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17.お詫びと感謝の気持ち(2)

 扉を勢いよく開けたルーカス。

 彼は、ごしごしと目をこすった。


 扉を開けてみたら、想像と違う景色が広がっていた。

 そんな感じだ。


 カリナもまた、ごしごしと目をこすっている。


(私、気が抜けすぎて変に? ルーカス様が騎士のように見えるなんて)

 

 カリナの目には、一瞬、ルーカスが「姫、大丈夫ですか」と物語の中で姫を救う騎士のように映ったのだった。


 目に映る景色をやっと本物だと認識したルーカスは、驚きの声を上げた。


「あ、あれ? 二人はお茶を? どうして?」


「ウフフ。わたくし達、お友達になりましたの」


 リンダの答えに彼は「はぁっ?」と彼のものとは思えない素っ頓狂な声を上げた。


「と、友達だと? どうしてだ。調査と聞いたから焦って来たのに」


 ルーカスはブツブツと言っている。

 顔には何の感情もないのだが、その口調は動揺しているようにしか聞こえない。


 カリナは慌てて椅子を出し、「お座りください」とルーカスを促した。


「お兄様、カリナ様の為にここへ? 焦るだなんて珍しい」


「あ、いや。その。リンダに用があって商業組合に行ったら、新しい占い店に調査に行ったと聞いて」


「へぇ。先ほど、「カリナ嬢、無事か」と聞こえましたが?」


「そ、それは。お前がここに調査に行ったと聞いたからだ。お前の調査の目的は一つしかない」


「営業許可の取り消しですね。カリナ様の為にそれを止めに?」


 普段とは様子の違うルーカスを何事かと見ていたカリナは、驚いた。


(忠告だけでなく、私を心配してわざわざ来てくれたの?)


 ルーカスは急に早口でまくし立てはじめた。


「い、いや。そうじゃない。私はもともと厳しい取り締まりに反対をしているだろう。い、いいか。あまりに厳しい取り締まりは時に民の反感を招く。注意しろ。そもそもお前は融通が利かない。私はあの占い店の営業停止を望んでいたわけではないのだぞ。罰金の適応でよかったのだ。やりすぎではあったが、反省はしていたというのに」


 何故か、ルーカスはカリナの方は見ない。

 彼はどうやら、話を逸らしているようだ。


 その表情からは分からないが、彼は照れを隠すためにそうしているようなのだが‥‥‥。


(相談役の兄が占い店に調査について忠告するなんて。本当はダメなことよね? ルーカス様、それを誤魔化そうとしているね)


 カリナは彼のそんな様子には全く気が付かず、こう思ったのだった。


「わたくしに付き添って行ったあの店のこと? ついでに仕事運を占ってもらっただけなのに「あの鉄仮面公爵の結婚相手も占った魔法の占い」なんて貴族相手に宣伝を始めた店ですね。王妃殿下の御用達とも宣伝していましたけど」


「確かに嘘は嘘だ。でも、彼女が古代の魔法使いの血を引いていたのは本当だった。評判も良かったようだし。お前は固すぎる。ある程度大げさに言うのも仕事のうちだということもある」


「規則は規則ですから。しかし、お兄様は人が良すぎます。あの宣伝のお陰で結婚相手を占いで探しているなんて噂が広がっていい迷惑だというのに」


 やっぱり、オリビアの言ったことはただの噂だったようだ。

 二人の早口な会話に尻込みしながら、カリナは心の中で頷いた。

 

 照れ隠し、カリナにとっては忠告の件を誤魔化す為のルーカスの言葉。だが、リンダが真面目に返す為、その会話はなかなか終わらない。

 

