27.餌をまいてみます(3)
「ルーカス様、もしかして骨董品店と私の店に入った泥棒は同じだとお考えですか?」
帰りの馬車の中。
カリナは、自分が思い付いたことを口にした。
ルーカスの店での態度。そして、馬車の中でも黙りこくっている様子。
何か重大なことが起きているのに違いない。
(サーラ様のことに違いないわ。店長さんが盗まれたペンダント。そして、私が思い出したこと。なんとなく、繋がっている気がする。ルーカス様にお伝えしたほうがいいわね)
ルーカスは、やっと口を開いた。
「あぁ。手口が君の店に入った泥棒と全く同じだ」
「では、盗まれたネックレスがサーラ様の持っているものだと疑いに? つまり、サーラ様は隣国の姫ではないと?」
「‥‥‥君は、勘がいいな。アルバート殿下の占いの時からそうは思っていたが」
「カフェでサーラ様を信じられないとおっしゃていましたから。それはいずれはっきりするとも。もしかして、何かサーラ様に関して調査を?」
「本当に勘がいい。でも、言うわけにはいかないんだ」
ルーカスはそれだけ言うと、また口をつぐんだ。
彼が言えないということは、誰かから指示を受けて密かに動いているということ
アルバートかもしれない。
カリナは思う。
(それなら、私が思い出したことだけでも伝えましょう)
「では、私がサーラ様の件で、思い出したことをお伝えします。何かのヒントになるのではないかと」
「思い出したこと? 何だろうか?」
「実は、私の店で盗まれた本は、表紙は「領地経営学」ですが、本の中身は「竜と騎士」という物語なのです。兄が暇な時間に店で本を読む為にと細工をしてくれまして」
「竜と騎士? 知っている。3年くらい前に流行った本だな。騎士に憧れる商人の子どもが、貧しい人々や虐げられた人々を助けるうちに仲間を増やしていく話だ」
どうやら、ルーカスも「竜と騎士」を読んだことがあるようだ。
「はい。そして、途中、傷ついた竜に会い、その竜を治療したことで彼の運命が大きく変わる。竜に古代の剣術の秘儀を教えられ、竜の元で修行してそれを習得。最後は仲間の支えもあって広大な領土をまとめる公爵となる。そんな話です」
「なかなか面白い話だったが、それが何か?」
「その本の内容をサーラ様がおっしゃっていたのです。オランジア前公爵夫人が「領地経営学」のこと尋ねた際に。まるで、この内容が「領地経営学」だというように」
そう、カリナは思い出したのだった。
ディアナ伯爵家のパーティの日、サーラが話していたことを。
ルーカスは驚きの声を上げた。
「それはつまり、サーラ様がカリナ嬢の店から盗まれた本を持っていたということかっ!」
「おそらく、です。そうだとしてもどこから入手したのかまでは分かりません。ですが、骨董品店と私の店に入った泥棒が同じなら、そこにサーラ様についての手掛かりが何かある気がするのです」
「サーラ様は少し前まで、一座と共に寝起きしていたな。今は、我が家に滞在をしているが」
「泥棒が、盗んだ本を直ぐに、しかも同じ街で売るということは無いと思うのです」
「確かに。彼女とは顔を合わせないようにはしているが、母からは特に本を彼女の為に購入したとは聞いていないな。あれこれ贈っていて、逐一報告してくるが」
「一座で寝泊まりしていたということは、旅芸人の一座から入手した可能性は? もしかして、一座の中に泥棒がいる‥‥‥?」
「あり得る。だが、一座が王都に来たのは1年前。その際に骨董品店に泥棒が入った。そしてつい最近だ。一座が来た後に占い店を狙った窃盗事件が起こった。一度、盗難の記録を読む必要があるが‥‥‥」
ルーカスは数秒、黙って考え込んでいた。
「ルーカス様?」
「占い店の調査の話を聞いたが、姿を現わす男女は毎回違うようだ。それに時には集団で盗みに入る。一座全員がグルかもしれない。つまり、彼らは旅芸人の一座などではなく、実際は窃盗団の可能性がある」
「じゃあ、サーラ様は隣国の姫なんかではなく‥‥‥」
カリナはゾクリ、とした感覚を覚えた。
これは、思っていてたより大きなことなのかもしれないと。
「おそらくそうだ。ただ、肝心の一座は行方知れず。だが、もうこの国を出たようでね。それでサーラ様は我が家に滞在することになったんだ」
「サーラ様を問い詰めることは?」
