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21.私だけの騎士

(この人達、変ね)


 カリナと向き合う男女の客。

 彼らはどうも、様子がおかしい。


「実は、結婚を反対されていて。私達、結婚できますか? いや、彼は北の方の生まれなんですけど私の母が北出身の男に騙されたことがあるとかで‥‥‥」


「酷い反対を受けているのですね。お可哀そうに」


「そうなんです。聞いてください。私の母なんて‥‥‥」


「では、占いを」


「それより、彼の父親が‥‥‥」


 といった具合に、女性は占いを始めようとすると長々と話し出す。


(男性は、時間を持て余して遂に立ち上がったわね)


 彼は席を立ち、最近、カリナが置いた棚。

 そこに並べてある飾りを見ている。


 これは、店に占い店らしい飾りを置いた方がいい。

 そうリンダにアドバイスをされ、カリナが手作りしたもの。


 リンダはこう言っていた。

 「大きな店だと、待合室に神秘的に見えるよう水晶玉や魔女が使うような燭台。小さな店でもそういった小物を置いて雰囲気を演出しているわよ」と。


(小さな燭台とガラス球を置いてみたけれど。そんなにじっと見るほど高価なものではないわよ)


 不思議に思いつつも、カリナは言う。 


「そろそろ時間が終了します。占いましょうか?」


「話しすぎたわ。占って頂戴。私達が無事に結婚できるかどうか」

 

 女性はそう言うが、男性は席に座ろうとしない。


(彼は占いに興味がないのね)


 カリナはカードをシャッフルし、2枚のカードを引いた。


 カードを見たカリナは驚きの声を上げそうになった。

 それは、結婚をしたいという男女の占いでは見たことがないカードだったからだ。


 引いたのは、嘘を示すカード。もう一枚は無地のカード。


(この質問で引くカードは成功、不成功。その他に周囲の祝福、心変わりなど結婚できるかどうかと過程を示すものが普通。嘘のカードも入れるけど、結婚したいと占いに来て嘘を付いてるなんて、普通はないわ)


 どう答えたものか。カリナは悩んだ。

 

「‥‥‥結婚できるかできないか。それだけだと、できない、というのがカードが示した未来です。でも、これはあくまで占い。未来は努力すれば良い方向に変えられますので」


 これはおそらく、どちらかが嘘を付いているということ。

 どちらか一方は、結婚の意志が無いはずだ。

 占いに興味のなさそうな男性だろう。


(これでいいわよね? 嘘を付いているのがどちらかも、理由もわからないけど、お互いにとって良い未来になりますように)


 女性はショックを受けたようだったが、「そうですか」と小さく言い、帰って行った。

 

 彼らとすれ違うように、店に一人の男性が入って来た。

 それは、ルーカスだった。





 

「ルーカス様、お久しぶりですね」


 パーティから二週間ほど経つ。

 リンダはあれから何度か店に来たが、ルーカスが来るのはパーティの前以来のこと。


「元気そうでよかった。リンダの件は本当にありがとう。手紙を書こうかとも思ったが、直接言いたいと思っていたら、来るのが遅くなってしまった」


「お忙しいのに。お気を使わせてしまいすみません」


「しかし、君の機転は素晴らしかった。影のカードなんて。占いの結果を見て、嘘を見抜き、咄嗟に判断するなんてなかなかできない」


 カリナは自分の頬が熱くなっているのに気が付く。

 褒められたというのもある。


 でも、それだけではない。思い出してしまったのだ。

 「恋をするのに必要なこと」のメモのことを。

 

(場所をお礼や妹のデートコースの参考にしたのはまだいいとしても、あの四番目よ。あんなことを考えていたなんて、彼が知っていると思うと恥ずかしい)


 そんなカリナをよそに、ルーカスは深刻な声で口を開いた。


「今日来たのは、ここ一週間ほど、窃盗事件が増えていると伝えたかったのもあるんだ。宮殿で聞いて、心配になって」


「窃盗事件?」


「あぁ。宮殿では、窃盗団の仕業だと考えている。被害にあっているのは占い店が多いようだ。占い店は、店内が暗い上に雰囲気作りの為に水晶球など装飾品が置いてある店が多い。それが狙われているようだ」


「えっ。そうなのですか?」


 この店に飾ってあるのは、ガラス球に骨とう品店でただ同然で手に入れた燭台だ。

 盗られるわけがない。

 

「ある店では待合室に飾ってあった高価な絵画が盗まれたらしい」


「人気の文鳥占いの店ですね。敵情視察のつもりで行ってみたことがあります。有名な画家の絵が飾ってありました」


「盗みの傾向として、男女で来て、女性が占ってもらっている間に、男が装飾品を盗むようだ。文鳥占いの店は、窃盗団が大勢の客を装い、忙しくしている間に盗まれたようだが」


