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14話「さてさて。ちっとばかし頑張りますかね」


 注文した品が届いて驚いた。

 ランチセットはデカいメンチカツをメインに、葉野菜のサラダ、キラーサボテンのスープ、そして念願の白パン。

 それらが全部大盛りだ。オマケしてくれるかなとは期待していたが、まさかこれ程豪華だとは思わなかった。


「おばちゃん、ありがとな」

「このくらいなんてこと無いさ!そっちのメンチカツはそのまま食べても美味いけど、そこのソースかけたら更に美味いよ!」

「お、じゃあそうするか」


 揚げたてでパチパチ鳴っているところにソースをかけると、じゅわっと良い音がして、フルーツソースの爽やかな香りが昇ってくる。

 そこにナイフを入れると、サクサクと小気味の良い音がして、中からこれでもかと肉汁が溢れてきた。


 慌ててフォークを刺して口に運ぶと、当たり前だが熱かった。

 はふはふしながら食ってると、衣のサクッとした歯触り、凝縮された肉の旨み、そしてソースと肉の甘みを感じ、飲み込んだあとは果実の爽やかさが口内に残る。

 こってりして食いごたえがあるのに、後味が良いからすぐに次を食べられる。これは悪魔の食べ物だ。食が進みすぎる。


 少し落ち着いてサラダに目をやると、これまた採れたてと思われる新鮮な葉野菜の上に赤く熟したトマト。キラキラ光るドレッシングが魅力的だ。

 旅の間は生野菜なんて食べることがなかったから、サラダは嬉しい。


 フォークを通すと、軽い手応え。ドレッシングを絡めて口に運ぶと、シャキシャキした歯応えを返してくれた。

 美味い。瑞々しく、葉野菜特有の苦味と甘み、そしてドレッシングの酸味が合わさって、サラダってこんなに美味しかったっけと驚いた。


 更には、キラーサボテンのスープ。オーク肉が一緒に入っていて中々に豪華だ。

 正直、これはあまり期待してなかった。以前食べたキラーサボテンは青臭く、不味くは無いが美味くも無い、微妙な感じだったからだ。


 しかし、一口たべて食堂のおばちゃんに謝りたくなった。

 俺の知っている味とは違い、若干の青臭さはあるものの、ほんのりと甘い。オーク肉は程よく脂が乗っていて、一緒に食うとスープ自体の塩味と合わせて絶妙なバランスを保っている。

 料理する人間が違うだけでこんなに味が変わるのか。マジですげぇなコレ。


 そして白パン。買ってきた物ではなく、ここで焼いているらしい、

 その証拠に表面がパリッと香ばしく、麦特有の安心する香りが漂ってくる。

 ちぎって口に入れると、ふわりとしていて、優しい甘みが口中に広がる。

 主張しすぎず、どの料理と一緒食べても一弾と味を引き立ててくれた。


 エール(麦酒)は仕事前だから一杯だけにしておいたが、困ったことにこの店はエールも美味かった。

 砂の都エッセルで飲んだものより苦味が強いが、後味が残らず喉をすっと通って行く。他の料理の後味が綺麗に消えてしまい、また次を食べたくなってしまった。

 しかも、温度も適温。冷えすぎず、ぬる過ぎない。これも飲みやすさを引き立たせている。



 この店は当たりも当たり、大当たりだ。王都ユークリアでもこれ程美味い食堂はそうそう無いだろう。

 アルはランチセットをもう一つ頼んでいたし、サウレは無言で黙々と食べ進めていた。

 こんだけ美味いもん食わせてくれたんだ。気合い入れて仕事しなきゃな。



「おばちゃん、マジで美味かったわ。ありがとう」

「おやまぁ、良いって事よ。アンタらは恩人なんだし、腕によりをかけて作ったさ」


 捲りあげた腕をパシッと叩いてニカリと笑う。サマになってんなー。


「夜も食いに来るよ。こんだけ美味い飯を食い逃す手は無いわ」

「そりゃ嬉しいね。アンタ、名前は?」

「ライだ。あっちの金髪がアル、白髪がサウレ。三人でしばらく世話になるつもりだ」

「そうかいそうかい。こりゃ作りがいがあるねぇ」


 おばちゃんは笑いながら力こぶを作って見せた。話していて中々に気持ちの良い人だ。この店は優先して修繕したいところだな。


「さて。アル、サウレ。飯も食ったし、そろそろ行くぞ」

「ご馳走様でした! 美味しかったです!

「……美味しかった」

「喜んでもらえたなら何よりさ。まいどあり!」


 三人分で大銅貨三枚を渡そうとすると、二枚にまけてくれた。

 頑張って仕事をしてくれるなら安いもんさと、笑いながら。

 本当に良い人だ。この恩を返すためにも、仕事を頑張ろう。



 店から外に出ると、道にはたくさんの人が歩いていた。


「おう、さっきはありがとな」

「本当に助かったよ。感謝している」

「お兄ちゃんたち、悪者をやっつけてくれてありがとう!」


 道を行く町人がみんな笑顔で挨拶してくれる。

 明るい顔で立ち去っていく彼らを見ると、怖い思いをしたかいがあったと思う。

 良い町だ。心からそう感じた。

 暗い顔をした住民が一人もいない。盗賊の被害にあっていたにも関わらずだ。

 心が強い。さすが、砂漠の真ん中で暮らしているだけの事はある。



 男性に教えてもらったとおり、町で一番デカい家に向かった。

 デカいと言っても大した大きさでは無く、この町で唯一二階建てと言うだけだ。

 目立ちはするが、豪邸や屋敷という感じでもない、普通の作りの家だった。


 ドアノッカーを鳴らすと、すぐに中から人の良さそうなおっちゃんが出てきた。この人が町長さんかね。


「どうも、冒険者のライです。ここで仕事貰えるって聞いて来ました」

「おぉ、貴方達が……町を救ってくれてありがとうございます」

「そこは成り行きなんで気にしないでください。それより、仕事の話なんですけど……家屋と外壁の修繕(しゅうぜん)って聞いたんですが」

「えぇ、人手が足りず困っていたところです。おねがいできますか?」

「了解です。すぐに取り掛かりますんで」

「助かります。ありがとうございます」


 えらく腰の低い人だな。町長って言うもんだからもっと堂々としてる人かと思ってたんだけど。

 でも、人の良さが全体から滲み出てる。町の人からも好かれてんだろうな、この人。


「補修用のレンガは大量に用意してます。砂嵐で壁がやられることもありますから」

「分かりました。んじゃ、取り掛かりますね」

「よろしくお願いします」


 深々と頭を下げられた。思わず薄くなった頭皮に目が行くが、自然に目を逸らしておいた。

 しかしまぁ。町の雰囲気が良いのも理解出来る。

 町のトップがこの人なら、みんな過ごしやすいだろうし。

 改めて、良い町だ。俺も頑張ろうという気になれる。


 まぁ、無理はしないけどな。俺にやれる事を頑張るだけだ。

 それでも、うん。この人たちのためなら全力で取り掛かろうとは思える。


 さてさて。ちっとばかし頑張りますかね。


 

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