「できない。王妃殿下も彼女の味方だ。証拠もなく問い詰めることは避けた方がいい。母が王妃殿下と親しくてね。母の影響で彼女のことをすっかり信じている。せめて、一座を取り調べることができれば‥‥‥」
ルーカスの声は、本当に困り果てた。
そんな風に聞こえた。
(何か、私にできることは‥‥‥)
ルーカスの辛そうな声を聞き、カリナは考える。
数秒後、カリナは言った。
「私、一座の行方が探せるかもしれません。どうか私の力を使ってください。考えがあるのです」
カリナは自分の考えを伝え、ルーカスはそれに賛同した。
カリナは占いを使い、サーラから一座がどこにいるのかを聞き出そうと考えたのだった。
「なかなか良い考えだと思う。君の言うようにその可能性は高い」
「はい。可能性だけで確実ではありませんが‥‥‥。できるだけ、やってみます」
「また、君のに協力してもらうことになるな。全て話しておこう。実は、アルバート殿下も彼女のことを疑っていてね。悲劇の姫だと偽って人を惑わすなど、重罪だと。そこで、私とメイソンに調査を命じられた」
「えっ? メイソン様?」
「あぁ。彼はあぁ見えて、騎士でね。騎士の中でも、殿下直属で隠密に行動する部隊に属している。私は宰相の補佐をしているから、武闘派と頭脳派で組んで解決しろということだね」
「そ、そうなのですね」
カリナはてっきり、メイソンは高位貴族の道楽息子だと勝手に思っていた。
人は見かけによらないものだ。
「実は、ペンダントは盗難品の可能性もあると思い、盗難届を確認していた。だが、出していないとは。それでは気が付かない」
カリナは自分のことを言われているような気がして、「すみません」と小声で言った。
「私達は最初から彼女は偽物だろうとは疑っていた。どこかからペンダントを手に入れサーラ姫に成りすましているのだろうと。我が家を狙った詐欺かとね」
「確かに、最近出た歴史書を読めば、オランジア公爵家と亡くなった姫の関係が深いことが分かりますものね」
「それに。私の婚約破棄や占いについての噂も広がっているから‥‥‥。つまり、目的は結婚詐欺。我が家が結婚前に渡す支度金かと」
ルーカスの表情はない。
だが、婚約破棄について話す時、何となく辛そうな声をした。
「でも、彼女が窃盗団の一員なら、話が違ってきますね」
「あぁ。狙いは我が家の宝石類や調度品の類、もしくは宮殿の物か。王妃殿下は数度、彼女を宮殿に招いている。だから、彼女は宮殿の中については、ある程度把握しているだろうから」
ルーカスは厳しい声で言葉を続ける。
「最も恐ろしいのは、宮殿内部についての情報を売られることだ。宮殿の警備や間取り。今は戦争中でないとしても、他国に売られるのはマズイ」
「それは、大事に‥‥‥」
「おそらく、彼女は一座と連絡をとっているだろう。何をするかは分からないが、盗みをするならいつ計画を実行するのか…‥‥。だが、彼女が外部と連絡を取っている形跡はない」
「一人で外出をされている様子は?」
「ない。詐欺にしろ、一人で計画を立てていることはないと、それとなく見張らせてはいるのだが。とにかく、一座の居場所が分かれば」
ルーカスの声は悔しそうだ。
今のままの現状が歯がゆい。そんな感じだ。
カリナは彼を励ますように言う。
「きっと大丈夫です。私の占いは当たるはずですから」
「あぁ、そうだ。そういえば、君は占いの結果にも責任を持つのだったな」
ルーカスの顔にクスリ、という笑いが浮かんだ気がして、カリナはほっとした。
馬車が止まる。
家についたようだ。
ルーカスは鏡を店まで運んでくれた。
「今日は、君の力になれてよかった。男手が必要ならまた行ってくれ」
「ありがとうございました」
帰っていくルーカスをカリナはがっかりした気持ちで見送った。
(恋の駆け引きは失敗みたい。いきなり最後の餌をまいたのがいけなかったの‥‥‥?)
オリビアによると、餌をまいた後の外出。その最後にはこう言われなくてはならない。
「もう帰るの? 次は、いつ会える?」と。
要は、相手が餌に食いついたらその餌を口からはずし、追いかけさせる。
そうなったら成功。
そんな恋の駆け引きだとオリビアは言っていた。
(今日は一日一緒にいたわけだし。次はサーラ様の件で会うわ。今は、運命の花嫁の嘘を暴くのに集中しないと。ルーカス様の為にも、この国の為にも私の力を役立てるのよ)
カリナはそう思いながら、扉を閉めた。
お読みいただきありがとうございました。




