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16.お詫びと感謝の気持ち(1)

 カリナは今、リンダとルーカスと三人で机を囲み、店でお茶を飲んでいる。


 占い用の小さな机だ。

 三人で使うには窮屈だが、これ以外に無いのだ。仕方が無い。


 カリナは紅茶を一口飲み、口を開いた。


「では、もう少し、計画を詰めましょう」


「そうですね。しかし、3日後に我が家のパーティがあるなんて。丁度よかったですわ」


「あぁ。出張占いを装うか。確かにいい考えだ。流石はカリナ嬢‥‥‥。いや、余興の場所を設けることはレオナルド商会のパーティ以降、流行りつつあるからね。殿下も怪しまれないだろう」


「きっと上手くいきます。いや、いかせてみせます。私、必ずやアルバート殿下の想い人を占ってみせます」


「カリナ様。わたくしの為に‥‥‥」


 三人が立てている計画。

 それは、リンダの為のもの。実はルーカスの為のものでもあるが。


 婚約破棄を望んでいるというアルバートには、どうやら想い人がいるようで。

 それが誰なのかを確かめる為の計画である。


 どうしてそんな計画にカリナが加担しているのか。

 

 それは、ほんの少し前にカリナから提案したことである。

 その提案は、カリナなりのルーカスへのお詫びと感謝の気持ちであった。






 婚約破棄という言葉のショックからリンダが立ち直った後。

 カリナはリンダの為に、三階の住居から紅茶を運んできた。

 店のドアには「休業日」の札を急遽かけた。


 話が終わった後もリンダの泣いた目はまだ赤く。

 もう少し落ち着いてから。そう思ってのことだった。


 リンダが普段飲んでいる紅茶の三分の一、いやそれほどの価値も無いかもしれない紅茶だ。

 口に合うかとカリナはドキドキとしていたのだが。


「美味しいわ。紅茶を飲むにしても、いつも気を張っていて。将来の王妃なら粗相なんてあり得ないと気を張って飲んでいたの。ここならリラックスして飲めるわ」


 その言葉にカリナはほっとした。

 と、同時に彼女はとても健気だと思った。


「もし、お疲れになったらいつでもここへお茶を飲みに来てください」


「ありがとう。でも、宮殿とはそういう所なの。先ほどのように軽口を叩いて笑い合う。そんなことは本当に久しぶり」


 会話をするうちに、リンダの口調は砕けたものになった。

 どうやらこれが、本来の彼女らしい。


「それは、大変ですね」


「政略結婚とはいえ、自分が望む道だもの。あぁ、今日、カリナ様とお話しできてよかった。今日、お話しできなければ、わたくし、今のような気持にはなっていないはず」


「大したことはしてませんよ」


「実はね、お兄様がこのお店に何度か来ているのは知っていたの。だけど仕事上、どうしても調査に来る必要があって。今日は突然、ごめんなさい。かなり厳しいことも言ってしまったわ」


「謝らないでください。仕事なのですから」


「そう言ってくれると気が楽になるわ。でも、占いに興味が無いお兄様が何故、急に占いを信じるようになったのか不思議に思っていたけど、カリナ様のお人柄だったのね」


「そんな、人柄だなんて‥‥‥。あの、ルーカス様は占いに興味はなかったのですか?」


「あら、お話ししていない? お兄様は妖精が好きなのよ。子どもの頃に妖精に会ったことがあるのですって。最初は看板に惹かれ、このお店に入ったそうよ」


「ルーカス様も妖精に……」


 やっぱり。

 カリナは驚きながらも、そう思った。


「家族は皆、夢でも見たと否定するのだけど。わたくしは、お兄様の言うことを信じているわ」


「妖精はいますよ。私も会ったことがあるのですから」


カリナの言葉にリンダは「そうよね」と言い、微笑んだ。


(驚いたわ。妖精に会ったことがあるなんて。でも、やっぱり彼は占いには興味はない。だけど、私の為に忠告に店に来てくれたのね。では、国中の占い師に占ってもらったと言うのはただの噂)


 前婚約者を占いで見つけたのは、占い通りの女性との出会いのタイミングが合った。そしてプロポーズした。その程度のものだったのだろう。

 