「私の店は大丈夫です。何も盗まれるものはないですから。あそこにあるのは、安物ばかりで」


 そう言って、カリナは棚の方を見た。


「物を盗られるだけならいいが、押し入られて危害を加えられることが心配だ」


 相変わらず彼の表情は何の感情もない。

 だが、その声はとても心配そうにカリナには聞こえた。


(やっぱり、ルーカス様はとても優しい方ね)


 そう思った時。

 カリナはあっと声を上げた。そして、棚へと駆け寄った。


「カリナ嬢?」


「本が、本がありません」


 店に置かれた棚。

 そこには雰囲気作りの為に本も置いてあった。

 

 「占いの本や妖精の伝説の本を数冊、並べて置いては? 背表紙だけでも高級な本だと雰囲気あるわよ。以前行ったお店では、古代の魔法書が置いてあって、占いが当たりそうな雰囲気があったわ」。これも、リンダのアドバイス。


 それを受けて、カリナは本を数冊、置いてみた。

 ただ、本はカリナにとって高級品。


 貸本屋を開店する予定の両親と兄はまだ領地だ。

 本は彼らが領地の屋敷を去る時に運ばれてくる予定なのだ。


 そんなわけで、領地から持ってきた数冊の本の中から、占いの本と背表紙が高級そうな本を置いてみたのだった。


「なんだって!」


 ルーカスも立ち上がり、棚を見る。


「はい。ここに置いてあった本のうち1冊がありません」


「占いの本?」


「いいえ。その‥‥‥。「領地経営学」。元々は兄の本です。背表紙が銀の文字で高級そうに見えるので置いてみました」


「あぁ、あの本か。確かに」


 ルーカスはその本を知っているよう。


(あの本がこの店で最も高級に見えたということね。それもなんだか悲しいわ)

 

 そう思いながら、カリナはルーカスに説明をした。 


「先ほど、不審な男女が来たのです。女性は話が長いし、男性はこの棚の前にずっといて」


「それは、カリナ嬢の目を逸らす為だろう。男性は価値のありそうなものを物色していたんだ。上着で隠せば、あのサイズの本1冊なら簡単に持ち出せる」


「確かに。私は話を聞いている時も、占いの時も男性客を見ていませんでした。あ、二人は仲間なだけで、結婚したいのは嘘。カードはそれを示して‥‥‥」


「怪我が無くて良かった。本一冊だけで済んで。しかし、心配だ。宮殿への行き帰りは、この店の前を通って行こうか。いや、騎士にこのあたりの見回りを強化させるか。それより、店の前に警護の者を付けたほうがいいだろうか。それより窃盗団を早く捕まえろと圧力を‥‥‥」


 ルーカスは我を忘れたようにブツブツと言っている。


「ルーカス様。大丈夫です。この店には何もないと泥棒にも分かったでしょう。それに、宮殿とこの店は逆方向です」


 慌ててカリナは言う。


「しかし‥‥‥。では、なるべくこちらに寄るようにする」


「そこまでしていただかなくても」


「いや。私が君を守りたいんだ。それくらいはさせてくれ」

 

 その時、カリナには彼がまた、物語の中の騎士のように見えた。

 

 「姫、私にあなたを守らせてください。私はあなただけの騎士です」。

 そう言って、恋い焦がれる姫に跪く騎士。


(私だけの騎士‥‥‥。はっ、まただわ。もう、どうしちゃったのかしら。彼は優しさで言ってくれているだけよ)


「ありがとうございます」


「被害届を出して。窃盗団が捕まれば、本が戻ってくるはずだ」


「はい」


 カリナは、ぼうっとする頭で短く答えると、頭をブンブン振った。

 幻覚を追い払うためだ。


 ルーカスは、「何かあったら、すぐに連絡を」と言い、帰って行った。

 

 ぼうっとしていたせいで、カリナは彼に言いそびれてしまった。


 「被害届は出しません。実は、あの本、中身と表紙が違うのです。泥棒は今頃、がっかりしていますよ」

 そう言おうと思ったのに。


 実は、「領地経営学」は表紙だけ。中身は違う。

 兄が、暇な時に店で本を読む為に細工をしておいた、そう言って持たせてくれものなのだ。


 「暇だからと物語なんて読んでいると、客が来た時に良い印象を持たれない。これなら大丈夫」。

 彼はそう言っていた。

  因みに中身は「竜と騎士」という兄お薦めの物語である。

 

(あぁ。もう、しっかりしろ私。何で幻覚を見るのよ。被害届の件は、またルーカス様に伝えよう)


 カリナはそう思いながら、閉店の準備を始めた。

お読みいただきありがとうございました。

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