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37話「これなら悪夢を見ずにすみそうだな」


 裏口から冒険者ギルドをこっそり抜け出した俺たちは、そのまま馬車の停留所へと急ぎ足で向かった。

 荷物は大丈夫。馬車を借りることもできた。

 後はサウレ達が来るのを待つだけだ。


 しかし、サウレはあの状態のルミィを抑えて逃げ出すことが出来るんだろうか。

 出来ればどちらも怪我が無ければ良いんだが。

 ……いや、あんなんでも元パーティーメンバーだしな。かなり仲も良かったし。


 優しくて、勇敢で、気配りができて、綺麗で。いつも優しく微笑んで俺たちを見守ってくれていた。

 本当に女神なんじゃないかと何度も思った事がある。

 それくらい良い女だった。のだが。

 どこで壊れたのか。もしかしたら最初からかも知れないが。


 とにかく今は逃げることを優先しよう。捕まったらまた前線送りか監禁の二択だろうし。


「あっ! サウレさん達が来ましたよ!」

「……おい。後ろにアイツらがいねぇか」


 駆け寄ってくるサウレ達の後ろに、ルミィ達「竜の牙」のメンツが揃ってるんだが。

 でもなんか、ルミィだけ足が遅いような気がする。戦い疲れか?


「馬車を出してー! はやくー!」


 叫ぶクレアの声に応え、御者台に乗り込み馬車を発車させる。

 スレスレのところでサウレ達が乗り込み、馬車はそのまま駆け出した。


 急いで振り返ると、ルミィ達が次第に離れていくのが見えて、ようやく一息をついた。

 これで馬と同じ速度で追って来たりしたら笑えないからな……


「おう。みんな、ありがとな」


 後ろの(ほろ)の中で珍しく息を切らしている三人に労いの言葉をかけた。

 魔物との戦闘でもここまで疲れてるところは見たことがない。余程苦戦したのだろう。


「……あの人、殺気が凄かった。何者?」

「ただの回復職(ヒーラー)のはずなんだがなぁ……」


 アイテムボックスから、まだ冷たいリンゴのジュースを取り出して全員に渡す。

 もう一度後ろを見るが、すでに人影は無かった。

 諦めた……訳がないな。俺達と同じように馬車を借りに行ったのだろう。

 その間にどれだけ距離を離せるかだな。


 疲れきった三人を乗せ、馬車は順調に駆けて行った。




 およそ二時間後。今は復活したジュレが御者を変わってくれ、馬に回復魔法をかけながら走らせてくれている。

 この調子なら今日は止まらずに進むことが出来るだろう。

 念の為魔物よけの魔導具も起動させてあるし、出来るだけ距離を稼ぎたいところだ。


「……そういやサウレ。あの後、どうなったんだ?」


 俺にもたれかかったサウレは、そのままの体勢で腰のアイテムボックスから何かを取り出した。

 これは……記録用の魔導具か? 珍しいもの持ってるな、こいつ。

 これは実際にあった事を記録しておける魔導具で、主に貴族が演劇や吟遊詩人の唄を残すために使われている。

 なるほど。これで冒険者ギルドでのやりとりを記録してた訳だな。


 魔力を通し、幌の中で再生する。

 ジジッと掠れるような音がした後、記録された映像が再生された。


 ベッドで眠っている俺。

 そのベッドに忍び寄るサウレ。

 真横に来た所で外套を脱いだ。相変わらずほぼ全裸の際どい格好をしている。

 褐色の肌に白い髪が妙に艶かしい。

 やがて、俺と同じベッドに横たわり、俺の顔をじっと見つめながら両手を股の方に伸ばして……


 魔力を切った。


「…………何してんだお前」

「……間違えた。こっち」


 クレームを入れると違う記録用魔導具を渡された。

 違う、そうじゃない。


「……これはまだ見ないで。一人の時に見て欲しい」

「アルの教育に悪いからやめれ。ほら、こっち再生するぞ」


 改めて渡された魔導具に魔力を通すと、古びた冒険者ギルドの様子が映し出された。

 どうやらサウレとルミィは戦闘中のようだ。


 横薙ぎに振るわれたルミィの杖。それを短剣で受け流しながら距離を離すサウレ。

 たまたま居合わせた冒険者達は少し離れた場所で傍観しているようだ。

 ルミィの振り下ろし。サウレがひらりと躱すと、ギルドの床がベコリとへこんだ。

 ……これ、自分に強化魔法かけてやがるな。

 て言うか、サウレが全く攻撃していない。

 振り回される杖を避けたり受け流したりするだけだ。


「……ライの仲間だから、傷つけたくなかった」

「よくやった。ありがとな」


 褒めつつ頭を撫でてやると、グリグリと押し返してきた。

 猫みたいだな、と思いながら更に撫でてやると、クレアがうずうずした様子で身を乗り出してきた。


「クレアもお疲れさん」


 空いた手で同じように撫でてやる。

 気恥しそうな顔で、しかし嬉しそうにされるがままになっている様は少し愛らしかった。


「そんで、このままやり過ごしたのか?」

「……体力が尽きるのを待って逃げてきた」

「さすがだな。これなら時間も稼げそうだ」


 見た感じルミィは魔法をずっと使ってるから疲労も凄いだろう。こちらはジュレが回復魔法を使って馬を走らせている分、かなり距離が離れるはずだ。

 そのまま王都に逃げ切ってしまえば見つかることは無い……はずだ。


「ジュレ。疲れたら交代してくれ。俺は仮眠を取っておくから」

「分かりました。私も後で撫でてくださいね」

「はいよ。んじゃ、任せた」


 苦笑いを返していると、不満そうなアルがじっとこちらを見つめていた。


「私も! なでてください!」

「は? いや、かまわないが……」


 ちょいちょいと手招きして、同じように撫でてやる。


「むふー! 私も頑張りましたからね!」

「ん? 何をだ?」

「ぶち殺さないように我慢しました!」

「あー……まぁ、偉かったな」


 こいつ、どこまでも物騒だな。でも最近は抑える事が出来てきたし、だいぶ成長してるようだ。

 そこを褒める意味も込めて、わしゃわしゃと撫でてやった。

 ご満悦な表情で離れるアルに再度苦笑しながら、俺は膝を立てて座ったまま毛布にくるまって仮眠を取ることにした。

 ナチュラルにサウレが膝の間にすっぽりと収まってくるが、言っても聞かないのでそこはスルー。

 仲間の優しさに温もりを感じながら、うつらうつらと眠りについた。


 これなら悪夢を見ずにすみそうだな。


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