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25話「いやぁ、誰も怪我が無くて良かったなー」


 マストに背中を預けて、青空を見上げながらあくびを一つ。

 あぁ、平和だなぁ。

 ワイバーンの襲撃から三日。特にトラブルも無く平穏な旅路を行っている。

 いいねぇ。のんびりできて、穏やかな気分だ。

 アルが問題さえ起こさなければずっとこうしていられるんだけどなぁ。


 目線を下げると、真っ青な海。

 白い波が船に釣られて流れていく。

 時折遠くでキラキラと光るのは、多分魚のウロコだろう。

 遠くで海鳥がニャアニャア鳴いているのが聞こえる。


 水平線までの視界を遮る物も無い。

 雄大な海を眺めて、もう一度大きなあくびをした。


 さてさて。そろそろ逆側を見てきますかねー。

 一応見張り役だしな。

 船長から報酬も貰える予定だし、そこそこ頑張りますかねー。


 ふらりとした歩調で甲板の逆側に向かうと、そちら側には遠くに船が見えた。

 そこそこの大きさだ。あちらものんびりと航海してるんだろうか。


 ……あ。いや、違うな、あれ。

 よく見ると帆には大きなドクロのマークが描いてあるし。

 あちらも魔導船らしく、風に逆らって進路をこちらの船に向けている。


 あぁ……海賊かなぁ。海賊だよなぁ、どう見ても。

 こんな魔物の出る海域でも海賊なんて出るのか。スゲェ根性だな。

 しっかしまぁ、あの船の大きさだと二十人は乗ってるか?

 うっわぁ、地味に面倒だな、おい。

 ……とりあえず、みんなを呼んでくるかー。



 護衛の冒険者達に監視を頼み、うちのメンバーに声をかけに行くと、既に事態を把握していたようで戦闘準備が完了していた。

 話が早くて助かるけど……これ、見張りの意味あったんかね?


「おーい。海賊が出たんだが、いけるか?」

「もちろんぶち殺しますよ!」

「……私はライを守るだけ」

「私は慌てふためく皆様を見届けたいですね」


 ブレねぇなぁこいつら。一応緊急事態なんだけど。

 

「あー……嫌だし怖いし面倒だけど、やるしかないだろうなぁ」


 この船が襲われたら俺らも困るしなぁ。

 幸いなことに、メンツも道具も揃ってるし。


 さてさて。嫌々ながら、頑張りましょうかね。



 再び甲板に出ると、思っていたより海賊船は近くに寄ってきていた。

 うーん。やっぱり乗り込んでくる気だよなぁ、あいつら。

 なんかヒャッハーとか言ってるし。

 元気だなぁ、海賊さん達。

 まぁ残念ながら、今回はお仕事失敗になるだろうけどな。


 いや、だって、なぁ。

 こっちにはサウレとジュレが居るし。

 この二人だけで過剰戦力だしなー。

 それに今回は道具も揃ってるし。


 鉤縄を振り回してこちらの船に引っ掛けて来る海賊たち。

 その様を見ながら、俺はアイテムボックスから油の入った樽を取り出した。


 はいはい、お疲れさんです。


 ドバドバっと縄に油をぶっ掛けていく。

 さてさて。全体重を任せた縄がヌルヌルになればどうなるか。

 その結果がこちら。


「なんだこれ!? うおわっ!?」

「縄が滑って……ぬおぉ!?」


 どぼん、どぼんと次々に海に落ちていく海賊たち。

 うん、ここまで狙い通りに行くと面白いな。


「貴様! 卑怯だぞ! 正々堂々と戦え!」

「うわぁ、海賊に言われちまったよ……人数揃えて人様の船を襲う奴らにゃ言われたくねぇわな」

「くそっ! 魔法を使えるやつらは空から行け! 乗り込んじまえば何とかなる!」


 お。何人か空に浮かんだな。浮遊はそこそこ難しい魔法のはずなんだけど……そんなん使えるならまっとうに働けばいいのになぁ。


 それにほら、飛んでも無駄だし。


「ジュレ、障壁頼んだ」

「いやです。もっとこの光景を楽しみたいじゃないですか」

「いいからやれや、ド変態が」

「あぁっ! ありがとうございますぅ!」


 自分の体を抱きしめてクネクネされた。

 こいつ、めんどくさいんだかチョロいんだかよく分からねぇな、マジで。

 まぁ、やることやってくれりゃ何でもいいんだけどさ。


「こほん……阻め、拒絶し、受け止めよ、堅牢なる神の手よ。願わくば、我にその加護を与えたまえ!」


 魔法詠唱。同時に船の縁に現れる、半透明の障壁。

 空を浮いて船に乗り込もうとした奴らは、揃って障壁にぶつかってそのまま海に落ちていく。

 飛び出すな。人間も急に止まれない。ってな。


 よしよし。これで全員落ちたな。んじゃ、仕上げだ。


「サウレ、殺すなよー」

「……なぜ?」

「こいつら引き渡せば報酬が出るからな。それに、俺は目の前で死人が出るのは嫌いなんだよ」


 せっかく戦争が終わったんだ。

 殺したり殺されたりするのは勘弁してくれ。

 ……死体なんて、見たいものじゃねぇし。


「……分かった。後で褒めて」

「おう、いくらでも褒めてやるよ」

「……魔術式起動。展開領域確保。対象指定。其は速き者、閃く者、神の力。我が身に宿れ、裁きの(いかずち)!」


 サウレが雷を身に(まと)い、その先端をそっと海に飛ばす。


「あばばばば!?」

「ぎゃあぁぁ!!」


 数秒後。海賊たちは大量の魚と共に、全員ぷかぷか海に漂ってと動かなくなった。

 あ、やべ。早く回収しねぇと。


「おーい、お前ら手伝ってくれ! あいつら引き上げんぞー!」

「わっかりました! 後始末はお任せくださいっ!」

「サウレー。アル止めといてくれなー」

「……分かった」

「あぁっ!? せっかくのチャンスなのにっ!?」


 周りの奴らの手を借りて、痺れて動けなくなった海賊たちを何とか船に引きずり上げ、改めて縛り上げる。

 よっしゃ。なんとか被害無しで済ませることが出来たな。お互いに。

 せっかく無傷で捕らえたのにアルに手を出されたらシャレにもならん。


 あとはまぁ、こいつらが目を覚ますまで見張りをするとして、海賊の船をこっちの船に繋いで置かなきゃな。

 船だけ放り出す訳にもいかねぇし。


 いやぁ、誰も怪我が無くて良かったなー。


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