19.第一王子の想い人(2)
カリナはカードの山を作り、カードを二枚引いた。
「成功を示すカードと公園の絵のカード。公園でプロポーズして、プロポーズは上手くいくということですね」
「公園か‥‥‥。私の思っていた場所とは違うな」
「未来を占っていますので、今のご自身の考えとは違うカードが出ることもあります」
「そうか。でも、随分と具体的に占えるのだな。普通のカード占いと何か違うな」
「はい。私は、まるで未来を見て来たかのように占えます。殿下、念の為に殿下のプロポーズのお相手を占っても? 未来のプロポーズの相手が思っている方と違う可能性がありますので」
「そんなことは無いと思うが‥‥‥。せっかくの機会だ。頼もう」
(計画通りだわ。殿下自らに頼むと言われれば、あと一歩で誰だか分かるはず)
カリナは心の中で小さく声を上げ、再び同じ動作を繰り返した。
そして、3枚のカードを引いた。
「金髪の女性、年下と高位貴族を示すカードです」
「凄いな。ぴったりだ。よく当たる占いというのは本当の様だ」
アルバートは感心している。
(これだとエリィ様よね。金髪で年下、公爵令嬢。でも‥‥‥。リンダ様とも同じよね?)
これではアルバートの想い人が誰かは分からない。
「同じ条件の方は沢山いらっしゃるかと。もう少し、詳しく占いましょう。殿下はレオナルド商会のパーティにご出席されていたとか。その場にその女性はいらっしゃいましたか?」
カリナは、ルーカスがレオナルド商会のパーティにエリィもアルバートも来ていたと話していたことを思い出した。
その時、アルバートとエリイが親し気な様子で会話をしているのをルーカスは見たらしい。
あの時に気が付いていれば。彼はそう悔しげに話していた。
リンダはあの日、自身の手品を魔法だと言い張る手品師の調査を急遽開始。
その為にアルバートと過ごす時間はほぼ無かったそうだ。
「あぁ、いたが。それが何か?」
「では、レオナルド商会のパーティでその女性が着ていたドレスの色を占います」
「そんなことが?」
「はい。私の占いでは、過去もカードが示してくれますから」
カリナは再び同じ動作を繰り返し、カードを一枚引いた。
「紫色のドレスですね」
そう言いながらカリナは、内心、焦っていた。
(エリィ様はいつもピンクのドレスを着ていると先ほどルーカス様が。ルーカス様の推測とは違うということ? それとも、また占いが外れた?)
まさか。
そう思い、青ざめかけたカリナ。
しかし、アルバートの言葉は、カリナの予想とは異なるものだった。
「ぴったりだ。君の占いは凄いな。過去も未来も見通せるのか。まるで伝説にある妖精の魔法だ」
アルバートは驚いている。
「えっ‥‥‥」
どうやら、占いは当たっているようだ。
(殿下のお相手は、エリィ様ではないようね。では、お茶へ招待していたのは何故?)
アルバートは、ピタリと当たる占いが楽しくなってきた様子。
ワクワクした口調で、言った。
「もしかして、今日、彼女が着ているドレスの色も分かるのか? 彼女も今日ここにいるはずなんだ」
「はい」
カリナはカードを一枚、引いた。
「水色のドレスですね」
「水色か。意外だな」
もしかして。
と、カリナは思う。
リンダは今日、アルバートに贈られたものを身に付け、自分がまだ彼を想っていることを知ってもらうのだと言っていた。
今日、彼女が身に付けていたのは水色のドレス。
リンダに似合いそうだからと数年前にアルバートが贈ってくれたものだそうだ。
なお、そこには、どうやらエリィに対する嫉妬心もあったようだ。
「アルバート様は青を基調とした衣装が多いから、わたくしがこのドレスを着れば、お揃いのようになるはず。エリィ様はそこまで考えつかないでしょうね。わたくしの方が殿下を分かっていると見せつけてやりますわ」。そう、リンダは言っていた。
彼女はそのドレスを着たことは無かったと言う。
アルバートはいつもリンダに水色が似合うと言うそうだが。
彼女がそれを身に付けなかった理由は、将来の王妃が身に付けるには子どもっぽいから。
リンダはこう言っていた。
「将来の王妃に相応しいと言われる為、いつも大人っぽい紫色のドレスを着ていたの。でも、せっかくのプレゼントを着ないだなんて。今思えば、彼の心変わりの原因は私にあるのかもしれない」と。
(全部、リンダ様に当てはまる。プロポーズの相手はリンダ様なの?)
アルバートは一瞬、口をつぐんで何かを考えていた。
そして、何かに考え当たったのか、途端に嬉しそうな顔になった。
「しかし、彼女はどこにいるのだろう? 姿が見たいな」
ボソリとアルバートは呟いた。
彼が探しているのがリンダなら、彼女はルーカスと共にカリナの後ろにある目隠し用の板の後ろにいる。
(殿下からリンダ様へはあの日以来、連絡は無いと。今日のエスコートについても何も。リンダ様は会場で殿下がエリィ様と話していたら、嫉妬にかられて冷静さを失うかもと言っていたわ。だから占いの結果が分かり、どう自分が動くのがいいか判断できるまで、殿下の前には姿を現わさないと)
カリナは内心、慌てていた。
占いの結果とアルバートの行動は真逆だ。
どうしたらと。
「今日は良い占いをしてもらった。彼女が水色のドレスを着ているなら、効果が出てきたということ。では、プロポーズの場所を公園に変えて、再度、計画を立てるとしよう。礼を言う」
アルバートは立ち上がる。
(効果? 計画? ドレスを着るのに何の効果が出てきたと? リンダ様が水色のドレスを着たのは殿下への想いと嫉妬からよ)
カリナが考えている間にアルバートは「では」と言い、立ち去ろうとする。
(とにかく分かっているのは、プロポーズの相手はリンダ様。つまり、想い人はリンダ様ということ。そうすると婚約破棄は‥‥‥)
カリナは咄嗟にカードを一枚引いた。
まだ、確認しなくてはいけないことがある。彼を行かせるわけにはいかない。
「お待ちください!」
「何だ?」
「今引いたカードが不吉な影を示しました。これは大変です」
「影?」
カリナは引いたカードを見て、大げさにため息をつく。
アルバートは何事だと言うように顔色を変え、座り直した。
もちろん、影の話は嘘。カードには意味など無い。
彼を行かせない為のもの。
カリナは、咄嗟に考えていた。
彼から話を聞き出すには、下手な説明より、占いの力を借りた方が良いと。
カリナは自分の予想を口にした。
「この影は、殿下の嘘。殿下、嘘をお付きですね」
「な、何故、それを‥‥‥」
カリナの思った通りのようだ。
「殿下の嘘のせいで、プロポーズの成功に影が差し始めました」
「そんな‥‥‥」
「私にはその嘘が何か見えます。‥‥‥殿下の嘘。それは、婚約破棄のご希望ですね」
アルバートの目は、たちまち大きく見開かれる。
「な、何故そのことを!」
彼は明らかに狼狽している。
「私は、過去も未来も見通せる占い師ですので」
「もしや、私の心までも占ったのか!」
「そんなところです。落ち着いてください。嘘の全てをお話しいただけば、影を追い払う方法をお教えしましょう」
「‥‥‥わかった。全て話そう」
アルバートはうなだれる。
口から出まかせの誘導が成功したことに満足しつつ、カリナは思った通りだと心の中で頷いた。
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