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24.運命の花嫁(2)

※(12/7)(サーラ様、多分そうだわ?)の後にサーラの想い人についての占いを追記しています。

 楽しそうに笑う声が聞こえる。

 パーティなのだから、当たり前のこと。


 カリナは、その声を憂鬱な気持ちで聞いている。


(メイソン様の言葉の意味は? あの時の気持ちのままでいれば大丈夫なんて)


 心の中にある気持ち。それが何かはもう、分かっている。


(でも、この気持ちのままでいたって、どうしようもないわ)


 だけど、ルーカスがサーラと一緒にいるのは嫌だ。

 それに、今日、彼がサーラと一緒にいるところを見てしまったのなら。

 

 そう考えると、カリナは憂鬱になるのだった。

 

(今は、仕事に集中しないと)


 出張占いのブースに人が増えてきた。

 どうやら、ディアナ伯爵のダンスが終わったよう。


 カリナの机にも女性客が座った。


「占いをお願いします」


「何を占いましょうか?」


「恋人との結婚が、両親に反対されないか占ってください。年が離れているので、反対されるかと不安で」


「わかりました」


 そう言った時、カリナは知っている声が、近くの占い師の机から聞こえるのに気が付いた。

 二人は楽しいのか、やたらと大声で話している。


 レオナルド商会のパーティと同じように机の間には仕切り板がある。

 だから、誰がいるかは見えない。


(サーラ様? 多分、そうだわ)


 カードをシャッフルするカリナに、サーラのはしゃぐようなが聞こえる。


「想い人と結ばれるか占ってくださる?」


 どうやら、ルーカスとの恋占いを頼んでいるよう。


(わざわざ、想い人だなんて‥‥‥)


 はっきりとルーカスと言えばいいのに。

 カリナはなんとなく、悲しい気持ちになる。


 次に聞こえてきたのは、嬉しそうな声。

 

「あら、そうなの? 私、幸せに? 嬉しいわ。お義母様、私、想い人と結ばれるですって」


 どうやら、オランジア前公爵夫人が一緒のようだ。


「よかったわね。結ばれて当然よ。運命を感じるし、別の占いではあなたは運命の花嫁なんだから。ルーカスの今の態度は照れているだけ。許してやってね」


「分かっています。だって、初恋の人ですもの」


 そこで、オランジア前公爵夫人は占い師に指示を出した。


「じゃあ、次は二人の結婚式に良い日どりを占ってもらおうかしら」


 「わかりました」占い師がそう答える声が聞こえる。

 二人は結果を待つ間、また話し始めた。


「サーラちゃんは努力しているもの。きっとあの子も心を許すわ。領地経営学なんて難しい本を読んでいるのでしょう?」


「難しい? 読みやすくてとっても面白い本なんですよ」


 フフフとサーラは笑う。


「弱い人々を助ける。そうしたら、仲間が増える。で、最後は国王に次ぐ権力を手に入れる。そんな話です。途中で、竜と一緒に修行もしますけど」


「弱い民を守れば、仲間となり、より良い領地作れる。そして陛下からも認められ、良い地位が与えられるということかしら? 途中で竜と修行?、きつい勉強のことかしらね。まぁ、まだサーラちゃんは勉強を始めたばかり。ゆっくりと読めばいいわ」


「はい。お義母様」


 カリナはカードを引こうとしていた手を止めた。


(どこかで聞いたような話だわ。何だったかしら? 領地経営学は表紙しか知らないけど‥‥‥)


「どうかされました? 恋人との結婚、やはり反対されそうですか?」

 

 女性客が心配そうに言う。

 彼女の言葉でカリナは、はっとした。


「すみません。なかなか未来が分からなくて」


 慌てて誤魔化し、カリナはカードを引いた。


 反対と非難を意味するカード。

 どうやら、彼女の望む結果にはならないようだ。


「これはあくまで占いです。どんな結果であれ、人間は努力で未来も運命も変えられますから。どんな結果でも、諦めないでください」


 そう言ってから、カリナは結果を客に伝えた。


「私、それでも彼と結婚したいです。だから、反対されても結婚できるよう努力します。彼のいいところを両親にわかってもらえるように」


 女性客は決意したように言った。


 その時、「まぁ、式は来年の春が良いのですか。思っていたより早いですね」。

 そう言うサーラの甲高い声が聞こえた。


 カリナの心はまた、憂鬱な感情で占められた。

 そして、それは先程浮かんだ疑問など覆い隠してしまった。

 





「家まで送らせては、もらえないか?」


 カリナは後ろからそう、声を掛けられ振り向いた。


「ルーカス様!」


 パーティが終わり、後片付けが終わったところ。


 てっきり、彼はサーラと共にとっくに帰ったと思っていたのに。

 カリナは驚いた。


(そういえば、サーラ様と一緒にいたのはオランジア前公爵夫人よね。ルーカス様はどこにいたのかしら?)


