表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/33

10.出張占い(3)

 紙切れを拾い上げたルーカスの目に、その紙に書かれた文字が飛び込む。


 その時のルーカスの顔。

 それを見た者は、彼を鉄仮面だなんて呼ばなかったに違いない。


 彼の顔は、彼にかけられたワインの様に赤かったのだから。

 ただ、一瞬のことではあったが。


 すぐにルーカスは、メモを丁寧にたたみ、自分のズボンのポケットへと入れた。


 その時、彼にワインをかけた二人は我に返り、カリナと同じように拭くものを取りに行っていた。

 横の占い師からは仕切り板のせいで彼の顔は見えなかった。

 

 だから誰も、彼の顔の変化には気が付かなかった。


 カリナだけはその名残に気が付いたのだが‥‥‥。


「タオルを借りて、濡らして来ました」

 

「ありがとう。ハンカチでも少し拭き取ることができたし、あとは自分でできる‥‥‥」

 

「いえ、お拭きします。顔にまだ、ワインがついていますよ。ご自身ではどこについているかわからないでしょうから」


 カリナはルーカスを占い用の椅子に座らせ、ワインを拭き取った。

 

(あら、ルーカス様の頬、少しだけ赤みが残っている。やっぱりハンカチじゃ上手く拭き取れなかったのね)


 カリナはルーカスの頬を、ごしごしと拭いてしまったのだった。

 





 パーティは無事に終了した。


「あぁ、やっと終わった。結構忙しかったわね」


 運命の花嫁の件も、幸か不幸かワインのお陰でうやむやになって良かったわ。

 そう心で呟き、カリナは片づけを始めた。


 ワインの件以外は大きなトラブルもなく、カリナは上機嫌だった。


(さすがにルーカス様もクレームは出さないわよね。それどころじゃなかったし。それにしても服にシミが残らなければいいのだけど。グリーンティア男爵家ならワインのシミは大目玉を食らうわ)


 なんて考えながら、カリナは片づけを終えた。


 その時のこと。


「カリナ嬢、今日は本当にありがとう。君のお陰で、恥をかかずに済んだよ」


「ルーカス様‥‥‥」


 ルーカスは誰かから借りたのか上着を着替えている。


「ローブは後日、洗って返す。仕事に差し支えはないだろうか?」


「替えのローブはありますが‥‥‥。いいですよ、今、返していただけば」


「いや。洗って返す」


 カリナにはルーカスが照れているように感じた。

 先ほどからカリナと目を合わそうとしないからだ。


(どうしたのかしら? いつもは表情はなくても、目線を合わせて話してくれる人なのだけど。ワインの件で、恰好が悪いところを見せたとでも思っているのかしら?)


 ルーカスはふぅっと息を吸い、言った。


「カリナ嬢は、喜劇を観るのが好きなんだね?」


「はい‥‥‥」


 急に何を言いだすのだとカリナは首を傾げた。

 確かに喜劇を観るのは好きだ。何故、彼がそれを知っているのだろうか。


「では、今日のお礼に喜劇のチケットを贈ろう。最近、できた喜劇専門の劇場へ一緒に行かないか?」


「えっ、お礼だなんて。そんな大したことはしていません」


 答えながら、そうかとカリナは思った。

 

 カリナのすぐあと、ルーカスにワインをかけた男女が戻ってきた。

 二人はしきりにルーカスに詫びていた。


 離れたところではあったが、三人の姿がカリナからは見えた。

 客との会話が、もしかしたらところどころ聞こえていたのかもしれない。


 その客は「彼女にプロポーズが成功するか」を占って欲しいと言った。

 カードが示した答えは「成功する」「場所は劇場か芝居小屋」だった。


(あの時、彼女が喜劇が好きだから喜劇を観た後にプロポーズすると彼は言った。私が「私も喜劇が好きですよ」と言ったの、聞こえていたのね)

 

 その時からお礼を考えていたのなら、ルーカスはとても律儀な人だ。


「占い店の次の休みの日に一緒に行こう。是非、お礼をさせてくれ」


 ルーカスは再度言う。

 その言葉は強く、断れそうにない。

 

 何で、あなたと。

 運命の花嫁を見つけろと言われるのが分かっていて、行きたいわけがない。

 カリナはそんな言葉をぐっと飲み込んだ。


「わかりました。逆にお気を使わせてしまい申し訳ありません」


 仕方なしにカリナは答えた。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