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18.第一王子の想い人(1)

「カリナちゃん、ルーカスとデートに行ったんだって」


 そう言ったのはメイソンだ。

 彼はカリナと向き合って座っている。


「デ、デート? お礼として劇場に連れて行っていただきましたが、デートではありませんよ」


 カリナはデートいう言葉に目を白黒させる。

 デートなんて行ったこともない。


 オリビアの話によると初デートの時は、笑顔なんて作れないほど緊張するものらしい。

 でも、カリナはあの日、ガハハハッと笑っていた。


 だから、あの日がデートなんてことはない。

 そう、カリナは心の中で呟く。


 まぁ、喜劇を観に行ったのだから笑うの当然なのだが。

 そもそも、ルーカスもお礼だと言っていた。

 

「ふーん。照れちゃって。じゃあさ、昼食を食べたレストランはどうだった?」


「とても美味しいレストランでした」


「よかった。あそこのデザートは絶品だよね」


「はい。見た目も可愛らしくて‥‥‥。あれ、ご存じなのですか?」

  

「うん。あそこは僕が教えた店だよ。あいつは婚約破棄の回数は多いけど、女性と出かけたことなんては無いからね。王都の店は全く知らないんだ」


 カリナは驚いた。


(ルーカス様はてっきり、女性と出かけるのに慣れていると思っていたけれど。あのレストラン、初めてだったのね)


 メイソンはニヤリと笑う。


「まぁ、あいつとのことで何かあったら言って。なんか、もどかしい感じがするんだよなぁ。そもそも、占い店の次の休みに誘えと言ったのは僕だ。キューピッドとして、いろいろ相談に乗るからさ」


 そういえば、レオナルド商会のパーティで次の休みがどうとかメイソンは言っていた。

 「占い店の次の休み」。

 あの日、ルーカスが言いかけた「う」。


 もしかして。そう思った次の瞬間、いや、そんなはずはない。と、カリナは頭をブンブンと振った。


「誘う? キューピッド? メイソン様、何をおっしゃっているんですか? あれはお礼。だたのお礼ですよ」


 ルーカスに誘われる理由は無い。

 それに、ルーカスがカリナの店に来る用は無くなったはず。

 

(だけど、ルーカス様の運命の花嫁を探さなくてはいけないのは今までと変わらない。ルーカス様本人にその意思は無さそうなのに、どうしたらいいのか‥‥‥)


 そう、カリナは相変わらずルーカスの運命の花嫁のことで頭を悩ませている。

 

(宣伝文句としてリンダ様を納得させるためには、探す努力をしないといけないのだけど)


 メイソンはカリナをニヤニヤとしながら見ている。


「恥ずかしがり屋だねぇ。ところで、今日は俺に任せてね。計画を成功させて、カリナちゃんの店を繁盛店にしてあげるからね」


「はい。お願いします」


「それにしてもルーカスにとっては今日は残念日だねぇ。リンダ嬢のリクエストだといっても、自分のパーティの出張占いでカリナちゃんを呼ぶだなんて。本当は、カリナちゃんをパーティに‥‥‥」

 

 メイソンの言いかけた言葉は、低く厳しい声で遮られた。


「メイソン! 余計なことを言うな! さっさとあっちへ行って、頼んだことをしてくれ」


「げっ。ルーカス。はいはい、邪魔者は退散しますよ」


 ルーカスの姿を見て、メイソンは物凄い速さでパーティ会場の人ごみの中へと消えた。


(メイソン様、何を言いかけたのかしら?)


 カリナは疑問に思った。

 だが、今はそれより自分の立てた計画に集中せねばと口をつぐんだ。






 カリナは今、ローブのフードをすっぽりとかぶり、パーティ会場の一角に設けられた占い用の机の前に腰を下している。

 カリナの向かいには退散したメイソンに替わり、本来は客用の椅子にルーカスが座っている。


 今日はオランジア公爵家で開かれているパーティの日。

 年に一回、社交シーズンに開かれるものだそうだ。


 カリナはそこへまた、出張占いの為にやって来た。

 パーティの余興として急遽、ルーカスは出張占いの場所を設けたのだ。


 そう、今日がアルバートの想い人を占うという計画を実行する日なのである。


「先ほど、リンダ様ともお話ししましたが、殿下のお気持ちを取り戻すと張り切っていましたね」


「あぁ。君のお陰だな。リンダが落ち込まずにこの3日間を過ごせたのは。何があっても、リンダは後悔せずにすっきりと前に進めると言っていた」


「よかった。では、後は、殿下をここまで無事に誘導できるかですね」


「問題ないはずだ。メイソンは口も上手いし、殿下とも親しい。よく当たる占い師がいると言ってちゃんとここへ殿下を連れてくるはずだ」


 メイソンには計画は明かしてはいない。

 だが、ルーカスが「カリナ嬢の店の評判を上げるために、殿下を必ず出張占いの場所に連れて来て欲しい」「彼が必ず占いを受けたくなるようなアピールを頼む」と頼んだ。

 メイソンは快くその依頼を受けてくれたのである。


 アルバートが会場に着くと同時に、リンダとルーカスははカリナの後ろに立ててある背後の目隠し用の板。その後ろに隠れ、アルバートの占いをこっそりと聞く予定だ。

 