「本当はパーティ中に話をしたかったのだけど」


 ルーカスの声は、心なしか元気が無い。


「荷物はこれだけ? 行こう」


 彼はカリナの荷物を持ち、歩き始めた。

 珍しく強引な態度に戸惑いながら、カリナは彼の後を追った。


 ガシャン。


 出口に近づいた時、何かが割れる音がした。


 メイドがトレーいっぱいにのせて運んでいたグラスを落としたようだ。

 

 ほとんどの客は会場から出ているが、まだ、退場途中の客もいる。

 その為、メイドは慌ててグラスの破片を拾い始めた。

  

(あんなに慌てていたら、手を切るわ。あ、血が‥‥‥)


 メイドは深く指を切ったようで、「痛いっ」と小さな叫び声をあげた。

 慌ててエプロンで血を押さえたようだが、もう、そこから血が滲んでいる。


 ハンカチを。

 そう思ったカリナが、彼女の所へ駆けつけようとした時。


「これを使ってくれ。返さなくてもいいから」


 カリナより先にルーカスが彼女にハンカチを差し出した。


「ありがとうございます」


 ルーカスは、破片を拾おうと来た年配のメイドにこう言った。


「結構、傷が深いようだ。切り傷は痛むし、傷口が別の病気を運ぶことがある。血が止まり、ある程度傷が塞がるまで、仕事の内容を考えてやって欲しい」


 彼は無表情。

 だけど、その声はとても温かで。

 彼が心配そうにメイドを見ている。そんな風にカリナの目には映った。 


 彼の温かい声が、カリナの気持ちを溢れさせた。


(ずっと気付いていたわ。表情は無くても、彼の声と言葉は表情豊かだと。だから分かっていたの。ルーカス様は優しい人だって。それなのに勘違いしてそれを否定して。私、そこに惹かれていつの間にか恋を‥‥‥)


 彼が微笑んでいるように見えたのは、彼の声と言葉で彼を見ていたせいだ。

 カリナは今、気が付いた。 

 

 騎士だと思ったのは、恋していたせいに間違いないけれど。


(私、ルーカス様のことが好き)


 抑えきれなくなった気持ちをカリナは心で呟いた。

 その時、ルーカスが戻って来るのが見え、カリナは気持ちを隠すかのように下を向いた。


「ごめん。待たせたね」


「いえ。彼女の傷は大丈夫ですか?」


「血はすぐに止まるだろう。仕事の内容についても、メイド長に言っておいた。私は何度かディアナ伯爵の屋敷に招かれたことがあってね。彼女とは面識があったから。さぁ、行こうか。馬車を待たせてあるから」


 鉄仮面。そんな別名のはずなのに。

 動かない彼の横顔が、とても凛々しく見える。


(私が運命の花嫁になることはできない。サーラ様は占い通りの方。私は違う。だから、諦めないと)


 そう思ってカリナは、はっとした。

 「諦めないで」今日、客に言った言葉。

 

(人間は努力で未来も運命も変えられる。いつも私、そう言っているのに)


 なのに、自分は真逆のことをしている。

 

(自分の未来を変えようと思ったことは無かった。だって、私は自分の未来を知ることはできないから。‥‥‥恋にも結婚にも興味が無かったせいもあるけど)


 カリナは自分を占えない。妖精が決めたことだ。


 いつも、自分の占いがその人の未来や運命を変えるきっかけになってくれれば。

 そうは思って占っていただけ。


(私も未来を変えられる‥‥‥)


 心が奮い立つような気が、カリナにはした。


(リンダ様はそれを伝えようと? いえ、まだサーラ様が現れる前のこと。私の気持ちに気付いていたから、運命の花嫁、そんな占いの結果にこだわらず行動しろと言ってくれていたのね)


 横で歩くルーカスは無表情。

 だけど、歩幅の違うカリナに合わせてゆっくりと歩いているのが分かる。


(そして、ルーカス様の運命を私が変える)


 カリナは、彼の横顔を見ながら思った。

お読みいただきありがとうございました。

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