 婚約破棄の話の前に薄っすらとカリナの心に浮かんだ結論。

 それが、色濃くなった。


「そうそう、わたくし、レオナルド商会のパーティでカリナ様とお話しできなくて残念に思っていたの。でも、あの日、お話しできなくてよかったのだわ」


「あのパーティにご参加を?」


「えぇ。あのパーティなら、お話しして不誠実な答えを聞いた時や前と同じように大げさに宣伝行為を行っていた場合、レオナルド商会にクレームが出せると思っていたの。もちろん、営業許可の取り消しの判断は別だけれど」


「そうだったのですか」


「実はね、参加者からのクレーム確認後に全額分の報酬を支払うというのは、わたくしのアイディア。宣伝文句の取り締まりの強化につながるでしょう?」


「はい。確かに。気は引き締まりましたね」


「レオナルド商会とは懇意にしていて相談を受けたから、提案をしたのよ。厳しいお兄様も良いアイディアだと言ってくれたわ」


「リンダ様が発案者でしたか。どうりで厳しいと」


「あら。私が厳しい女だと?」


「そうですね」


 フフフ、と二人はまた笑い合った。


(リンダ様。本当はとっても話しやすい方なのね。オリビアに少し似ているかも)


 そこでカリナは、あっと声を上げそうになった。

 

(今頃わかった。あの日、エドさんが言っていた厄介な人。それは、リンダ様のこと。つまり、ルーカス様はリンダ様がパーティに来ると知っていたのね)


 ルーカスはカリナを脅していない。

 カリナの出した結論は、ここで確実なものになった。


(レオナルド商会のパーティの前の言葉も、ダメ押しなんかじゃなかったのよ)


 ルーカスは、報酬の後払い金のことを知っていた。

 だから、こうカリナに忠告をしたのだろう。


「余計なことを言ってはいけない」

「カリナ嬢が先日の答えを忘れなければクレームは出されないはずだ」

「クレームを出されて困るのは君だよ」


(占いが当たる、結果に責任を持つなんて余計なことは言ってはいけないよ。質問されても、自分に答えたように答えればリンダ様はクレームを出さないと。クレームを出されたら報酬がもらえなくて困るよ。そんな風に心配を‥‥‥)


 カリナから力が抜ける。


 脅されていない。

 そう、意識したら急に気が抜けたのだ。

 

 外れた占いを当たりにする。

 できもしないことに頭を悩ませ、思った以上に気が張っていたのかもしれない。


 手にも上手く力が入らず、カリナは慌ててティーカップを置いた。


(でも、ルーカス様が私に忠告する為だけに店に来たのは、何故?)

 

 結論が出ている今、これがルーカスについてのカリナの最後の疑問になるのだろう。


(彼が最初に「パーティのことなんだ」と言ったのは、きっと、パーティのことで忠告だ。そういう意味だったのね。それなのに私、占いを始めて。だから話がチグハグになってしまった)


 カリナは自分が一方的に占いを始めたことを思い出した。


(あの時、「運命の花嫁を探せ」と頼まれてはいないもの。占いをしてと言われたこともない。あぁ、完全に勘違いね)


 もし、ルーカスが店に来なければ。そして、カリナに忠告してくれていなければ。


 何も知らないカリナはこう答えていたに違いない。

 「運命の花嫁? あの人、店に来ないから探していませんよ」

 「宣伝文句? 何のことでしょう」なんて。

 

 そして、「やっぱり、偽りで集客を」「宣伝文句の意味を理解していませんね」とバッサリとリンダに言われてしまっていたのだろう。


(私、ルーカス様に何か失礼なことを言っていないかしら。本当なら、感謝をしなくては。今日の調査に合格したのはルーカス様のお陰なのに)


 考えこんでいるカリナをリンダが覗き込む。


「カリナ様? 大丈夫ですか? なんだか様子が‥‥‥」


「え、えぇ。何でもありません」


 その時。

 ドンドンと店の扉をノックする音が響いた。

 ドアは乱暴にガチャリと開かれた。


「カリナ嬢、大丈夫か!」


 そう叫んで入ってきた男。


「お兄様!」

「ルーカス様!」


 それはルーカスだった。

お読みいただきありがとうございました。

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