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22.占いは当たったようです

「それは、恋の初期症状よ」


「こ、恋!」


「えぇ。普段通りの表情なのに何故か輝いて見える。普通の言葉が甘い囁きに聞こえる。そして、彼が自分だけの騎士のように見える。全て当てはまっているわ」


「嘘でしょ‥‥‥」


「カリナの友達、相当な奥手ね。そんなことに気付かないなんて。もしかして、初恋?」


「そ、そうかもね」


「彼女に何か恋の悩みがあれば、相談に乗ると伝えておいて」


「わ、わかったわ。ありがとう」


 店の定休日。

 カリナはオリビアとカフェに来た。


 そこで、聞いてみたのだ。

 時折見る幻覚、ルーカスが騎士のように見えたり、微笑んで見えたりする理由を。


 自分だと言うことなどできず、「最近できた友達がなんだか調子がおかしいって言うの」こう言ってみたのだが。


 衝撃的なオリビアの答えにカリナは動揺した。


(むしろ、誰かが彼に恋に落ちてくれればと思っているくらいなのに)


 自分から聞いたのに否定して悪いが、断じてこれは恋ではない。

 そう思い、カリナは一人で大きく頷いた。


 さて、今日のオリビアは上機嫌。

 婚約者への恋の駆け引きが成功したためだ。


 なお、オリビアには本を盗まれたことは言っていない。

 言うと両親に伝わり、すぐに戻ってこいと言われかねない。


 出張占いのお陰もあり、客が増えているところ。

 カリナは、領地には戻りたくはない。


「ところで、彼とはどうなのよ?」


 カリナは話題を変えた。


「フフフ、彼ったら毎日、花束を持って会いに来るの」


「その様子だと、来年の結婚式までは彼はオリビアを押しそうね」


「そうだといいのだけど」


 そう言ったオリビアは、何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。


「そうそう、相談に気をとられて伝えるのを忘れていたわ」


「どうしたの?」


「おめでとう。妖精占いが当たったと昨日行ったパーティで皆、噂していたわ。お祝いに今日は奢るわ」

 

「えっ? 何の占い?」


「鉄仮面公爵のよ。あら、ルーカス様から聞いていないの?」


「えぇ‥‥‥」

 

 一瞬、目の前が暗くなったようにカリナは感じた。


(嘘‥‥‥。占いは外れていたはずなのに。誰が運命の花嫁なの?)


 同時に、カリナの胸はズキズキと痛む。


「占い通りだったのだから、お礼くらい言いに来てもいいのに。浮かれて忘れてしまっているのかしら」

 

 本が盗まれた日から3日経つ。

 ルーカスは昨日も10分ほど店に寄ってくれた。

 それなのに、何も言われていない。

 

(見つかったのなら、嬉しいはずなのに。占いが当たれば、店の営業許可は取り消されないのだから)

 

 カリナは胸の痛みを堪える。


「もしかして、もう婚約を?」


「まだみたい。でも、ルーカス様のお母様、オランジア前公爵夫人が今回の話に積極的らしいわ」


「政略結婚? でも、相手はもういないって」


「違うわ」


「じゃあ、お見合い?」


「それも違うわ。今回のお相手にはドラマチックな話があるの」


 オリビアは、その話を早く話したくて仕方が無いという様子だ。

 だが、カリナはそんな話を聞く気になれなかった。


(どうして、こんなに憂鬱な気分になるのかしら)


 オリビアは、カリナのそんな様子には気が付かないよう。

 「本当に物語みたいなんだから」とうっとりとした顔で言った。






 話を始める前にと、オリビアはカリナに尋ねた。


「ダリウス王国の悲劇は知ってるわよね?」


「えぇ、知っているわ」


 悲劇として語られるその話は、こんな話だ。

 

 8年前、隣国ダリウス王国で内戦が勃発した。

 国王とその地位を覆そうとする国王の弟との戦いであった。

 

 当時、国王は自身の贅沢の為に惜しみなく金を使い、それを賄おうと税を上げるという圧政を強いていた。

 それに反発した弟が、反乱を起こしたのである。


 弟には当時、9歳になる娘がいた。

 彼は、妻と娘に危険が及ぶのを避ける為、自身に協力していたここ、フローラシア王国へと二人を避難させた。 


 その1年後、彼は内戦に勝利、国王の座へと就いた。

 

 しかし、妻と娘はダリウス王国へと帰国する途中、消息不明となった。

 二人を乗せた馬車は道中、不運にも崖崩れにあったのである。


 生き残った兵士達によると、二人を乗せた馬車は崖の下へと落ちたと言う。

 直ぐにダリウス王国は大規模な捜索を行った。

 しかし、見つかったのは馬車と数名の護衛兵士の遺体、そして荷物の残骸だけであった。


 その後、前国王の息子によって、再びダリウス王国は内戦状態へ突中。

 国王となったばかりだった前国王の弟は、戦で命を落とした。


 その後、フローラシア王国はダリウス王国との国交を閉ざしたのである。

 

