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23話「過剰戦力にも程がないか?」


 魔導船の動力は魔石だ。

 帆を広げて風で進むことも出来るけど、主に魔石によって動かされるスクリューによって進む。

 その為、馬車なんかよりもだいぶ早い速度で船は海を進んでいく。


 それに、船頭からは魔物避けの灰が撒かれており、波に混ざってキラキラと輝いているのが見える。

 つまり速度と相まって、ほとんど魔物に襲われる心配がないのだ。

 一応念の為に護衛の冒険者達が乗ってはいるが、退屈そうにあくびを噛み殺しているのが見える。


 と言うことでまぁ、やる事がない訳で。

 いくらでもダラダラできる訳だ。

 いやぁ、最高だな、マジで。

 飯だけ自分たちで用意すりゃいいし、船旅自体は快適だし。

 あとはアル達が絡んでこなけりゃかなり理想的なんだけどなー。


「ライさーん。暇です。何か面白いことないですかー?」


 自室のベッドで横になっている俺にアルが話しかけてきた。

 なんだよもー。ほっといてくれよ。


「海でも見てこーい」

「さすがに飽きましたよ!」

「んじゃジュレに相手してもらえー」

「ジュレさんの周りはいつも人がいます」

「……あぁ、有名人だもんな、あいつ」

 

