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16話「少しずつ距離が縮まってはいるんだろうか」


「アル! やっちまえ!」

「とぉりゃっ!」


 横薙ぎの大振り。粘着玉で動きが鈍ったデザートウルフを叩き斬り、アルが無邪気な笑い声をあげる。


「あははっ! 殺ってやりましたぁ!」

「喜んでる場合か! そういうのは後にしろ!」


 こちらに駆け寄る一匹に目潰し玉を撃ち込み、怯んだ隙にサウレが短剣で仕留める。

 サウレはそのまま走り、短剣と雷の魔法で次々とデザートウルフを倒していく。


 いやー楽だわー。

 サウレのおかげで俺はアルの援護だけしてればいいし。

 前に出て戦わなくていいのはマジで助かる。


「ライさんライさん! 次が来ました!」 

「はーいよ!」


 スリングショットで胴体を狙い撃ち、動きが鈍ったところにアルの両手剣が振り下ろされる。

 どうでもいいが、一匹倒す度に満面の笑みを浮かべるのはやめて欲しい。


「あぁっ! この感触ですよ! 素敵ですっ!」

「うわぁ……お前、少しは自重しろよ」

「すみません、楽しくってつい!」


 満面の笑みである。だいぶ慣れては来たが、やはり違和感が半端ない。


「せめて返り血くらい拭けって……ほら、顔出せ」

「むぐぐ……ありがとうございます!」


 うーん。こいつの殺戮(さつりく)衝動、マジでなんとかなんねーかなー。

 たまに俺に殺気向けてくるから怖ぇんだよなー。

 

「……終わった」

「おう、お疲れさん」

「……私も拭いて欲しい」

「いや、汚れてねぇじゃんお前」


 ぐいっと顔を近付けてくるので、適当に濡れタオルで拭ってやった。

 あまり表情は変わらないけど、なんとなく嬉しそうだ。


「ありがとなー。サウレいてくれて助かるわー」

「……もっと褒めて。私は褒めて伸びるタイプ」

「強いぞー偉いぞー可愛いぞー」


 お望み通り、頭を撫でながら褒めてやった。

 自分でもどうかと思うほど適当だが、サウレ的にはこれでも良かったらしい。


「……好き」

「おう、抱き着くのはやめよーなー」

「……やだ」

「ちょ、おま、押し切ろうとすんな!」


 額を抑えてんのに無理やり近づいてくんな!

 こいつ小さいのに力強いなおい!?


「こら、過度な接触は禁止だ!」

「……このくらい、普通」

「普通じゃないから! はーなーれーろー!」

「……ライは照れ屋さん」


 違ぇわ。まだトラウマが消えてないだけだ。

 とりあえず、両手を使って無理やり押し離した。

 どことなく不満そうに見えるが、そこは譲れない線だ。


「むぅ。ライさん、私も褒めてください!」

「偉いぞー巨乳サイコパスー」

「えへへぇ」

「え、今のでいいのかお前」


 チョロすぎないかこいつ。

 色々心配になるんだけど。


「それよりほら、あいつらアイテムボックスに収納するからどいてくれ」

「はーい。そう言えば、ライさんのアイテムボックスってどのくらい入るんですか?」

「あー。なんかめっちゃ容量あるらしいな。遺跡で発掘したアイテムだ」

「それは便利ですねぇ。死体の埋め場所に困りませんし」

「だからその発想から離れろ……いや、近いことしてるけども」


 魔物の死骸をそのまま突っ込んでるからなー。

 水場があれば解体するんだけど、砂漠じゃ難しいし。

 

「うし。んじゃそろそろ野営場所探すかー」

「……あっちに岩場がある」

「んじゃそこ行くか。て言うか毎回思うんだけどさ、なんで分かるんだ?」

「……簡易的な探知魔法を使っている」

「マジで便利だなお前」


 もうサウレ一人いればよくないか?

 あ、だめだ。こいつ俺がいないと何もしない奴だったわ。


「ちなみに港町まであとどれくらいだ?」

「……今のペースなら三日くらい」

「おう、思ったより早いな。さすがサウレだ」

「……えっへん」


 うん。可愛いから撫でとくか。

 しかし、サウレのおかげでこっちから触るのは大丈夫になってきたなー。

 あとは触られる方だが……まぁこっちはまだ時間かかりそうだ。


 だから腕組もうとすんな。もうちょい離れろサウレ。

 あとアルは後ろから狙ってんじゃねぇよ。見境なしかお前。


「とりあえず、飯はどうすっかね。水場はありそうか?」

「……近くには無い」

「へいよ。なら携帯食だな。あぁエールが飲みたいなー」

「私はお肉が食べたいです!」

「……ライがいれば何でもいい」

「んじゃ町に着いたら酒場行くかぁ」


 でもとりあえず、今日の寝床の確保だな。

 さっさと用意しちまうか。




 夕飯の後、焚き火に薪を放り投げながら鍋でお湯を沸かしていると、周囲を警戒していたサウレが戻ってきた。

 尚、アルは既に爆睡中だ。よくあんなに早く眠れるなあいつ。


「お疲れさん。紅茶飲むか?」

「……飲む」

「はいよー。あぁ、ところでサウレ」

「……なぁに?」

「お前さ、何で行き倒れてんだ?」


 ずっと不思議に思ってはいたんだよな。

 こいつくらい強くて有能な奴が何で砂漠で行き倒れてたんだろうって。

 熟練冒険者なら普通は有り得ないし。


「……護衛依頼を受けたら騙された」

「は? え、なんだそれ?」

「……旅の途中に私に拘束魔法を使って、荷物を全て持っていかれた」

「うわ、マジか。ひでぇ話だなそれ」


 護衛の依頼ってのがそもそも嘘だったって事か。

 どこに行っても悪人っているもんだな、おい。

 あぁ、胸の中にフツフツと何かが混み上がってくる。


「あー。ちなみに、どんな奴だ?」

「……自称商人のベルベッド。茶色い髪の美女」

「ほぉ。そりゃ会ってみたいもんだなー」

「……ライは、会ってどうするの?」

「顔面に目潰し玉ぶち当てる。そんで衛兵に突き出すかな」


 唐辛子とコショウをふんだんに使った特製品だ。

 直撃したら丸一日は地獄を味わうことだろう。


「……なんで?」

「なんでってお前、ムカつくからだよ」


 サウレの敵は俺の敵とまでは言わねぇけど……うん。

 だってもう、こいつら身内みたいなもんだし。


「あーあ。そいつ、王都にいねぇかなー。冒険者ギルドで情報集めるのもありかもしんねぇな」

「……ライは、優しい」

「優しくねぇよ。自分勝手なだけだ」


 俺がムカつくからやるだけだしなー。

 そもそも優しい奴は人の顔面に物ぶつけたりしねぇよ。


 てかほら、分かったら離れろ。徐々に近付いて来んな。


「おい、サウレ、それ以上はダメだ」

「……惜しい。もう少しだった」

「くっそ。日に日に距離が縮まってんのがこえぇわ」


 何気にギリギリライン攻めてくるからなーこいつ。

 アルとサウレ限定なら同じテントで寝れるくらいには慣れてきたし。


「……次は仕留める」

「やめれ。俺の精神衛生上よろしくないから」


 好かれてるっぽいのは嬉しいんだがなぁ。

 気がついたら組み伏せられてそうで怖いんだよな、こいつ。


 うーん。まぁ、何だろうなー。

 少しずつ距離が縮まってはいるんだろうか。


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