22話「楽しい船旅になるといいなー」
目の前に広がる光景は、中々酷かった。
俺の罠に足止めされて、そこを横薙ぎに振られた両手剣でぶった切られるオーク。
雷の魔法で牽制されつつ、短剣で的確に急所を切り裂かれるオーク。
そして、遠距離から氷の魔法で一方的に殲滅されるオーク。
おかしいな。オークの群れってそこそこ脅威的なはずなんだけど。
少なくとも、他の討伐依頼のついでに狩られるようなものではない。
あ、また一匹減った。サウレの奴、絶好調だな。
なんとなく、ジュレと張り合ってる気がするのが少し微笑ましい。
やってる事は物騒だけど。
「アルさん! 今日は一度しか転けませんでしたよ!」
「……たくさん頑張った」
「こんな所でしょうか。お二人が前衛をしてくれるおかげで楽でしたね」
元気に笑いながら駆けてくるアル。
無表情ながらも褒めてほしそうにそわそわしてるサウレ。
ニコニコと穏やかな笑みを浮かべるジュレ。
見た目だけなら何とも豪華な顔ぶれである。
みんな外見はかなり良いからなぁ。
……あとは中身がまともならなー。非常に残念な気分だ。
「あいよ、お疲れさん。アルもサウレも頑張ったな。えらいぞー」
突き出された二人の頭をぐりぐり無でてやると、何とも嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
最近はこっちから触る分は抵抗があまり無いので、ことある事になでなでを要求されている。
うーん。こうして大人しくしてりゃ可愛いんだけどなぁ。
「あら、私は褒めて貰えないんですか?」
「え、褒められたいのか?」
「私だけ褒めないのは不平等だと思います」
「えぇと……ジュレも頑張ったな。助かるわー」
「はい。あと、お好きな場所を撫でてください。胸とか。乱暴に」
「うるせぇわ。ほれ、頭出せ」
こっちもぐりぐりと頭を撫でてやる。
ちょっと頬を染めてるのが艶かしい。
なんつーか……マジで見た目は美女なんだけどなぁ。
これで中身がまともならまだマシなんだけどなー。
「とりあえず討伐部位切り取ってアイテムボックスに突っ込むか。みんな休んでてくれ」
「……手伝う。私はやればできる子」
「私も手伝います! 自分の成果をみたいので!」
「では私も。慣れていますから大丈夫ですよ」
「んじゃさっさと片付けるかー」
オークの討伐部位は豚のような特徴的な鼻だ。
ついでに食肉としても有用なので、町の近くで狩った場合は持って帰って解体してもらうのが一般的である。
これで今日も美味い飯が食えそうだ。
「つーかコボルトの討伐依頼だけのつもりだったんだけどなー。お前ら戦闘力高すぎんだろ」
「……ライの護衛は私に任せて。敵の排除からお風呂の背中流しまでなんでもやる」
「そこまでせんでいい。けどまぁ、おかげで楽だわ」
俺は罠ばらまいて、後はアルのサポートしてりゃいいし。
余程の大物が出ない限りほとんど何もしなくて良いのは嬉しい限りだ。
「セイさん……ではなく、アルさんは戦うのが苦手なのですか?」
「え、うん。怖いし痛いの嫌だし」
「はぁ。それって冒険者としてどうなんでしょうか」
「自覚はあるが反省も後悔もしていない」
そもそも戦いたくないから『龍の牙』抜けてきた訳だしな。
ジュレがパーティーに加入して早三日。
定期便が出るまでの間、俺たちはお互いの事を知るためもあって討伐依頼をこなしていた。
既にサウレとジュレの連携は完璧と言って良いほどだ。
俺は引き続き、両手剣を振り回すアルのサポート。
後は戦闘後に飲み物渡したり簡易的な休憩所を作るくらいしかしていない。
マジで楽だわ。魔石も使わなくて済んでるし。
「うし、そろそろ引き上げるか。こんだけ狩れば十分だろ」
「えー。もっとかち割りたいです」
「うっせぇわ。俺は早く帰って美味い飯を食いたいんだよ。それにそろそろ船の時間の再確認しないとなんねぇからなー」
「あぁ、そう言えばそろそろ定期便が出る頃ですね」
「そういう事だ。明日の朝に出発だから、みんな荷物まとめとけよー」
出来れば個室が良かったんだけど、空いてなかったんだよなぁ。
まぁ四人部屋取れただけでも良しとしよう。
知らん人と一緒に大部屋で雑魚寝するのは辛いものがあるし。
およそ二週間の長旅だ。少しでも快適にしたいからな。
「そういやアルは船に乗るの初めてって言ってたよな」
「はい! ワクワクしますね!」
「一応酔い醒ましは買ってあるけど、辛かったら早めに言えよ?」
「その時は誰か襲って気を紛らわせます!」
「やめれ。周りの迷惑だ……サウレ、こいつの見張りは任せたからな」
「……うん。任された」
最近はアルの行動パターンも分かってきたし、大丈夫だろうけどな。
たぶん。絶対とは言いきれないけど。
……大丈夫だよな?
「船の上で問題起こしたら海に叩き落とされるからな。マジで頼むぞ」
海の男たちって下手な冒険者より強ぇからな。
伊達に魔物だらけの海で船員やっていない。弱い魔物の群れ程度なら余裕で撃退するからな、あの人たち。
「……向こうに着いたらご褒美がほしい」
「ん? そうだな、出来る事なら何でもしてやるよ。出来る事ならな」
「……言質は取った」
「おい、出来る事だけだからな?」
「……大丈夫。ライにしか出来ないことだから」
「その言い方だと不安しかねぇんだけど」
こっちはこっちで危ねぇな。船の上だと逃げ場もねぇし、気をつけとこう。
でもまぁ、最近は大人しくなってきたし、あまり警戒もしてないけどな。
メンツ的には若干不安はあるけど……
楽しい船旅になるといいなー。