「あの店は年老いた女性がたった一人で商っていたんだぞ。女性一人で働くことを大変だとは思わないのか」


「お兄様は優しすぎます。憐れみの気持ちを持っていてはこの仕事はできませんわ」


「しかし‥‥‥」


 カリナの最後の疑問は、この時解けた。


(わかったわ。ルーカス様は私を憐れんで。没落予定の貴族の娘が1人で商っている店。それが潰されてはかわいそうだと、わざわざ忠告を。そして今日も、心配して来てくれたということね)


 ルーカスは恐ろしい人なんかではない。

 その口調通り、穏やかで優しい人だったのだ。

 

 思わず、カリナは立ち上がる。


「ルーカス様。私、答えられました。ルーカス様にお教えいただいたように。お陰で店の営業許可は取り消されませんでした。ご忠告、ありがとうございました」 


 カリナは深々と頭を下げた。

 これは、心からの感謝の言葉。


 だが、憐れまれていただけだった。

 そう思うと、何故だかカリナは少しだけ寂しさを感じた。


 ルーカスは我に返ったようにカリナの方を向いた。


「はっ。そうか。調査は終わったんだね。よかった! そんな、礼など。私は君の発言がリンダに目の敵にされると気が付いただけなんだ」


 表情の読み取れないルーカスだが、その声は温かかった。

 心からほっとした。

 そんな声だった。


「あの、リンダ様。今回のご忠告は私の為。非があるなら私に‥‥‥」

 

「流石カリナ様。そこまでご配慮を。大丈夫です。先ほどのご様子だと、お兄様は深く話はしていないようですから」


 カリナはここでクスリ、と笑って言葉を続けた。


「お兄様、わたくし、レオナルド商会のパーティの詳細をしきりに聞かれた理由がわかりました。そう言ってくだされば、参加するお店の名前もお教えしたのに」


 ルーカスはリンダの言葉を遮った。

 それ以上言うな。そんな目線を彼女に送り、彼は素早く言う。


「それより、リンダ。お前にも用が。大丈夫か? 宮殿でアルバート殿下よりお前に至急の手紙を届けさせたと聞いた。あまりに驚いて‥‥‥」


「わたくしは平気です。カリナ様のお陰で」


「えっ? 一体?」


「女同士の秘密ですわ。それより殿下は何かお兄様にお話しに? 手紙には理由が書かれておりませんでした」


「えっ? ここでその話は‥‥‥」


「構いません。カリナ様にアドバイスをもらいたいので」


「リンダ様‥‥‥」


 男女の間の話など、カリナにアドバイスは無理だ。

 しかし、この場でそんなことは言えない。


「本当に親しくなったようだね。お前と婚約破棄を希望されている。そう聞いて、私は殿下を問い詰めたんだ」


「で、何と?」


「‥‥‥殿下はこうおっしゃった。想い人ができたと」


 ルーカスは無表情。

 でも、その声は悲痛な声だった。


「想い人ですか‥‥‥」

  

 リンダの目は一瞬、潤んだように見えた。

 だが、彼女はすぐにキッと前を向いた。


「あぁ。殿下曰く、意中の女性にプロポーズする為に正式な手順より先にお前に婚約破棄の希望を伝えたと。相手に不義理なことをしたくないとおっしゃっていた」


「不義理、ですか。二股はしないということですわね」


「正式な婚約破棄には、時間がかかる。だから、先に気持ちの面だけお前との関係を終わらせておくのだとおっしゃっていた。どうやら国王陛下にはこれからお話しするようだ」


「真面目なアルバート様らしいですわ」


 確かに真面目だ。カリナは心の中で呟く。


(婚約破棄するなんて酷いと思ったけれど、殿下はまだマシな男のようね。この前、こんな占いをしたもの。二股の相手のどちらと結婚するのがいいですかと。カードは、どちらにも振られると示したけれど。いい気味だと思ってしまったわ)


 ルーカスは下を向き、思いつめたような低い声で言う。

  

「だが、これは仕組まれたことかもしれない。殿下を取り込む為に私の婚約破棄の回数が利用されたに違いない。婚約破棄の希望を伝えるなんて何かおかしい。じわじわと私の気を焦らせ、追い込もうという作戦としか‥‥‥」


