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20.第一王子の想い人(3)

「それは‥‥‥。押してダメなら引いてみろですね。引く、の中で一番効果があるのが嫉妬です。それを使われたと」


 カリナはアルバートの話をしばらく聞いた後、言った。

 なお、これはオリビアからの受け売りの言葉である。


(分かったわ。効果とは恋の駆け引きの効果。殿下は想い人がいる、婚約破棄だと嘘を付いて、リンダ様を嫉妬させようとしたのね)


 彼はカリナが思った通り、最初から婚約破棄など望んでいなかった。

 嫉妬するリンダを見て、彼女も自分を愛している。そう確信を持ちたかったらしい。


「その通り。物を何度贈っても冷たい女性には引いてみるのがいいと。エリィ嬢のアドバイスが今回の計画のきっかけだった」


 エリィ嬢。その言葉にピクリとカリナは反応する。


 だが、ここはリンダの話を聞くのが先決だ。

 彼女がアルバートの想い人でないことは、カードが示しているのだから。


 アルバート曰く、ここ数年、リンダはアルバートの贈った物を身に付けてくれたことが無いという。

 

 それで、彼はリンダが水色のドレスを着ていると聞き、嬉しそうにしたのだ。

 自分の贈ったものだとピンときたのだろう。


 嫉妬心から自分への想いに火が付き、やっとリンダは贈ったドレスを着てくれたのだ。彼はそう思い、喜んだのだった。


「そうでしたか」


「でも、引いてみた理由はこれだけじゃない」


「何でしょうか?」


「私は彼女を心から想っている。厳しい王妃教育に健気に耐える彼女を見ているうちに恋をしていた。彼女も私と同じだと信じていたのだが」


「確かに、リンダ様は健気な方。殿下の為に一生懸命で。‥‥‥と、カードが示しています」


「もちろん、それは分かっている。しかし、最近は将来の王妃としての外面だけにこだわっていると感じることがある。王妃らしい服、王妃らしい振舞い。そして、王妃らしい意見。彼女らしさがまるでなくなってしまった」


「殿下の為です」


「だが、彼女にとって私は何なのだと寂しくなる時がある。私の妻となるのだから、彼女らしく振舞えばいい。私だって彼女を支えたいと今まで頑張ってきたつもりだ。それなのに私はそんなに頼りないのかとね」


 ふうっとため息をつき、アルバートは言葉を続ける。


「そこで、エリィ嬢から聞いた「押してダメなら引いてみろ」に従い、引いてみることにした。リンダの気持ちを確かめようとね」


「これが初めてではないのですか?」


「あぁ。まず、「しばらく会えない」と言ってみた」


 オリビア曰く、男性からの「しばらく会えない」は、「永久に会いたくない」という意味だそう。

 因みに、類義語には「お互いを見つめなおす為に距離を置こう」がある。


 オリビアから聞いていなければ、彼が何を言っているか、カリナには分からなかっただろう。


 リンダも同じだったようだ。


「リンダ様は何と?」


「公務で忙しいのはいいことですと、嬉しそうにしていた」


「効かなかったと」


「あぁ。で、最終手段として「婚約破棄を希望してる」と伝えることにした。悩んだが、これくらい言わないと彼女には通じないと思った」


「ルーカス様だけに理由を伝えたのは、リンダ様が勘違いや思い込みで行動をしないようにですか?」


「何でもお見通しだな。そうだ。彼なら婚約破棄の本当の理由を探ろうと裏で画策すると。その間に嫉妬しているリンダを見ようと思っていた」


「なるほど」


(殿下の思った通りになったということね。部外者の私が加わっているけれど)


 カリナはアルバートの言葉に頷いた。


「これが、私の付いた嘘の全てだ。しばらくしたら、真実を話し、気持ちを分かってもらう為にプロポーズをしようと思っていた。正式にプロポーズをしたことはなかったから」

 

「そうでしたか」


「こんな方法しか浮かばなかったが、私は、この機会に未来を変えたいと考えている」


「未来を、ですか?」


「王と王妃が手を取り合っていない国は良い国とは言えない。この国の未来を考えると、今のままではダメだ。だが、リンダ以外に私の妻はいないと思うんだ。彼女の気持ちを確認したら、私に彼女を支えさせてくれないかと言うつもりだ。そして、私を支えて欲しいと‥‥‥これがプロポーズなんだ」

 

(人間は未来も運命も努力で変えられる。‥‥‥ある意味、これは殿下の努力。リンダ様は今の話を聞いて、どう思われたかしら?)


 彼女もまた、未来を変えたいと決意してこの場にいるはずだ。


「この嘘がカードが示す影なら、どうしたら? 未来は、私の望まない形に変わってしまうのだろうか?」


 アルバートは悲痛な声で言った。


(もう、二人で話し合ったほうが良いわね。想いは同じだもの。ルーカス様もライバルのせいではないと分かったはず)


 カリナが口を二人を呼ぼうと、口を開きかけた時。


「お気持ち、よく分かりました。わたくし、努力します。アルバート様と一緒に未来を変えられるように」


 カリナの後ろからリンダとが飛び出してきた。

 彼女の目には、涙が浮かんでいる。

 

 もちろん、ルーカスも一緒だ。


「リンダ様!」


「リンダ! はっ。もしや、全て仕組まれたことだったのか?」


 この時。

 会場内に拍手が巻き起こった。


 そして、メイソンが出張占いの場所に駆けて来た。


「ルーカス、今の聞こえた? エリィ嬢が受けたプロポーズ。「一生、あなたを愛し続けます」だって。お前もあれくらい言わないと」

 

