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2.占いは当たるはずです(1)

 立食式の盛大なパーティ会場。

 色とりどりのドレスを着た令嬢達が会場に華やかさを添えている。


 その中で17歳となったカリナ・グリーンティアは、うんざりしていた。

 茶色い髪を綺麗に巻いてめかしこんで来たというのに、その顔は暗いのだった。

 

「親が決めた婚約者は金持ちだけど、顔が好みじゃないのよ」

「なら婚約破棄したら? あそこにいる男性はどう? 素敵よ」

「彼はやめた方がいいわ。既婚者だし、浮気してるって話よ」

 

 聞こえてくる令嬢達の会話は、占い店の客の依頼そのままだ。

 

 4か月前、カリナは王都で占い店を開いた。

 もちろん、妖精が与えてくれた力を使った結婚と恋愛に関する占い専門の店である。

 

 カリナは占うことが好きだ。

 この人にどんな未来が待ち受けているのだろうと思うとワクワクするし、悪い占いであっても伝えることで未来や運命を変えるきっかけになればと思っている。


 だって、妖精の言うように「人間は努力で未来も運命も変えられる」のだと成長したカリナは知っている。

 例え、望まない恋の結末をカードが示しても、結ばれた二人だっているのだから。 


 しかし、店を開いてから何度、彼女達の話のような占いをしただろうか。  

 

 金持ちの男性と今の恋人、どちらを選ぶのが正しいですか。

 婚約破棄が上手くいくか占ってください。

 彼が浮気相手と私、どちらを選ぶか教えてください。

 

 ほぼ毎日、こんな占いばかりしていれば、どんな人間でもうんざりもするだろう。


 カリナの父母、グリーンティア男爵家夫妻は貴族では珍しい恋愛結婚で今でも恋人同士のようだ。

 カリナもいつかは自分も2人のように、なんて夢を見ていた。

 でも、そんな淡い夢は占い店を開いてからどこかへ行ってしまった。

 

 経験も無いというのに、カリナは知ってしまったのだ。

 愛し愛されて結婚する人は意外と少ないし、愛し合っていたとしても人間は心変わりするのだと。


 もちろん「好きな人と結ばれるか知りたい」「運命の相手と出会えますか」というような純粋な占い依頼もある。


 だが、平民でも貴族でも、婚約破棄に離縁、浮気、欲にまみれた婚約や結婚についての依頼が圧倒的に多い。

 

 もっとも、占い店は悩みを解決する為に訪れる場所でもあるから、利己的な依頼が多いのは仕方がないことなのかもしれない。

 

 なお、婚約破棄も浮気のことも占ってみたら当たった。それらも、妖精の言う恋愛と結婚に関する占いに含まれるようである。


 さて、何故、男爵令嬢であるカリナが占い店を開いたのか。


 それは、グリーンティア男爵家が没落して平民となる予定だからである。


 没落の理由は100年の間、何の功績も無かったこと。

 この国には100年の間、功績がない貴族は爵位を下げられるという少々厳しい規則があるのだ。


 男爵の下は平民だから、一家は平民となる。

 もちろん、努力はした。だが、畑を自ら耕すような貧乏貴族では、王が満足する功績は立てることができなかった。


 内々には没落は決定しているものの、爵位が下がる貴族の正式発表は3か月後。

 カリナは、今はまだ辛うじて男爵令嬢という立場なのである。


 だから、今日のパーティにも出席できた。

 平民は貴族のパーティには参加できないのだから。


 没落する令嬢がパーティなんてと言われそうだが、一年前から招待を受けていた遠縁の令嬢の結婚パーティだ。

 それに、今までカリナはパーティになんて参加したことはなかった。最初で最後の一度くらいパーティの雰囲気を味わうことぐらいは許されるだろう。

 

 しかし、カリナは最後のパーティだというのに暗い、うんざりとした顔で令嬢達の話をただ聞いているのだった。


「さっきから黙っているけど体調が悪いの? 慣れない一人暮らしで大変でしょう?」


 横にいた従妹のオリビアが心配そうにカリナを見る。


「大丈夫よ。なんでもないわ。一人暮らしにも、もう慣れたもの。元々貧乏貴族、一人で何でもできるから平気よ」

 

「ならいいけど。ご両親とお兄様はいつ、王都に来るの?」


「半年くらい先かしら? 次の領主への引継ぎと残務があるらしいわ。でも、家具も揃えたし、平民になる準備は万全よ。いつ三人が来ても大丈夫だわ」


「買った中古の家は三階建てで、元々一階がお店の建物だったわよね? 三階が住居だと聞いたからカリナの店は二階かしら?」


「そうよ。でも、二階は元々は一階の店舗のための物置用の部屋なの。その部屋に仕切り板を置いて、半分だけ使っているの」

 

 そう、グリーンティア男爵家は今すぐにでも平民になれるよう、すでに準備を整えている。

 もっともカリナは、すでに平民の暮らしをしているのだが。


 功績を上げることに対しての諦めが、グリーンティア男爵家に漂い始めた一年前。

 一家は平民になる為の準備を少しずつ始めることにした。

 