「どういうことですか?」


「流石に六回ともなれば、ライバルにつけ入る隙を与えてしまったのだろう。イーラン公爵が怪しい。殿下に私のようなだらしのない男が当主の家を信用しないように吹き込んだ。そして、自分の娘と婚約したほうが良い国となると訴えたのだと思う」


「それが原因なら、とっくにお兄様は失脚しています」


「妹が殿下の婚約者という私の立場は宮殿では強いんだ。次期宰相とも言われているから、その権力を奪おうと私を敵対視する貴族も多い。私のせいですまない」


 ルーカスは下をむいたまま。


(何かしてあげたいわ。勘違いをしていたお詫びもあるもの。それに、営業許可の取り消しを避けられた感謝も。私にできることは無いかしら?)


 カリナは何もできない自分が歯がゆい。

 だが、没落予定の貴族には何のコネもなければ力もない。


「どちらにせよ、私以外の女性と婚約したい、プロポーズをしたいというのは殿下の本心でしょう。しかし、今の状況はわたくしにとってチャンス。婚約破棄はまだ正式なものではないのですから」」


「しかし‥‥‥」


「わたくし、アルバート様の気持ちを取り戻す努力をします。ダメでもいい、納得できるまでやってみたいのです。あぁ、せめてアルバート様の想い人が分かれば、なんとか手の打ち様があるのですが。プロポーズをするほどのお相手がいただなんて‥‥‥」


 リンダの言葉を聞いて、カリナはひらめいた。


(想い人が本当にいると分かれば、ルーカス様は自分のせいではないとはっきりと分かる。そうすれば、気が少しだけでも楽になるはず。リンダ様も行動を起こせて気持ちに決着がつけられる。私、想い人は占えないけれど‥‥‥)


 「未来も過去も見てきたようにピタリと当たる」のが、カリナの占いだ。

 だが、好きな相手は本人の心の中だけのもの。心の中までは分からない。


 ルーカスの運命の花嫁の場合は、ルーカスが結婚する相手を占っているわけだから、分かるというわけだ。


 ただ、カリナの占いには制限が1つある。

 本人から依頼があった時しか、占いは当たらないのだ。

 

(そうよ。私は本人さえ望めば、誰に自分がプロポーズするかが占えるわ)


 カリナは二人に向かって言った。


「私、殿下の想い人が誰か分かります。お二人に協力していただく必要がありますが。近々、殿下が出席するパーティはありませんか? できればお二人が親しい方が主催がいいのですが」


「カリナ様、何を? そんなことがわかるのですか?」


 リンダは驚いた顔をカリナに向ける。


「えぇ。私の占いは当たるはずですから」 


 ルーカスは一瞬、考えて口を開いた。


「分かった。君は私の運命の花嫁のように、殿下がプロポーズする相手を占おうと? 出張占いだな。レオナルド商会のパーティと同じように余興用の場所を設けるという考えかな?」


「はい。その通りです」


「確かに君の占いは、普通の占いとは違う印象を受けた。できるかもしれないな」

 

 こうして、カリナはアルバートの想い人を占うという計画を提案したのであった。






 さて、おおよその計画が終わり、別れ際。


「カリナ様、本当にありがとうございました。では、パーティ当日に」


「はい」


「そうそう、妖精占いの店名の件はともかく、宣伝文句の件はちゃんと行動をお願いしますね。私、仕事とプライベートは分けたいと思っていますので」


リンダの言葉にカリナは青くなった。


(あぁ。そうだわ。すっかり忘れていた。ルーカス様が私を脅していないとしても、あの発言が宣伝文句なのは変わらないのだわ)


 そう、カリナは引き続き、外れた占いを当たりにする。

 つまり、ルーカスの運命の花嫁を探さねばならないと気が付いたのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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