「この話と運命の花嫁がどう関係が?」


「物語だと続きはどうなると思う?」


「そうね。死んだ二人が実は生きていたとか?」


「惜しいわね。実は、娘だけが生きていたの」


「えっ! でも、どうして今頃?」


「話はここからよ。10日ほど前から旅芸人の一座が王都の芝居小屋で興行しているのは知っている?」

  

「知らないわ」


「その一座は、世界中を回っているの。普通だと3年おきくらいにこの国にやって来るらしいわ。ただ、今回は何故だか、1年でこの国に戻って来たのだけど」


「で、その一座と今の話に何の関係が?」


 カリナは首を傾げた。


「その一座を観にオランジア前公爵夫人がお忍びで行ったことから物語は始まるのよ」


「どういうこと?」


「その芝居小屋で客の案内係をしていた娘が、鷹の紋章のネックレスを落として、それをオランジア前公爵夫人が拾ったの」


「鷹の紋章‥‥‥。確か、隣国の王家の紋章ね。うろ覚えだけど」


「正解。ルーカス様のお母様は彼女に詰め寄ったそう。何故、これをと」


「そしたら彼女、自分は川辺に倒れているところを旅芸人の一座に拾われた身だと言ったのですって。そして、この紋章が何か分かるのなら教えてくださいと」


 なるほど。どこかで読んだ物語のようだ。と、カリナは思った。


「物語だと、隣国の前国王の娘がその案内係よね?」


「ご名答! その娘は川辺で倒れていた時から、そのネックレスを下げていたそうよ。でも、一座の人達はその紋章が何かはわからなかったそう」


「物語だと、そのネックレスは前国王が娘に与えたものだったりするけど‥‥‥」


「その通り。娘は生きていれば17歳。見た目の年齢的にもほぼ間違いないと言う話よ」


「でも、9歳だったのでしょう。言えるじゃない。自分は王女ですと」


「それがね、彼女は川に落ちたショックのせいか、拾われた時には名も分からず、記憶を失っていたそうなの」


 よくある物語の展開そのままだ。

 オリビアがうっとりとしていた理由が、カリナにはやっと分かった。


 そうすると、この後の展開は父親と再会して身分を回復、初恋の人と再会して結ばれてハッピーエンドだろう。

 この場合、既に亡くなっている父親との再会は叶わないが。


「それで何故、私の占いが当たったと? ルーカス様が登場していないわよ」


「フフフ、これから登場するわ。彼女には、思い出した記憶があるの。1年前、王都に興行に来た時に、グレイシア公爵家のパーティの余興に一座が招かれた」


「パーティ‥‥‥」


 いよいよ占い通りになってきたようね。と、カリナは思った。


「それで、その日、招待客だったルーカス様を見て、彼女はルーカスという名を思い出していたらしいの」


「あっ、隣国の前国王の妻と娘を領地に匿ったのは、オランジア公爵家ね。我が国の王が秘密裏に命令を下したとか。今は公にされているけれど。お兄様が持っていた新しい歴史書に載っていたわ」


「そうよ。だから、オランジア前公爵夫人は彼女のネックレスを見たことがあったの。幼い頃の娘と案内係は同じ髪色と目の色らしいし」


「もしかして、ルーカス様と妹のリンダ様は、領地の屋敷に一緒に彼らと滞在していたの?」


「そうよ。娘の遊び相手としてね。娘は、名を覚えているほど、ルーカス様のことが好きだったのね」


 失われた記憶を初恋の人を見て取り戻す。

 まさに物語だ。


 カリナの胸は、また痛んだ。


「オランジア前公爵夫人はすぐに国王陛下に報告を上げて、隣国へ連絡をと懇願したらしいの。だけど、なかなか叶わないみたい」


「国交は無いし、内戦状態ですもの」


「だから、隣国への連絡を諦めて、彼女を知り合いの子爵家の養子にしてもらおうとしているらしいの。オランジア前公爵夫人は、自分が彼女を見つけたのは運命だと感じているみたい。養子の手続きが終わったら、ルーカス様と婚約させるつもりという噂」


 なるほど、もし彼女が子爵家の養子になるのなら。

 幼馴染又は幼い頃に遊んだことがある女性、低位貴族で年下。

 占い通りだ。


(ルーカス様は彼女が亡くなったと思っていたから、幼馴染も幼い頃に遊んだ女性も前婚約者の他にいないと言ったのね)


 占いは当たった。

 彼だけ外れたわけではなかったのだ。


(これでもう、店の営業許可の件も悩まなくていいということね)


 ほっとしているはずなのに。

 それなのに、またカリナの胸は痛んだ。


(私、彼に運命の花嫁が見つかったことが悲しいと思っているの? 彼女がルーカス様と一緒にいるのが嫌だとも)

 

 カリナは初めて、自分の中にぼんやりと浮かぶ感情を意識した。


(でも、運命の花嫁に取って代わることなんてできないわよ)


 その感情は、彼には持ってはいけない。

 カリナはそう思いながら、紅茶を飲みほした。

お読みいただきありがとうございました。

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