 一家は没落後に商売を始めようと考え、屋敷の家具や調度品を売り、資金を作ることにした。

 倉庫で眠っていた数枚の絵画が、かなりの高値で売れたことは一家にとって幸運なことだった。


 そうして作った資金で半年前、王都のはずれに三階建ての古い建物を買ったのだ。

   

 両親と兄は本好きだった祖父が買い集めた本を利用し、一階で貸本屋を商うことにした。

 三人は、カリナも古本屋を手伝うものだと思っていたようだ。

 

 でも、カリナは没落を悲しむ反面、目の前が開けたような気がしたのだ。

 やっと、妖精が分けてくれた力、占いを家族の為に役立てることができると。

 そうして、占い店を開くことを決めたのである。


 元々、お転婆なカリナである。

 店を開くと決めたらいても立ってもいられなくなった。

 そして、一足先に王都へ行くとさっさと決断してしまったのだった。

 

 両親はカリナが一人で王都へ行くことに反対したが、すぐにカリナの説得に頷いた。

 貯えが殆ど無い一家にとって、娘が自分の食い扶持を稼いでくれるならそれはいいことだと考えたのだ。


 占い店を開くにあたり、経営学を独学で学んでいた兄はカリナに助言をした。


「いいか。差別化と人の目を惹きつける宣伝文句が成功の秘訣だぞ。そうだな、絶対に当たるっていう表現は駄目だな、逆に怪しまれる。せっかくだから妖精を使うとして‥‥‥。うん、妖精に授けられた妖精占い、これがいいな」と。

 

 なお、これは、カリナが店の看板に「妖精と会って占いを当たるようにしてもらった占い店」とかなり回りくどいことを書こうとしているのを知ってのことだった。

 その言葉は兄により、一笑に付されたのだった。

 

 カリナは兄に従うことにした。今、店には「妖精に授けられた妖精占いの店(結婚と恋愛に関する占い限定・ご本人の依頼のみ可)」と書いた看板が店へと続く階段下に置いてある。

 

「で、店はどうなの? 上手くいってるの?」


「はじめは閑古鳥が鳴いていたけど、ここ2か月くらいはお客様が増えているわ。手書きのチラシを配った成果ね」


「まぁ、よかったわね」


「えぇ。最近では、貴族らしいお客様もチラホラと見るわ。だけど、まだダメ。売上が私一人の食い扶持にもまだまだ足りないの。もう少し、貴族社会でも知名度を上げる必要があるわ」

 

 店にとって、お忍びで来る貴族の客はありがたい存在だ。

 彼らは金払いがいいからだ。

 占いは1回20分で料金設定をしている。彼らは、占いが気に入ったり、他に気になることを思いつくと、気前よく追加料金で延長をしてくれるのだ。


「カリナの占いは良く当たるから、すぐに評判が広がるわよ。‥‥‥あっ!」


 オリビアは誰かに気が付いたのか、小さな叫び声をあげた。

 彼女の目は、すぐにうっとりとしたものになった。


「ルーカス・オランジア公爵がみえたわ。新郎の友人だそうよ。カリナは貴族社会に疎いから知らないでしょう? 年若くして家を継いだ19歳の美貌の公爵。皆、観賞用の男だって言っているくらいの美しさよ。最後のパーティで目の保養ができてよかったわね」


 オリビアの目は、その男性、ルーカスから動かない。

 周囲の女性達の目線もルーカスの方を向いている。


 ただ、残念なことにその男性はカリナの位置からは人の陰に隠れてしまい見えない。


 だが、カリナはそんな男には興味はない。

 ふぅっとため息をついて、カリナは言った。


「知ってる? 見た目が良い男性ほど浮気するのよ」


 これは、占い店で学んだこと。


 「私は彼の本命でしょうか? それとも浮気相手? 彼は顔が良く、何人もの女性とお付き合いしているようなのです」と尋ねる女性客は案外多いのだ。


 端正な顔の男性が「3人の恋人の中で、誰が最も結婚相手に最も良いかお教えください」なんて言うことも。


「あのねぇ。彼は、今まで五度も婚約破棄をされているのよ」


「五度! 何よそれ‥‥‥。浮気したから五度なんでしょ? 二度あることは三度ある。五度じゃもう、更生は無理ね」

 

 なんて酷い男だと、カリナは思った。

 飽きては女をぽいと捨てるタイプの男に違いない。


(でも、五度も婚約できたってことはある意味凄いわ。美貌の公爵だとオリビアは言ったから、金と地位もあって顔もいい。それが理由ね。でも、性格はきっと最悪よ)


 最後のパーティの記念にそんな男の顔をじっくりと見て帰ってやろう。

 カリナは人の陰に隠れて見えないその男が俄然、気になりだした。 

お読みいただきありがとうございました。

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