 元超一流冒険者パーティー『雪姫騎士団』所属、『絶氷の歌姫(アブソリュート)』のジュレ・ブランシュだもんなぁ。

 見た目も外面も良いから人が集まるんだろうなー。

 俺なら進んで近寄りたくないけど。


「てかお前、そんな事で尻込みするタイプじゃなくね?」

「隙だらけの人が居るとぶっ殺したくなるんで控えてます」

「おぉ、自制を覚えてきたか。えらいぞー」

「えへへ。私も日々進歩してるんです。より多くを殺すためには我慢も必要なので!」

「考え方の根本は狂ってるけど被害が無いならそれでいいわ」


 結果良ければ全て良し。とりあえず、撫でとくか。


「……ライ。私も撫でて」

「あーはいはい。サウレもご苦労さん」


 おそらく船に乗って一番働いているサウレを労ってやる。

 アルの監視に加えて周辺の警戒をしてくれてるし、船員と天気から考えられる進路についてのやり取りをしてるのも見かけたな。

 さすが熟練冒険者だ。頼りになる。

 感謝の気持ちを込めて撫でると気持ち良さそうに目を細める。

 うーん。やっぱり見た目は癒されるなー。

 たまーに俺を見る目付きが肉食獣みたいで怖いけど。


「ふむ……アル、暇ならちょっとチェスでもやるか?」

「え、チェスとか持ってきてるんですか?」

「あぁ、たまたま専門書貰ったから道具を買ったんだよ。一人でも楽しめるからな」


 指導書のようになっているこの本には、基本的な定石などに加え、決められた配置と手数でチェックメイトまでの道順を考える問題なんかがたくさん書かれている。

 まとまった休みが取れた時は寝るか、酒を飲むか、本を読むか、チェスをするか。

 たまーに買い物なんかも行くが、俺は基本的には宿でのんびりするタイプだ。


「うーん。でも私ルールもよく知らないからやめときます」

「そうかぁ。んじゃ適当に暇つぶし――」


「……ライ、敵襲。上空からワイバーンの群れが迫ってきてる」


「――する暇も無くなったなー。ちくしょう」


 空からじゃ魔物避けの灰も意味ないからなぁ。

 でも護衛の冒険者も乗ってるし、問題はないだろ。

 ワイバーンは見た目は龍に近いけど、小さな群れなら中級冒険者パーティーなら対処できる程度だし。

 魔法で遠距離から戦えばただの羽が生えたでかいトカゲだ。


「……上位個体がいる。群れの規模が大きい」

「うわ、マジか!?」


 普通の魔物が魔力を溜め込んで進化すると上位個体になる。

 基本的に群れを統率する力を持ってるので、上位個体がいる群れは規模が大きくなりやすい。

 ワイバーン自体はそこそこの強さだけど、上位個体がいるとなるとかなりヤバいな。

 くそ、ついてねぇ。加勢しに行くしか無いか。


「アル、ジュレを呼んでこい。俺とサウレは甲板に出るわ」

「わっかりましたぁ!」

「はぁ……なーんでこう、のんびりさせてくれないのかねぇ」


 ただ静かに平穏な日々を送りたいだけなんだけどなぁ。




 甲板に出ると、サウレの言う通りワイバーンの群れがこちらに向かって飛んできているのが見えた。

 ざっと二十匹はいるな、あれ。うわぁ、怖っ。

 この数だと王国騎士団が総出しないとならない規模だ。通常なら全滅を覚悟しなければ行けない程の脅威である。

 だがまぁ、今回に限っては大した驚異でもないけどなー。


「遅れました。確かに上位個体がいるようですね」

「おう、ジュレか。あれどうにかなるか?」

「そうですね。私とサウレさんなら対処できます」


 おぉ、頼もしい。さすがの貫禄だ。

 こんな状態でも堂々としてるし、超一流冒険者なだけある。


「だろうなぁ。まぁ、頼むわ」

「嫌です」

「……は?」


 え、この流れで断るのかこいつ。


「もっと切迫して頼み込んでください。哀れさを(かも)しだして。さぁ!」


 いやいや、こんな所で性癖全開にしてんじゃねぇよ。


「あー……アレか、泣きながら土下座でもしたらいいか? そのくらい平気でやるぞ、俺」

「それは面白くないですね……困りました」

「いいから早くやれ、この変態が」

「あぁっ! その冷たい眼差しも悪くないですね……!」


 自分の体を抱きしめて震えるジュレ(ド変態)

 あぁ、こいつに何か頼む時はこうしたらいいのか。

 かなり嫌だけど、楽っちゃ楽だな。


「ほれ、ご褒美がほしいなら必死になって戦ってこい。なんか考えとくから」

「はぁはぁ……承知しました、ご主人様!」

「サウレ、すまんがこの変態任せた。アルは俺が見ておくから」

「……私にもご褒美」

「あいよ。後で撫でてやる」

「……行ってくる」


 人としてダメな表情のジュレを連れて、サウレは甲板の端の方に立った。


 そのまま二人揃って空に手を向けて、詠唱する。

 世界を書き換える、力のある言葉。

 それぞれの口から紡がれていく、魔法。


「……魔術式起動。展開領域確保。対象指定。其は速き者、閃く者、神の力。我が身に宿れ、裁きの(いかずち)!」


「透き通り、儚き、汚れなき、麗しきかな氷結の精霊。願わくば、我にその加護を与えたまえ!」


 直後、雷と氷の弾が嵐の様にワイバーンに殺到した。

 抵抗のしようも無く撃墜されていき、次々と海に落ちていく。

 いやぁ、やっぱすげぇなこいつら。

 てかアレ、回収したいところだけど……ちょっと進路変えてもらうかな。


「二人ともお疲れさん。サウレ、念の為に周囲の警戒を任せていいか?」

「……その前に、ご褒美」

「はぁはぁ……私にもお願いします!」

「あぁ……うーん。どうすっかね」


 処理が早すぎて考える暇も無かったわ。


「……じゃあ夜伽(エッチな事)を」

「しねぇから」

「そういうプレイも悪くないですね。受けと攻め、どちらが良いでしょうか」

「いや、しねぇからな?」


 ヤバい、何か考えないと俺の貞操がピンチだ。

 かと言って撫でるくらいじゃ納得しそうにないしなぁ。


「あー……サウレ、ちょっとこっち来い」

「……なに?」


 無警戒に近付いてきたサウレを優しく抱きしめた。


「いつもありがとな」


 耳元で小さく呟く。ほんと、サウレには感謝しかない。

 こいつはスキンシップ取るのが好きだし、今回はこれで良いはず。

 あー。長袖来てて良かったわ。鳥肌がやべぇ。

 いや大分失礼な話なのは分かってっけど、本能的なものだから勘弁してほしい。


「……好き。抱いて」

「それは却下だ。ジュレはどうする?」

「えぇと……人前でそれは恥ずかしいですね」

「んじゃ後でなー」

「はぁはぁ……これはこれで焦らされている感じがたまりません!」

「今日は絶好調だなお前」


 てか、アルが大人しいのが気になるんだけど。

 すっげぇ不服そうな顔してるし。


「アル、どうした?」

「欲求不満です! 私も殺りたかったです!」

「あぁ……遠距離の攻撃手段も考えてみるか?」

「お願いします! せっかくのチャンスを逃したくないので!」


 ……こいつの場合、そのチャンスは魔物を殺せることなのか、俺に褒められることなのか判断しにくいな。

 せめて後者であってほしい。


「んじゃまぁ、ちょっと船長と話してくるわ。ワイバーン回収してぇし」


 三人に見送られ、とりあえず一番顔が怖い船員に話しかける事にした。

 しかしまぁ、割とマジで、うちのパーティーってさ。


 過剰戦力にも程がないか?


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