「おぉ、言ったのか」


 アルバートが嬉しそうに言う。

 横ではリンダが不思議そうな顔をしている。


「アルバート様?」


「協力していたんだ。エリィ嬢と私の直属護衛騎士は愛し合っていてね」


「ジークですか? アルバート様の剣術の師匠の長男の」


「あぁ。彼とは身分は違えど友人だ。相談を受けて、お茶の時間に逢引の場所を提供していた。エリィ嬢の父親が二人の仲に反対していて、なかなか会えないらしくてね」


「それで、エリィ様をお茶に招いていらしたのですね。イーラン公爵もアルバート様からの招待なら拒否できませんもの。護衛騎士なら、時にお茶の時間に部屋の中に入っても不自然ではないですね」


「その通りだ。しかし、これだけの人の前で言ったのだ。イーラン公爵も無下に二人を引き裂けないだろうな」


 カリナはふと思った。


「もしかして殿下は、協力する代わりにエリィ様に恋のアドバイスをもらっていたのですか?」


「あぁ。途中からは、リンダがエリィ嬢に嫉妬しないかと思っていたけどね」


 そういうことだったのね。と、カリナは納得した。


 メイソンは、カリナとアルバート、そしてリンダとルーカスをジロジロと見る。


「皆が揃っているということは、占いは終了ですか? ね、良く当たる占いでしょう? 殿下、カリナちゃんの占いはこの国一だと宣伝してくださいよ」


「確かにこの国一だ。この国を良い国にするのに協力してくれたわけだから」


 アルバートは、笑いながらそう言った。






 数日後。

 

 リンダが店へとやって来た。

 彼女はカリナに何度も礼を言った。


 あの後、アルバートには全てを説明した。

 彼はリンダに何度も謝り、彼女は「わたくしが至らなかったせいで」と泣いていた。


 二人は愛を確かめることができたようで、パーティの間中、見ていられないほど接近していた。


 一方、ルーカスは「私が国王陛下に告げて大事になったら、どうするおつもりだったのですか」とずっとブツブツと言っていた。


 アルバートは「ルーカスはそんなことしない」と悪びれない様子だった。

 

「カリナ様とあの日、お話ししなければ、アルバート様の言う未来を変えたいという意味もお気持ちもわからなかったわ。本当にありがとう」


「リンダ様が考えられた結果です」


「わたくし、ここ数年、努力を忘れていたようね。ただ、人からの評価を気にしていただけ。王妃ならこれをすると悪く思われる。こうしなくてはとね」


「リンダ様‥‥‥」 


「これからは自分で考えるわ。アルバート様を支える、わたくしなりの王妃の姿を。それがわたくしの未来を変える努力。もちろん、アルバート様と話し合いながらね」


 そう言ったリンダの声は、あの日の威圧感とはまた違う、強いものだった。


「息抜きが必要なら、ここに来てくださいね。ところで、その後、アルバート殿下とは?」


 リンダの顔には満面の笑みが浮かんだ。


「実は昨日、プロポーズを」


「よかったですね」


「公園で動物に囲まれがらの突然のプロポーズよ。動物を愛でる笑顔の君がこんなに愛おしいなんてと」


「あ、カードが示したプロポーズ場所は公園でしたね」


「そう、占い通り。どうやら、お兄様がアルバート様にこっそりと教えたようなの。女性を笑顔にさせ、かつ女性が恋に落ちるようなデートコースがあると」


「どこに行かれたのですか?」


(やっぱり、女性慣れしているのね。デートコースだなんて)


 そう思いつつ、カリナはリンダに尋ねた。 


「喜劇を観て、食事をして、公園へ行ったのよ。とっても楽しかった。自然と笑みがこぼれて。好きな人と笑い合うのはいいことね。彼と笑い合えていなかった自分に反省をしたわ」


「そうですか。楽しそうですね」


 どこかで聞いたようなコースだ。とカリナは思う。

 次の瞬間、たちまち頬が熱を持つのを感じ、慌てて下を向いた。


 気が付いたのだ。

 それは、「恋に落ちるのに必要なこと」。あのメモに書いてあった通りだということに。


(やっぱり、彼はあのメモを見たのね。女性を笑顔にさせ、女性が恋に落ちるような? 私を笑顔にさせ、私が恋に落ちるような。ってルーカス様が思っているってこと? まさか‥‥‥)


 リンダは、急に真面目な口調で切り出した。


「カリナ様。出張占いはわたくしの為だけでなく、お兄様の為でもあった。お兄様を支えようとしてくれたのね。そうでしょう?」


「それは忠告への感謝の気持ちでして」


 お詫びもあって。とはリンダには言えない。


「本当にそれだけ?」


 お詫びと感謝。いや、とにかくルーカスの為になんとかしたいそう思っていたかもしれない。

 だが、その気持ちが何だというのだろう。

 カリナは首を傾げた。


 リンダは言葉を続ける。


「私には言えないかしら。では、これだけ言わせて。見ていてもどかしくなってしまって」


「何でしょう?」


「カリナ様も、運命を変える努力をしてもいいと思うの」


「えっ‥‥‥?」


 そこまで言うとリンダは、すっきりしたようで「今日はあまり時間が無いの」と言い、席を立った。


 彼女を見送った後、カリナは考える。


「リンダ様は何を? 私が変えたいのは、占いが外れた未来。リンダ様と親しくなっても、規則は規則。結局、ルーカス様の運命の花嫁を見つけないと、店の営業許可が取り消される‥‥‥」


 その時、女性が店へと入って来た。


「いらっしゃいませ」


 カリナはリンダの言葉の意味は後で考えればいい。

 そう思い、女性を迎え入れた。

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