13話「変わった奴らだとは思うな」
町の中に入ると、住民達に大歓迎された。
まぁ余程困ってたんだろう。盗賊とか死活問題だったろうしなー。
ちなみに、宴会を開くと言われたが、盗賊の被害で町に余裕が無さそうだから遠慮しておいた。
それよりも、寝床と飯と酒だ。
ありがたいことに宿代を無料にしてくれるとの事だったので、そこは好意に甘える事にした。
宿の入口で砂だらけの外套を手で払い、アイテムボックスに収納して中に入る。
そこそこ良い部屋に通されたっぽく、一部屋にベッドが二つもあった。
内装も綺麗で、こんな小さな町にしては豪華だ。
ふむ。旅人や商人がよく通る場所だからかね。
何にせよ、これなら快適に眠れそうだ。久々に見張りをせずに眠れるのはありがたい。
「あぁ、先に一応言って置く。サウレ、いかがわしい事は禁止な。添い寝までは諦めてやるから」
どうせ止めてもやるだろうしな、こいつ。
て言うか何度言ってもやめねぇし。起きたら同じ毛布にくるまってて悲鳴を上げたこともあったな。
気配消すのが無駄に上手いからタチが悪い。
「……ライが望むならその先も」
「せんでいいわ」
だいぶ慣れてきたとは言え、トラウマは未だに健在だし、色々と勘弁して欲しい。
思い出すのは、ルミィのヤンデレスマイル。
うわ、鳥肌がヤバい。ぞわっとした。
ちったぁマシにはなってきたが、まだまだ根深く残ってるからなぁ。
いやマジで、あの落差は酷かったし。
「……私は種族の使命を果たせていない」
「あー。そんなに大事なのか、それ」
「……やっと見つけ私の運命の人だから」
「いや重いわ。なんだよ運命って」
「……私の命を救ってくれたライには私自身を捧げるべき」
「悪い。意味が分からん」
どんな理屈だよそれ。
いやまぁ、実のところ、分かんでも無いけど。
亜人は情け深く、恩を忘れない奴が多い。サウレが恩を感じていて、それをどうにかして返そうと思ってるのは分かる。
ただ、その方法がアレなだけで。
まぁ、昔の俺なら大喜びで……いや、ないな、うん。
だって見た目子どもだし。絵面的に犯罪でしかないわ。
「とにかく、そういうのはやめろ。安眠できなくなる」
「……分かった。じゃあ次の機会に」
「そんな機会は来ねぇよ……おいアル、両手剣構えて何しようとしてんだ。無闇に人を襲おうとするな」
「いやぁ。感謝されてるなら一人くらい良いかなーって」
「良い訳ないだろ馬鹿」
あーもー。こいつはこいつで相変わらず面倒くせぇな。
目を爛々とさせるんじゃありません。
そのうち賞金首になるぞ、お前。
「あー……とりあえずお前ら、着替えてこい。水と布あっから体拭け」
「……ライの背中は任せて」
「自分で出来るわ。良いからはよ入れ」
アルとサウレを部屋に押し込んで、一息ついた。
二人とも、見た目は超美少女なんだがなぁ。
中身が残念無双してやがるからな。
いや、それが無くても手は出さないけど。当分の間、そういうのはいらねぇわ。
さっさと自室に入って体を濡れタオルで拭った後、手早く着替える。
どうせアイツらは時間かかるだろうし、今のうちに酒場の場所でも聞いてくるかね。
宿から出るとちょうど通りすがりの男性がいたから声を掛けてみた。
「すみません、酒場の場所と……あと、何か仕事がないか聞きたいんですけど」
「あぁ、酒場は隣の建物ですよ」
あ、そうなのか。じゃあ聞くまでも無かったな。後でアル達と行ってみるか。
「しかし、仕事ですか……あるにはあるのですが、町を救ってくれた恩人にお願いするような仕事ではありません。むしろ報酬を受け取ってほしいくらいです」
「だからそっちはいりませんって。俺は安全な仕事で報酬もらいたいんです」
依頼を受けていた訳でも無いし。
それに、盗賊の被害にあってた町から報酬なんて受け取れる訳ないだろ。
「それでしたら……盗賊の被害が大きかったので、家屋の修理や外壁の修繕をお願い出来ますか?」
「そうそう、そういうのを待ってたんだすよ。任せてください」
「分かりました。しかし、変わった方ですね」
「そうですかね? こっちが勝手にやった事で報酬なんて受け取れないし、安全な仕事は誰でもやりたいもんでしょ?」
魔物と戦わなくていいなら何でもするよ、俺。体力には自信あるし、手先も器用だからな。
大体のことは何でも出来るはずだ。
伊達に一流パーティーで雑用やってた訳じゃない。
「んじゃ詳しい話は飯食ってから聞きに行くとして……後で町長の家に行ったらいいですか?」
「はい。この町で一番大きな家なので、すぐに分かると思います」
「ありがとう、助かりました。じゃあ、また!」
ぺこりと頭を下げる男性と別れ、今でてきたばかりの宿に戻ることにした。
とりあえず、アルとサウレと合流して飯食うか。久々に美味いもん食えそうだし。
入口付近で待っていると、二人ともすぐに準備を終えて出てきたので、そのまま隣の酒場に向かった。
そこかしこに穴が空いてるのは盗賊達のせいだろう。早めに修繕してやらなきゃな。
食堂も兼業しているらしい。カウンターの上に吊られた木のメニュー板には、オススメはランチセットだと書かれている。見ると、客の大半が同じものを食っていた。これがランチセットか。
「すみませーん。ランチセットとエール、三人前で!」
「はいよっ! ちょっと待っててね!」
元気の良いおばちゃんが、明るい声で返事を返してくれた。
さっきも思ったけど、良い町だな、ここ。
町の人達の気持ちがもう前向きになっている。みんな、心が強い。
人的被害が少なかったってのもあるだろうけど、団結力が高いんだろうな。
そういう町は、過ごしやすいものだ。
「はあぁ……しっかし、疲れたなぁ」
椅子に座って伸びを一つ。いやー、地味に怖かったな。
予想出来てたし保険としてサウレを控えさせてたとは言え、あの人数は怖かったわ。
「アルさんってよく分かんない人ですよね」
「はぁ? 何がだ?」
「戦うのが怖いなら私たちに任せたら良かったのに」
「いや、お前らに任せたら死人が出るだろうが」
「もちろんです!」
「マジで揺るぎねぇな、お前」
それやったら、負ける事は無いにせよ、確実に死人が出ただろうな。
そんなん後味悪いだろ。飯と酒が不味くなる。
いやわ俺も他に手段がないならそうしたかも知れないけど。
あのくらいの規模ならサウレ一人で何とかなっただろうし、実際作戦が失敗したら丸投げするつもりだったしな。
でもさぁ。殺さなくて済むなら、そっちの方が良いじゃん。
俺は凡人でわりとクズな方だけど、そこまで腐ってねぇし。
「……ライは、優しい」
「いやいや。俺ほど適当で自分勝手な奴、そういねぇから」
「……アルを助けて、私を助けて、町を助けた。立派」
「うーん。それ、全部自分のためだからなぁ」
「……ライは、やっぱり優しい。さすが私の運命の人。抱いて」
「お前も揺るぎねぇな……」
頼もしいと取るべきか、面倒くさいと取るべきか……どちらにせよだ。
変わった奴らだとは思うな。
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