 なお、今のところ占いの机の前には「準備中」と書いた板が置いてある。

 

「アルバート殿下は、必ずこのパーティに出席されるのですよね?」


「あぁ。大丈夫だよ。元々予定されていた我が家のパーティに来ないなんてことになると、他貴族や国王陛下からいらぬ詮索を受けることになるのではと、それとなく殿下に進言しておいた。それに‥‥‥」


 ルーカスは会場の中心にいる女性に目を向けた。 


「エリィ嬢も今日、来ているから」


 金髪のその女性はピンクのドレスを着て友人だろうか、数人の女性と話している。


「あれが、エリィ嬢ですか」


 アルバートの想い人、もしくはルーカスを失脚する為に送り込まれた女性は、このエリィだとルーカスは推測している。

  

 彼女はルーカスが推測する彼を追い詰めようとしている人物、イーラン公爵の娘。

 ルーカスが宮殿の使用人から仕入れた情報によると、ここ最近、アルバートは密かにエリィを毎日のようにお茶に招いているそうだ。

 

 普段、アルバートは公務で忙しく、リンダと会うのですら週に一度。

 それなのに。とリンダはとても悲しそうにしていたそうだ。


「そうだ。エリィ嬢はピンク色が好きでね。いつもピンク色のドレスを着ているからすぐわかる」

 

 その時。人々が騒めいて、入り口付近に集まっていくのが見えた。

 どうやら、アルバートが到着したようだ。


 彼は会場に入るなり、エリィに声をかけた。


「あれが、アルバート殿下ですね」


 カリナはアルバートをじっと見つめた。


(とにかく、今のままでは手の打ち様がない。私が殿下を占い、プロポーズする相手が誰か分かれば。そうすれば、ルーカス様リンダ様もそれぞれ動けるわ)


 ふと見ると、彼にメイソンが近づいて行くのが見えた。

 

 メイソンはなにやら笑顔で話している。

 時折、こちらを見るのでおそらく出張占いの話をしてくれているのだろう。


 ルーカスは「そろそろリンダを呼ぼう。それに、私も殿下に挨拶に行かねば。では、頼んだよ」と言って、席を立った。


(ルーカス様とリンダ様の為、私、頑張るわ)


 カリナはアルバートの方をじっと見た。






「アルバート様、本当にこの占いは良く当たりますから。私もルーカスも信頼している占い師ですよ。まだ若いですが、あっという間にこの国一の占い師になりますよ。是非、この機会に」


 カリナの占いなど受けたことも無いくせにメイソンはペラペラと言う。

 まぁ、口から出まかせだとしても、アルバートを無事にカリナの前に座らせてくれたのだから、感謝しなくてはいけないだろう。


「メイソンがそんなに言うのなら、良い占い師なんだろう。‥‥‥プロポーズ専門?」


 カリナの机には、「カード占い(プロポーズ専門)」という札が立てられている。


 想い人にプロポーズするとアルバートはルーカスに言った。

 ルーカスの推測通り、イーラン公爵が仕組んだことでも、リンダ以外の女性にプロポーズをするというのはきっと同じ。


 彼にプロポーズについての占いを強制的に希望させ、それが誰なのか探る。

 それがカリナの考えた計画だ。

 

「はい。そうです」


「あれ? さっきはこんな札無かったのに。カリナちゃん、殿下はもう、婚約者が‥‥‥」


「婚約後にプロポーズをされる方も多いですよ。まだされていないのなら、婚約者がプロポーズを望んでいるか占いましょうか? それに、今の婚約者以外にプロポーズされたい方もいますしね‥‥‥」


「ふむ。なるほど。では、占ってもらおう。メイソンは下がってくれ」


「わ、わかりました」


 アルバートは端正な顔立ちの男性だった。

 女性的な顔立ちのルーカスとは違い、凛々しいと言ったらしっくりとくるかもしれない。


 カリナはフードの下からアルバートを見つめる。


「殿下、どういたしましょう?」


 アルバートはしばらく考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開いた。


「プロポーズか。そうだな‥‥‥。私のプロポーズが成功するか占ってくれ」


「わかりました」


(思ったよりすんなりといったわ。計画の第一段階は成功ね)

 

 カリナは興奮する心を抑え、カードをシャッフルした。

お読みいただきありがとうございました

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