、アルが暴走しすぎないように制御しなければならないが。


「アル! 下がれ!」


 呼び掛けながら爆裂玉を射出。オークが固まっている所に打ち込み、一匹を仕留めた。

 その隙に戻ってきたアルに水を渡していると、自然な調子でサウレが前線に走って行った。


 アルが動とするなら、サウレは静。

 研ぎ澄まされた短剣の一撃は確実に急所を捉え、繰り出される攻撃は全てを躱していく。

 こちらも手慣れたものだ。さすが一流冒険者、動きに(よど)みが無い。

 流れる水のように緩やかな歩みに見えるのは、全く無駄がない足運びだからだろう。

 するりと隣を抜けたかと思えば、いつの間にかオークの喉元が掻っ切られている。

 なんとも鮮やかな戦いだ。


「ライさん! まだ殺し足りません!」

「ダメだ。そろそろ体力が尽きるだろお前。ちょっと休め」


 返り血を濡らした布巾で拭ってやりながら、再度苦笑い。

 こういう所は変わらないな、こいつ。

 でもまぁ、俺の指示を聞くようになったのは大きな成長と言えるだろう。

 今にと飛び出しそうな程に気が(たかぶ)っているが、ちゃんと抑えが効いているようだ。

 うむ。良きかな良きかな。


「……ライ。終わった」

「おう。お疲れさん」


 とてとて歩いてきたサウレの顔を新しい濡れ布巾で拭ってやり、同じように水を渡してやった。

 ちなみに彼女は返り血を浴びていないが、これは恒例のやり取りになっている。

 その後、じっとこちらを見詰めながら頭を出して来たので、ご要望通り撫でてやる事にした。

 まるで子猫のようにこちらの手を押し返してくるサウレに癒されながら、俺も慣れてきたなと実感する。

 まさか女性に触れて和む時が来るなんてな。ルミィの呪いもだいぶ解けて来たようだ。


「ライさん! 私も撫でてください!」


 頭突きするかのような勢いでアルが頭を出してくる。

 こっちはまるで子犬だな、と思いながら撫でていると、ジュレとクレアが戻ってきた。


「あっちの川がちょうど良い感じだったよ!」

「どうやら狩り終わったようですし、運んで解体しましょう」

「おう、そうするか」


 アルとサウレを撫でる手を止め、オークをアイテムボックスに収納していく。

 数えると、十匹もの数を倒していたようだ。

 アルとサウレの手際に感心しながら、しかしと考える。

 多い。オークは、通常ならこんな数で群れることはない。

 しかし群れのボスとなる上位個体は見当たらなかった。

 となれば。おそらくコイツらは群れではなく、何かに住処を追われてたまたま一緒に居たのだろう。


 さて。面倒なことにならなければいいんだが。

 なるんだろうなぁ、どうせ。

 何せトラブルメーカーしかいないからなー、うちのパーティー。


「ところでライさん、何かお忘れではないですか?」

「忘れてないかな!」

「あぁはいはい。ほら、頭出せ」


 催促してくるジュレとクレアの頭を撫でてやる。こうして大人しくしてると可愛いもんなんだがなぁ。

 クレアはともかくジュレは俺が嫌がると分かってて抱き着いたりしてくるからな。

 本気でやめて欲しい。さすがにそのレベルのスキンシップはまだ無理だ。


「さて、お前らも解体手伝ってくれ。今日中にコイツらを燻製にして非常食にしちまおう」

「……解体は任せて」

「じゃあボクは血抜きしようかな!」

「私は例によって見学します!」

「同じく。私は役に立たないので」


 いつものやり取りをしながら馬車に戻り、そして。


「おい! 冒険者が戻って来たぞ!」

「ああ、助かった!」


 二十人程の男たちが、馬車の前に陣取っていた。

 全員薄汚れた格好で、武装しているのは先頭の数人だけ。

 それに、視線の動きから奥にまだ仲間が居るのが分かる。

 しかし大人数の割には随分と余裕が無いように見えるが……なんなんだ?

 見た感じ野盗や山賊ではない。彼らの顔に浮かんでいる感情は、焦りと恐怖。


「おい、なんだアンタら」


 警戒心を高めて構えると、その中の一人が一歩踏み出す。

 そして、地に膝を着き、頭を下げた。


「頼む! 村を助けてくれ!!」


 その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。


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