表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/33

25.餌をまいてみます(1)

前回、少しシリアスでしたが、今回から前のような話に戻ります。

 馬車の中、カリナはルーカスと向き合って座っている。


 意識したばかりの好きな人と二人きり。

 この状況は、思っていたより心臓に悪い。


 気を抜くとたちまち真っ赤になるだろう顔。

 カリナはひたすら、落ち着け。と、頭の中で繰り返していた。


(彼の運命を変えるということは、私が彼と‥‥‥)

 

 自分が決心したことなのに。

 改めて考えると、それはあまりに早すぎる展開で。想像すらしたことが無いこと。

 

 今はただ、彼の横にはサーラでなく自分がいたい。

 そんな強い気持ちにカリナは動かされていた。


(その為にはどうしたら。気持ちを伝える? ダメ。私、とても告白だなんてできないわ。しかも、そんなこといきなり言ったら、ルーカス様が戸惑う)


 そうだ。

 カリナはオリビアの言葉を思い出した。

 恋の駆け引きといえば、オリビアだ。


 恋の駆け引きにことごとく失敗してきた彼女だが、知識は豊富。

 ある意味、経験も豊富なのだけど。


 なんせカリナには恋なんて初めての経験。

 これは、耳年増の知識をフルで活用する時だろう。


(相手に自分を意識させる為には、餌をまけ。オリビアはそう言っていたわね)


 餌というのは、自分が相手を好きだと思わせる様な思わせぶりな態度のこと。

 じっと見つめて目が合ったら逸らすとか、彼の前だけ急に目を潤ませるとかそういう類のことらしい。


(餌に食いついて、彼が自分から見つめてくるようになったら、最後の餌をまく。それは、デートに誘うこと。でも、デートとは言っちゃダメで‥‥‥)

 

 尚、オリビアは、この方法で片思いしていた男性と出かける約束をすることに漕ぎつけたらしい。

 だが、出かける約束をした数日後、彼の政略結婚が決まったそう。

 「彼は絶対に私のこと好きだったわよ」と言っていたが、本当のことは分からない。


(彼を振り向かす為の恋の駆け引きなんて、私にできるのかしら) 


 カリナがそんなことを考えているとは知らない目の前のルーカス。

 彼は口を開いた。


「突然、ごめん。送るだなんて無理を言ってしまったかな?」


「いえ。そんなことは。でも、どうして私を送ってくださるなどと。サーラ様とオランジア前公爵夫人はもう、帰られたのですか?」


「二人はもう、帰っただろうね。母は健康の為、毎日同じ時間に寝ると決めているから。私は母の帰宅する時間を見計らって来た」


 ルーカスの言葉は意外なものだった。

 

「そうだったのですか。てっきり、サーラ様とご一緒だと」


「いや、私は彼女を誘う気も、彼女と出かける気もない。それに、彼女は君に失礼なことを言った。その詫びもあって君を送りたかったんだ」


「失礼なこと?」


「あぁ。私が君を憐れんでいるなど。そんなことは一度だって思ったことはない。あの日は、怒りに負けて彼女に厳しいことを言ってしまいそうで。慌てて店から出てしまった。嫌な気持ちになっただろう? すまなかった」


「そんな。お詫びなど‥‥‥」


「人のはそれぞれの暮らしがある。だから私は、自分が貴族だからといって懸命に働く人を憐れむことはない。それに、あのパーティの行動で君を憐れむなんてあり得ない」


「行動?」


「あの日、あんなに大声で叫んだのは、妖精占い、その名を汚されたくなかった為だろう? そんな懸命な人を私は憐れまない」


「ま、まぁ。そんなところでしたね」


 そんな気持ちも少しはあったかもしれない。

 だけど、元々は店の客が減るのを恐れてしたことだ。


「カリナ嬢の気持ちは良くわかる。妖精と会ったことがあるのに、嘘を付いていると言われたり、妖精を貶されると悲しくなるからね」


「そういえば、ルーカス様も妖精に会ったことがあると。リンダ様がおっしゃっていました」


「そうだ。9歳の頃にね。占いなんて信じてはいなかったが、今では君の妖精占いは信じている。実際に殿下の占いはピタリと当たっていた」


「ありがとうございます」


「店に訪ねた日も、私の話を聞く前に占いを始めたし。よっぽど占いが好きで、誇りを持っているんだろうと思った。だから、君を応援したいと思ってしまった。リンダが絶対にあの行動を宣伝文句だと言いだすのは思い出してね」


「すみませんでした。てっきり、占いにみえたのだと。商業組合の規則を忠告しにいらっしゃったなんて、気付きもせず」 

 

 理由はともかく、憐れまれてはいなかった。

 そう思うと、カリナの心は軽くなった。 


(では、この前のパーティの誘いは? あれは何だったのかしら? 私への応援? 仕事を頑張っているから激励しようと誘ってくれたの?)

 

 優しい彼のこと。おそらく、そうだろう。

 カリナは勝手に納得した。

 

「いや。あの日、実は私は‥‥‥」


 途中でルーカスは言葉を止めた。


「ルーカス様?」


「い、いや。何でもない。そう言えば、私が途中で商工組合の説明を始めたせいで、私の占いはまだ途中だったんじゃないかな? 最初に店に言った時は、用事へ向かう途中、看板に惹かれてふらりと入ってね。時間が無くて途中で帰ってしまったし」


 最初に店に来た時、途中で帰ったのは、そういうことだったのか。

 今更カリナは納得した。


「あっ、そうでしたね」


 いつ、どこで運命の花嫁に出会えるのか。

 カリナが占ったその結果はルーカスは知らない。


(外れたと思って、思わずカードを伏せたけど。本当は当たっていたのよね)


「いや、占いは途中でいいんだ。例え、当たっていたとしても私は‥‥‥」


 ルーカスはまた、言葉を止めた。


(何だか、今日のルーカス様、変ね)

 

 その時、馬車がカリナの家へと着いた。


(どうしよう。着いてしまったわ。恋の駆け引きのチャンスだったのに)


「着いたようだな」

 

 馬車が止まり、カリナは焦った。

 

(サーラ様がいる以上、私に時間はない。オリビアの言う餌をまいている時間なんて‥‥‥。はっ、最後の餌よ。ここは、最後の餌をまいて彼の気持ちを確かめましょう)


 カリナは咄嗟に言った。


「ルーカス様。お願いがあります。その、ちょっと重い物を買いたくて。なんせ男手がないので、ルーカス様のお力を貸していただきたいのです」


 オリビアは言っていた。

「最後の餌は力を貸してというお願いよ。デートと言っちゃダメ。違う理由で二人で出かけるの。誘いに乗ってきたら、脈ありということ」


 兄の誕生日プレゼントを一緒に選んで欲しい。

 重い物を運ぶのを手伝って欲しい。

 これが、出かける理由の定番だそうだ。

 

 こう言われたら、男性はこの女性はやっぱり自分に気があるかもと思うらしい。

 ここで告白をしたり、デートと言わないのは、相手の心を焦らす為とのこと。

 どうやら押して引く。これがここでも活用されているようだ。

 

「わかった。カリナ嬢はいつなら都合がいいかな?」


 ルーカスの答えに、カリナはオリビアに感謝した。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